横浜FM復調の鍵は「コンバート」にあり 大怪我を乗り越えた小池龍太がボランチで切り拓く新境地

舩木渉

ボランチ起用はいつまで続くか

小池龍太はサッカー選手としてのキャリアが終わりかけるほどの大怪我から完全復活を遂げた 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 ボランチとして堅実にゲームメイクしつつ、ラストパスやミドルシュートでチャンスに絡み、全体のバランスを見極めながら味方のカバーやサポートにも走る。1つひとつのプレーにメッセージがあり、周りを動かすリーダーシップもある。喜田拓也や渡辺皓太、山根陸といったボランチを本職とする選手と遜色ないか、もしかしたら彼ら以上に「全部やれる」のが小池なのではないか。そうした姿を最後方のGK目線でどう見えているのか、飯倉大樹に聞くと……。

「全部言っちゃった。正解です。マジで本当にそう思う。今、後ろがうまくいっていてチームの流れが良くなっているのは、リュウが誰かのサポートや誰かの分というのをすごくやってくれているからだと思う。もちろん彼1人(のおかげ)ではないけれども、あいつが前と後ろ、いろいろなものをつないでいるのは確かだから、やっぱり素晴らしい選手だなと。自分がヴィッセル神戸にいた時からいい選手だなと思っていたけど、一緒にやってなおいい選手だなと思います」

 ただ、小池のボランチ起用がいつまで続くのかはわからない。ハッチンソン監督からの信頼は厚く、リーダーシップや戦術理解度の高さ、状況判断の正確性、戦況を的確に読んで次を予測する力などが高く評価されている。一方で飯倉が「サイドバックでやりたい意志をすごく感じる」と明かしたように元々のポジションへのこだわりや、小池が自分なりに設けている基準の高さもある。喜田や渡辺が負傷から復帰すると、早ければ今季中にボランチでプレーすることはなくなってしまうかもしれない。

 それでも筆者としては小池のボランチへのコンバートに大きな可能性を感じている。ボランチは彼の武器をこれまで以上に活かせるポジションであり、科学的な根拠はないが、膝蓋骨骨折という大怪我を負った右膝への負担を減らしてプロサッカー選手としてのキャリアを伸ばすことにもつながるのではないか……と。

 以前、小池にボランチでプレーする際の考え方について聞いたことがある。その時、彼はこう言った。

「僕がボランチに入ることで特に何か変わることはないです。常にマリノスのサッカーを体現するためには、より多く前線の選手にボールを預けること、その選手たちがクオリティを示すことが必要。そこに対するサポートや切り替えの強度はマリノスの方が上回らなければいけない。(自分は)その質で相手を上回っていこうという気持ち、考えでした」

 さらに3週間後、ボランチとしての出場機会が増えたタイミングで身体的な負担やサイドバックとの比較について尋ねると、小池は「試合によっても相手によっても違いますし、一概にどちらの方がキツいか、体の負担がどうというのはない。どちらもキツいというのが正直なところですね」と苦笑いしながら、マリノスのサッカーにおけるそうした「負担」の必要性を説いた。

「自分たちがマリノスのサッカーをして、本来目指すべきアタッキングフットボールをするなら、1人ひとりの身体への負担はかなり大きいです。それを自ら望んでできるかどうかが、その試合のクオリティにつながると個人的に思っていて。

(中略)試合の内容や結果を“楽”にするためには、自分たちがどれだけハードワークをしてキツいことをやり続けられるかどうかなんです。それしか試合の内容や結果を“簡単”にすることはできない。自分はもう一度基準を上げて、自分が持っているもの、自分が求めるものとチームが求めていかなきゃいけないもの、サポーターが見たいものを改めて表現するのが全てだと思っています」

コンバートは可能性を拡げるための挑戦

チームリーダーとしても不可欠な小池龍太。さらなる進化のための挑戦は続く 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

 小池は「完全復活することが全てではない。これからは今まで以上のものを新しい身体で作り上げていかなきゃいけない」とも語っていた。自分の膝の状態とも向き合いながら、常にマリノスの選手であるにふさわしい最高水準を追い求め続ける。ボランチへのコンバートは自分の可能性を拡げるための新たな挑戦だ。

 中盤でのプレーを経験したことで、仮に怪我人が復帰してサイドバックに戻っても新しいプレースタイルを開拓できるかもしれない。もちろん来季以降もボランチとしてピッチに立つ機会が増えるかもしれない。身体的な負担を低くしてキャリアを伸ばすのではなく、よりキツくて難しい道を選びながら進化を続けていこうとするのが実に小池らしい。

「ボランチについては、あんまりよくわかっていないですよ。そこのスペシャリストではないですし、もちろん他の選手がやった方がいいと言う人もいると思います。それでも自分は今できる全てをその試合で出すしかない。そこで『もっとこうした方がいいだろうな』『こうすれば良かったな』というのを1つひとつ自分の中で噛み砕いて次の試合に向かっていく。

 それをサイドバックで長く続けてきたからこそ僕は日本代表まで行けましたし、今はボランチで挑戦させてもらっていて、そこでサイドバックと同じように1つひとつ続けていくことで、そのポジションでも生き残っていけるような選手になれる。やることは変わらないですし、サッカーでポジションというのはスタートのある程度の立ち位置だけなので、相手が嫌がることをこれからも続けていくだけかなと思っています」

 アタッキングフットボールを象徴する選手の1人として、小池の存在は不可欠だと結果が証明している。今回のコンバートを経てさらなる進化を遂げ、マリノスを再び高みへと導く背番号13の姿を楽しみに見ていきたい。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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