神の左・山中慎介が語る西田凌佑の「圧倒的な武器」 気がついたら相手は負けている

塩畑大輔

相手が術中にハマる絶妙な距離感

相手と距離を保ちながら一瞬でパンチを浴びせる西田凌佑 【写真は共同】

 空間の支配者。

 山中さんは西田のことをそう評した。

 だが、ほかでもない山中さんこそが、終始有利な距離感を保って戦うことで世界の頂点に君臨し続けた「支配者」だった。

――同じサウスポーとして西田選手をどうみますか?

 サウスポーというだけじゃなく、スタイルもかぶるところがあると感じています。僕も基本的には自分が距離を支配していました。そういう意味で、西田選手タイプだったと思いますよ。戦う相手からしたら遠いと感じる距離をずっと保って、相手との間にかざしておいた右手の後ろから、左ストレートを上下に、という。

 同じスタイルであるというなら、より考えさせられる。

 山中さんの「神の左」のような武器があれば、西田は鬼に金棒なのではないだろうか。

 しかし、山中さんは静かに首を振る。

「いやいや、もう十分あるじゃないですか、圧倒的な武器が」

――神の左のような代名詞的なパンチはありませんが。

 僕は西田選手と同じようなスタイルではありましたが、彼ほどまでにはバランスがよくなかったとも思っています。その分、左の一発に力を込めていて。それでより、バランスを崩して距離を保ち切るのが難しくなる、というのはあったんです。

――武器を加えるだけが進むべき道ではない?

 そうですね。僕と同じように、一発に力を込めるようなことを西田選手がやってしまうと、あの絶妙なバランス、距離感が崩れてしまう。それはもう、違うボクシングになってしまっていますよね。彼はすでに「やりずらさ」という圧倒的な武器を持っています。相手が誰であろうが、やり方を封じ込めてしまう。これ以上、何が必要なのか、というレベルの武器だと僕は感じています。

「彼だけの武器」を大事に

12月15日(日)の初防衛戦に向けて調整する西田凌佑 【写真は共同】

 神の左と比肩する武器。

 山中さん本人をして、そう言わしめる。

 西田の「空間支配力」は、それほどの価値を持つものということだ。

――まだその価値が世に広く知られてはいない?

 そうですね。相手を封じ込めることのすごさ、面白さは、相手が強ければ強いほど際立つものだと思います。西田選手はこれまでも、プロ4試合目で元WBC世界フライ級王者でWBOアジアパシフィックバンタム級王者の比嘉大吾選手に挑戦して、下馬評を覆して勝ってタイトルを取りました。5月に世界王座を獲得した際も、王者ロドリゲスがかなり優位とみられていましたが、やはり相手を封じ込めて勝ってしまった。強い相手に何もさせなかった、というところで評価を高めてきた選手なので、これからがさらなる見せ場なんだと思います。

――ステージが上がれば上がるほど西田選手の武器が際立つ?

 はい。西田選手はこれからも強い選手とやりたいと宣言していますが、それは自分は相手が強いほど輝けるというのをよくわかっているからだと思います。バンタム級は西田選手だけでなく、堤選手、武居選手、そして中谷選手と、4団体すべて世界王座を日本人が保持しています。さらには那須川天心選手、元王者の井上拓真選手などもいる。世の中で広く注目される日本人同士でのハイレベルな世界戦、王座統一戦が、これからどんどん繰り広げられていきます。その中できっと、西田選手だけの個性、価値が世に広まっていくのではないでしょうか。

 そうしたバンタム級の世界最高峰のステージに立つために。

 12月15日のアンチャイ・ドーンスア戦は、とても大事な試合になる。

――初防衛戦は鬼門、という言われ方もされます。

 よくそう言われますよね。僕の場合は初の防衛戦で、ビッグ・ダルチニアンという自分よりもはるかに知名度があって、強いとされている選手と対戦しました。なので、王座を守るというプレッシャーがなくなって、挑戦するつもりで戦うことができた。結果的には連続KO勝利記録が9で途絶えることにはなったのですが、試合内容としては人生の中でも特にいいものだったと今でも思っています。

――今回の西田選手の防衛戦はどうですか?

 自分の初防衛戦と比べると、今回の西田選手の試合は難しさがあるかもしれません。今後のバンタム級での展開なども含めて期待をされているので、防衛しないといけないというプレッシャーは、僕の時とは比べようもないほど大きいんじゃないかと思います。王者としては試合内容も大事、というのは本人も感じているでしょうけど、強打強打で勝ち切るタイプではないので、その意味でも相手が格上だった僕の防衛戦とは違う難しさがある。

――どう戦ってほしいですか?

 繰り返しになってしまいますが、西田選手は王座統一戦のような試合でこそ強さが際立つ選手だと思うので、だからこそ今回は本当に大事な試合になると思います。本人は王者としてファンの皆さんの期待に応えたいと強く思っているはずですし、その気持ちは僕もよくわかりますが、一番よくないのは自分のスタイルを崩すことです。それを絶対にやっちゃいけないタイプの選手。その意味では、ものすごく力のあるトレーナーさんがサポートしているので大丈夫だとは思いますが、とにかく焦ったりはしないでほしいと思います。

――自分らしさを貫いてほしい?

 そうですね。僕はチャンピオンとして、自分に言い聞かせる意味で、弱みをみせるような発言は絶対にしないようにしていました。同じ時代で言えば、亀田興毅くんはもっと強気の発言をしていたし、今の時代はさらにSNSなども使ってみんなうまく発信して、チャンピオンとしての自分を演出して業界を盛り上げていると思います。でも、西田選手はこれまでは強気の発言をするようなタイプではなかったですよね。キャラを変えるタイプでもないとも思うので、そういうところも含めて自分のスタイルでやってほしいと思います。まあ、急にキャラが変わったら、それはそれで面白いんですかね? でもやっぱり、彼には彼だけの個性、武器があるので、それを大事にして歩んでいってほしいです。

U-NEXTライブ配信予定

【U-NEXT】

<ライブ配信>
12月15日(日) 15:00 配信開始 / 15:15 開演予定

<見逃し配信>
見逃し配信準備完了次第〜1月14日 23:59

メインイベント
IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
西田 凌佑 vs. アヌチャイ・ドーンスア(タイ)

セミファイナル
IBF世界ライトフライ級 挑戦者決定戦 & 東洋太平洋同級タイトルマッチ
タノンサック・シムシー(タイ)vs. 谷口 将隆

第5試合
WBOアジアパシフィックミドル級タイトルマッチ12回戦
国本 陸 vs. 竹迫 司登

第4試合
OPBF東洋太平洋バンタム級 暫定王座決定戦
ケーネス・ラバー vs. デカナルド闘凜生

第3試合
日本スーパーフェザー級挑戦者決定8回戦
原 優奈 vs. 砂川 隆祐

第2試合
日本ユース・バンタム級タイトルマッチ8回戦
金城 隼平 vs. 具志堅 日向

第1試合
132lbs契約8回戦
ジョー・サンティシマ(フィリピン)vs. 一道・宏

※対戦カードは直前まで変更する場合があります。

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著者プロフィール

1977年4月2日茨城県笠間市生まれ。2002年に新卒で日刊スポーツ新聞社に入社。サッカーの浦和レッズや日本代表、男子ゴルフ、埼玉西武ライオンズなどの担当記者を務める。2017年にLINE NEWSに移籍し、トップページの編成やオリジナルコンテンツ企画を担当。note、グノシーをへて、2024年7月からU-NEXTに所属。

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