横浜FM復調の鍵は「コンバート」にあり 大怪我を乗り越えた小池龍太がボランチで切り拓く新境地

舩木渉

小池龍太は浦項スティーラーズ戦にボランチとして先発出場し2-0での勝利に大きく貢献した 【(C)2024 Asian Football Confederation (AFC)】

 横浜F・マリノスは11月27日に行われたAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)リーグステージ第5節の浦項スティーラーズ戦に勝利し、公式戦4連勝を飾った。今季2度の公式戦4連敗も経験しているチームがシーズン終盤に復調を遂げられたのはなぜだろうか。

 11月は浦項戦までの段階で4試合“しか”なかった。1カ月に6~8試合をこなすのが当たり前だったマリノスにとって、これだけ時間的な余裕を持って試合に向けた準備を進められたことは、コンディションや戦術面の改善に大きく影響している。ただ、復調の要因はそれだけではないような気がしている。ある選手の「コンバート」が始まった時期とチームとしての結果が上向き始めたタイミングが符合しているのである。

マリノス4連勝の鍵は「コンバート」にあり?

 10月13日に行われたYBCルヴァンカップ準決勝第2戦で、マリノスは名古屋グランパスに2-1で勝利した。残念ながら2戦合計スコア3-4でルヴァンカップは敗退となってしまったが、そこからの9試合は5勝3分1敗と大きく勝ち越している。

 名古屋戦の後半途中から天野純に代わってピッチに立った小池龍太は、本職の右サイドバックではなくダブルボランチの一角を任された。その後、マリノスは植中朝日のゴールで1点を返し、2戦合計の勝負では負けたものの90分間の試合では勝利することができた。

 以後の試合では小池のボランチ起用が続いている。10月22日にアウェイで行われたACLEリーグステージ第3節の山東泰山戦にボランチとして先発出場した小池は、渡辺皓太と交代する77分までプレー。マリノスは後半アディショナルタイムの92分に追いつかれて2-2のドローとなったが、勝利目前まで迫った。全体的な印象としては十分に勝ち点3に値する内容だった。

 右膝の大怪我が完治するまで約1年半を要したこともあり、まだ週2試合ペースの連戦でフル稼働するまでには至っていない。それでも小池がボランチとして先発した試合は山東泰山戦(△2-2)、浦和レッズ戦(△0-0)、ジュビロ磐田戦(◯4-3)、そして浦項戦(◯2-0)と一度も負けていない。ちなみにマリノスが最後に敗れた試合、天皇杯準決勝のガンバ大阪戦に小池は帯同していなかった。

 浦項に勝利した後、小池にボランチとしての手応えについて聞くと「僕自身に手応えはあんまりないです」とあっさりかわされてしまった。しかし、ジョン・ハッチンソン監督から与えられた役割に対して並々ならぬ覚悟で向き合っていることは伝わってきた。

「ジョンが決めたメンバーの中で自分のタスクをこなすのが全てですし、今回も怪我人が出た中で(ボランチでの先発出場は)急きょ前日に決まりましたけど、本職の選手たちが出られない分、自分がそこで出る意味というのは結果で示さなきゃいけない。それが(結果に)表れたのはすごく良かったなと思っています。やっぱり勝って納得させなきゃいけないですし、それが自分の役割なので。今日は勝てたことと、少しでもチームの力になれたのであれば、自分の中の経験やチームを1つにする力は証明できたのかなと思います」

 浦項戦の小池は「獅子奮迅」という言葉がぴったりな圧巻のパフォーマンスだった。中盤の底でテンポよくボールに触ってビルドアップを活性化しながら、チャンスと見るや前線まで進出してラストパスやシュートで好機を演出する。味方の動きに合わせて常に最善のポジションを探し続け、前に出たサイドバックのサポートやカバーを怠らず、必ず危険なスペースを埋めている。時には元々のポジションであるサイドバックのような追い越しで仲間のためにスペースを生み出す。

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リュウのことを話したら、褒め言葉しか出てこない

技術レベルの高い小池龍太は複数の相手選手に囲まれても簡単にはボールを失わない 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 攻撃から守備に切り替わると瞬時に相手選手へ激しく寄せ、もし戻りきれていない味方がいればその選手が空けているスペースも埋めている。ピッチ上に何人いるのだろうと感じるくらい、蛍光イエローのスパイクを履いた背番号13の存在感は際立っていた。

 もともとサイドバックながら中盤に絞って組み立てなどに関わる“偽サイドバック”と呼ばれるような動きを実践してきたとはいえ、常に360度の視野を確保しなければならないボランチに適応するのは決して簡単ではないはず。小池は過去にもボランチとして公式戦に出場した経験を持っているが、大怪我による1年半ものブランクがあったうえで、即座に新しいポジションを自分のものにできたのは、彼のインテリジェンスがあってこそだろう。

 チームメイトたちも安定感抜群のパフォーマンスを続ける小池に対して賛辞を惜しまない。同じサイドバックを務める永戸勝也は「もともと運動量のある選手なので、それが右サイドだけではなく360度動けるようになって、より良さが引き出されている」と述べた上で「長い間離脱していても技術は衰えていないですし、気が利くプレーは彼の良さだと思うので、それが生かされていると思います」と小池のコンバートを好意的に捉えているようだった。

 右サイドで度々コンビを組んできたヤン・マテウスも「リュウのことを話したら、褒め言葉しか出てこないです」とはにかむ。

「クオリティもスキルもすごく高く、本来のポジションではなくても常にチームに貢献しているし、貢献度の高い選手です。すごく頭がいいし、中盤をやるなら技術がなければいけないですけど、彼はその技術を持っています。止める・蹴るの技術が優れた選手だと思います」

 両足とも基礎技術のレベルが高く、それを活かすための賢さや繊細さ、さらにはチームを引っ張る精神的な強さや献身性も併せ持っている。そうした小池ならではの強みはマリノスを普段から追いかけていれば、いわば当たり前に理解している。だからこそ、ヤンは「皆さんはリュウのポジションや特徴をわかっているからこういう話をしていると思いますけど、彼のことを知らずに初めて見たら、『この選手はもともとボランチなんだ』と思うでしょうし、それくらい普通にプレーしています」と相棒のハイレベルなパフォーマンスに舌を巻く。

「彼がサイドバックだろうとボランチだろうと、僕はすごくやりやすいですし、常に僕の動きを見てくれていて、いいパスをくれるので、どのポジションであれ彼とプレーするのはすごく楽しいです」

 そう語ったヤンのように、背番号13のプレーによって恩恵を受けている選手は多い。浦項戦の27分、小池は相手GKのゴールキックをカットしたところからショートパスで味方を動かし、最後は意表を突くクサビのパスをゴール前に入れて西村拓真のビッグチャンスを演出した。

 続く30分にも小池が起点となってチャンスが生まれている。敵陣内の右寄りで右に左にとボールを動かし、相手を少しずつ引き出しながら、その背後に動いた西村へ縦パスを刺した。西村からの落としを受けた山根陸のミドルシュートはGKの好セーブにあってしまったものの、先制の絶好機だったのは間違いない。

 危険なエリアへの縦パスに警戒が強まった40分、今度は小池自らアーリークロスを送り、アンデルソン・ロペスがヘディングシュートを放つ。マリノスが圧倒的にボールを握って試合を進める中、自陣に引き篭もる相手からゴールを奪うために様々な手を尽くして駆け引きをしているのが、プレーの端々から伝わってきた。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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