神の左・山中慎介が語る西田凌佑の「圧倒的な武器」 気がついたら相手は負けている
5月4日(土)のエマヌエル・ロドリゲス戦。相手の懐に飛び込みボディを攻める西田凌佑 【写真は共同】
絶妙な距離感を終始保てるか
神の左・山中慎介氏が試合を展望 【写真提供:U-NEXT】
かつて「神の左」と評されたこぶしに、言葉とともにグッと力がこもる。
12月上旬、U-NEXT本社オフィス。
元WBC世界バンタム級王者の山中慎介さんは、同じ階級の後輩について熱っぽく語りだした。
西田凌佑。
今年5月にエマヌエル・ロドリゲスに勝ち、IBF世界バンタム級王者の座についた。12月15日には初の防衛戦を控えている。
現在のバンタム級は、日本勢が世界を席巻している。
主要4団体の王者はすべて日本人。中谷、堤、武居…。いずれも高いKO率を誇り、華のある戦いぶりでも階級を盛り上げている。
同階級では、あの井上尚弥も数々のKO劇で世界を沸かせた。
そして山中さん。強烈な左ストレートを武器に、世界王座を12回連続で防衛してみせた。
一方、西田のスタイルはまったく違っている。
ここまでのプロ9戦で、KO勝利はデビュー戦の一度のみ。その結果だけを材料にすれば、地味な王者とみえなくもない。
だが、ほかでもない山中さんが、はっきりと言う。
「僕が左の一発に力を込めたのは、西田選手ほどのことができなかったから、かもしれません」
――西田選手の初の防衛戦の相手は、タイのアンチャイ・ドーンスア選手です。
体が強くて結構アグレッシブに攻めてくるなという印象がありますね。パワーはあるんじゃないかなというふうに感じます。
――どのような試合展開が予想されますか?
西田選手は絶妙な距離感を終始保つスタイルです。相手の方に突き出した右手をうまく使って距離をとって、要所でタイミングよくパンチを打ち込んでいく。そうやって相手に最後まで、自分のリズムでボクシングすることを許さない。気づいたら終わっているじゃないですけど、相手が力を出せないまま試合が終わる。そういう力を持っている選手だと思っていますね。
――派手なKOと比べると、見ている側がわかりにくいかもしれません。
確かにそうかもしれません。力が出せない、という感覚は、向かい合った相手が一番感じるものです。画面で見たり、会場で見ていて感じるよりもはるかに、相手はやりづらいと思うんですよ。なんで相手は手を出せないんだ、もっと強引に行けばいいだろうっていうふうに見える場面もあるかと思うんですけど、やっている本人はどうすることもできないっていう。それぐらいのこの絶妙な距離感をとりつつ、自分だけは的確にパンチを当てる。そういうあたりは西田選手は本当に優れています。
――そうした自分に有利な距離感がとれる条件とは?
ひとつは無駄な動きがないこと。ほんのちょっとのバックステップで、正確に理想の距離を保ち続ける。西田選手はKOが少ない分、フルラウンドをこの距離感で戦う必要がある。少しでも集中を切らしたり、メンタルな緩みが出たりすれば、理想の距離を保てなくなる。それを最後までやらないといけないので、辛さはあるでしょうけど、無駄な動きを排除することで最後までしっかりと理想の距離を取り続けられます。
――距離を取るだけだと相手に圧力はかけられないのでは?
それはありますね。ただ、西田選手の場合は動きの無駄のなさが「いつ、何をしてくるかわからない」という怖さ、読みにくさにつながっているから、より相手がやりにくいんだと思います。左のパンチが出てくるタイミングも読みにくければ、上下の打ち分けもうまいのでその点でも出方がわかりにくい。もっと言えば、ロドリゲス選手に勝ってタイトルを取った試合では、予想に反して相手の懐に飛び込んでボディへの強打でダウンを取ったりもした。あれを一度、タイトルマッチで見せたことは大きい。これから戦う相手は、距離を詰めての強打までありえる、という強いイメージを持っちゃう。距離を取るだけじゃなく、実はパンチも強い。そこも警戒しないといけないから、戦いにくいですよね。
――そういう話を聞くと、膠着状態も違う見え方になります。
まさに。膠着している展開になるというのは、相手が西田選手に困らせられている証だと見ることはできると思います。試合の流れ、そして相手との空間を支配しているということかもしれません。彼にはそういう力があります。