現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

ローラーコースターのような11月を経て、評価急上昇の久保 それでも現時点で移籍は考えにくいと判断する根拠

山本美智子

ELのアヤックス戦で1得点・1アシストの大活躍。乱高下の11月を最高の形で締めくくった久保に、メガクラブが再び強い関心を示し始めている 【Photo by Cesar Ortiz Gonzalez/Soccrates/Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月1回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第3回目のテーマは、激動の11月を経て評価が急上昇した久保の去就について。リバプールやレアル・マドリーなどのメガクラブが獲得に乗り出したとの報道もあるが、現地在住のライターは再燃する移籍の噂をどう受け止めているのか。

地球上でも最も価値のあるアジア人選手

 勢いよく駆け上がったかと思えば、一転して急降下する様子を「ローラーコースターのようだ」と例えるが、まさに2024年の11月は、レアル・ソシエダにとっても、久保建英にとっても、ローラーコースターのような激動の1カ月だった。

 11月の初戦、アウェーのセビージャ戦(第12節/2-0で勝利)で、久保はほぼ1カ月ぶりのゴールを決めた。9月28日(現地時間、以下同)のバレンシア戦以来となる今季2得点目だ。個人技で奪った先制ゴールについて久保本人も、「勝利を呼び込めたし、10点(満点)ではないけれど8点」と高く評価している。

 幸先の良いスタートを切った久保は、4日後のヨーロッパリーグ(EL)、ビクトリア・プルゼニ戦でもスタメン出場を果たす。しかし、ゴールには絡めず60分で途中交代。チームも後半のアディショナルタイムに決勝点を許し、1-2で敗れた。久保にとって、ソシエダでの公式戦通算100試合目のマイルストーンを勝利で飾ることはできず、試合後にはこんなコメントを残している。

「(イマノル・アルグアシル)監督からも、『もうこのチームに来て100試合なのだから、(中心選手として)もっとゴールを決めなければいけない』と言われたし、僕もそれに同感だ」

 そんな久保のフラストレーションが爆発したのが、11月10日のホームでのバルセロナ戦(第13節)だった。周知の通り、ソシエダが前評判を覆して首位バルサを1-0で撃破。久保はマッチMVPに選出されるハイパフォーマンスを披露した。

 特大のインパクトを残した久保は、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)、ダニ・オルモ(バルサ)、アルナウ・マルティネス(ジローナ)、ジュリアーノ・シメオネ(アトレティコ・マドリー)とともに、11月のラ・リーガベストプレーヤーにノミネートされる。

 最終的にヴィニシウスが受賞したものの、久保の評価は再び急上昇。地元有力紙の『エル・ディアリオ・バスコ』は、《クボ、地球上で最も価値のあるアジア人選手》との見出しを打ち、彼の市場価値が現時点でアジア人サッカー選手トップの5000万ユーロ(約79億円)であることを報じた。ちなみにこれは、バイエルン・ミュンヘンのキム・ミンジェ、トッテナムのソン・フンミン、ブライトンの三笘薫を500万ユーロ上回る額だ。

バルサ戦の出来とはまさに雲泥の差

バスクダービーでは見せ場を作れず、60分で交代を命じられた。長距離移動を重ね、日本代表としてW杯予選を戦ったダメージが残っていたのは間違いないだろう 【Photo by Cesar Ortiz/Soccrates/Getty Images】

 その後、インターナショナルマッチウイークを挟み、11月24日にはアスレティック・ビルバオとのバスクダービー(第14節)に臨む。敵地サン・マメスでの伝統の一戦にスタメン出場した久保だったが、しかしまたしても60分に交代を命じられている。

《タケクボが再び、内容の悪い試合の割れた皿の代償を払う》

 これはスペインのサッカー専門サイト『エル・デス・マルケ』が掲載した記事のタイトルだ。「割れた皿の代償を払う」とはスペインでよく使われる言い回しの1つで、例えばバルやレストランでお皿が割れたら、その責任の所在をはっきりさせ、はっきりしない場合も、誰かがその責任を取らなければならないという、世の不条理を嘆く表現。平たく言えば、「不当に責任をなすりつけられる」ことを意味している。

 地元の有力紙『ディアリオ・デ・ギプスコア』紙が、《近年では記憶にないほど低レベルのバスクダービー》と辛辣に批判したほどの凡庸な一戦は結局、アスレティックが1-0で制したが、自身がゴールを決めることの重要性を常々口にしている久保は、それが不当であろうとなかろうと、チームが無得点に終わった責任を痛感していたに違いない。

 それにしても、バルサ戦の出来とはまさに雲泥の差だった。そこで思い出したのが、数ヵ月前にソシエダの番記者と交わした会話だ。

「代表戦から帰ってきた後の久保のパフォーマンスが落ちるのは、もはや恒例だよ」

 彼はため息混じりにそう呟いた。

 代表に招集されるのは、サッカー選手にとっての名誉に違いない。しかしここスペインにおいては、選手が最優先すべきはクラブチームであり、代表は二の次というのが共通の認識なのだ。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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