9シーズン前の「奇跡の優勝」の余韻 三笘を愕然とさせたレスターの劇的な同点劇
冷静な三笘でも感情的に…
三笘は相変わらず好調で、特に前半は見せ場を何度も作った。だが、守備固めの交代でベンチに下がった直後にチームは同点ゴールを許して…… 【写真:REX/アフロ】
嵐の余韻のなか、横殴りの雨を受けながら後半44分までプレーした三笘薫は憮然とした表情だった。
それはそうだろう。レスターは後半41分に、今回の出場メンバーのなかで唯一奇跡の優勝を経験している37歳のジェイミー・ヴァーディが1点を返すまで、全くの音無しだった。
記者席で見ていても、レスターがゴールを取るイメージは全く湧かなかった。ブライトンのプレスが厳しく、ホームチームの攻撃は寸断され続けた。
三笘のチームが完全なる格上感を示して試合を進めた。だからこそ、前半37分に右サイドバックのタリック・ランプティがスーパーゴールを決めたのに続き、後半34分にヤンクバ・ミンテが2点目を追加した瞬間、ブライトンの勝利が確定したと思った。
ところがこのスタジアムには魔物がいた。
「僕自身も責任はあると思いますし、最後の締め方、チームとしても責任はあると思いますし。いろんな選手に責任があると思いますけど、もう受け入れるしかないですし。こういう試合を勝てないのはもう、わかってましたけど、やっぱり何度も繰り返してるんで、これは問題です」
絶対に勝てると思った試合を終了直前に2点を奪われてドローにされたら、冷静な三笘でも多少は感情的になるのだろう。それはこのコメントにも表れている。
ブライトンが勝てば勝ち点を26まで伸ばして5位をキープできていた。しかも欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内の4位マンチェスター・シティに1ポイント差まで肉薄していた。移籍の噂が絶えない三笘だが、もしもブライトンが昨季のアストン・ヴィラのような存在になって、来季の欧州CL出場を果たしたら、来季もイングランド南端の浜辺の街にとどまるかもしれない。
しかしレスターに追いつかれて、勝ち点を3から1に減らして順位は7位。5位から10位までが2ポイント差のなかでひしめき合う、欧州戦出場権争いの真っただ中に放り込まれてしまった。
失点につながったプレーには「次あっても脚を伸ばす」
後半41分のヴァーディの追撃弾は、三笘自身も言うようにブライトンにとってはアンラッキーな失点でもあった 【Photo by Michael Regan/Getty Images】
ボールがイレギュラーしたように見えたという記者がそう尋ねた。しかし三笘は厳しい表情で、「いや、してないです。してないです」と“してないです”を2度繰り返すと、「空いてるのがファーかなと思ってたんで、なかなか抑えることができなかったっすね」と話した。右隅のトップコーナーを狙いすぎたことがシュートを外した原因だった。
またレスターが反撃の狼煙(のろし)を上げる一撃となった後半41分のヴァーディの得点は、三笘の微かなタッチも影響した。相手のキックをブロックにいって、ボールに触ったが、そのために軌道が変わりヴァーディの足元へポトリと落ちた。
しかしこのプレーに関して三笘は「なかなかアンラッキーでしたけど、次あっても脚を伸ばすと思います」と語って、やるべきことをやったというスタンスを崩さなかった。そして「後で見ないとわかんないですけど、もっとポジショニングだったり改善点はあると思いますけど。うーん、そういう日だったと思います」と続けて、それは筆者も三笘が正しいと思うが、結果的に失点につながった自身のプレーを気にする素振りは見せなかった。
三笘は前半、素晴らしいプレーをしていた。特に前半15分、20分と立て続けに放ったカウンターの起点となるパスに、日本代表MFのサッカーIQの高さを感じた。味方のスピードを最大限に活かす、流れるようなパスだった。これはウイングバックの経験が活かされたプレーだと思う。自陣に引きこもったところからでも、しっかり攻撃の起点となるプレーができる。本当に視野が広い選手だと思った。
ヴァーディに1点を返されても、絶対に勝てたはずの試合の後半アディショナルタイム1分だった。三笘の代わりに守備固めで出場したDFイゴールが、何を思ったか自陣の左サイドからピッチ中央にドリブルでボールを運び、これをステフィー・マビディディに奪われた。ここから左に開いたヴァーディを経由して、ゴール前に走り込んだボビー・デ・コルドバ=リードの足元にきれいな折り返しのパスが入って万事休す。ありえない失点で同点に追いつかれ、ブライトンが貴重な勝ち点2を試合終了間際に落とした。
三笘はこの衝撃的なドローに対し「切り替えるしかない」と話したが、それはそう言うしかないだろう。しかしながら、三笘をはじめ愕然(がくぜん)とするブライトン陣営を尻目に、レスターが試合終了間際に覚醒し、2点を奪った同点劇を目の当たりにした筆者は、奇跡の優勝を果たした9シーズン前のミラクルの余韻を感じずにはいられなかったのである。
(企画・編集/YOJI-GEN)