保田克也vs.宇津木秀のチャンピオン対決を三代大訓はどう見るか 注目の国内ライト級戦線の行方

船橋真二郎

攻防の幅が広いオールラウンダーの宇津木秀

ワタナベジム時代の三代大訓(左)と宇津木秀(2022年1月18日) 【写真:船橋真二郎】

「誰にでも、このタイプは苦手だな、とか、“ジョーカー”みたいな相手がいるじゃないですか。でも、みんなが認めているように宇津木はオールラウンダーで、攻防の幅、特に攻撃の幅が広いので、多少の不得意はあっても対応できますよね」

 三代はワタナベジム時代の約5年間、宇津木と数えきれないぐらいのスパーリングをした。が、当時はライバルというよりチームメイト。例えば、三代の伊藤雅雪戦の前、宇津木が仮想・伊藤になり、実際にスタイルを似せてパートナーのひとりを務めたのだが、その再現度が高いのだという。

 宇津木自身、「物真似は得意」と言っていたように国内外のさまざまな一流選手――実家の愛猫にマイキーと命名するぐらい敬愛するマイキー・ガルシア(米)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、井岡一翔(志成)など――、「この動き」「この技術」と真似をして、自分のボクシングに取り込んできた。

「それぐらい器用で、なんでもこなせるのが宇津木です」

 14勝中12KOを誇る宇津木だが、一発というより、攻防技術を駆使して、じわじわと理詰めで相手を追い込む。次も宇津木が仕掛け、保田が迎え撃つ展開になりそうだが。

「宇津木次第ですよね。相手のスタイルはこれと分かった上で崩しにいける技量の高さも持ってるし、それに乗らずに別の戦い方でも上回れるぐらい幅が広いのが、宇津木のいいところなので」

 埼玉県所沢市出身の宇津木は、強豪・花咲徳栄高校3年時に出場した選抜で準優勝、インターハイと国体で3位の成績を収めた。平成国際大学時代も全国大会の常連だったが、どうしても手が届かなかったのが“日本一”だった。

 大学を最後に競技から離れるつもりだった宇津木だが、卒業直後の2017年5月20日、東京・有明コロシアムで開催された村田諒太(帝拳)、比嘉大吾(志成)、寺地拳四朗(BMB)が世界挑戦したトリプル戦を会場で観戦。心を動かされる。

 その年の12月、優勝したらプロに行くと自身へのテストを兼ねた全日本社会人選手権を制した。が、いわゆるアマチュア何冠と数えられる主要タイトルではない。

 念願を果たすのはプロ10戦目だった。元日本スーパーライト級王者の鈴木雅弘(角海老宝石)との日本ライト級王座決定戦に9回TKO勝ち。だが、そこから2戦連続TKO防衛で着実に評価を高めた宇津木に落とし穴が待っていた。仲里周磨(オキナワ)に3回KO負けで王座から陥落。

「初めて形になった日本のベルトに対する思い入れが強かった」と宇津木は振り返る。真面目さゆえに「チャンピオンとして」と意識し過ぎ、過度なプレッシャーを背負っていた。ベルトを失って、そんな自分に気づかされた。

 今年7月、東洋太平洋王者となっていた鈴木に5回TKO勝ち。一度、勝ったことのある相手とのベルト奪還をかけた一戦。余計なプレッシャーになりそうだが、ただ目の前の相手に勝つ、と心は定まっていたという。

「勝ちっぷりもいいし、いい意味で貫禄ありますね。宇津木は強いですよ。保田先輩を真っ当に評価して、やっと五分五分ぐらい。だから、普通に楽しみだなって、そういう目で見てます」

三代大訓が口火を切った国内ライト級戦線の行方

三代は「気持ちも上がるし、気が引き締まる相手」と12月7日の丸田陽七太戦に集中 【写真:船橋真二郎】

 三代は今年4月、日本ライト級王座を奪取。宇津木からベルトを奪った王者の仲里を約6年半ぶりの再戦で返り討ちにした。

 2020年12月に伊藤雅雪に殊勲の勝利をあげながら、その後のキャリアは停滞。さらに上への道筋が見えなくなり、2023年に新天地を求めた。が、移籍初戦でまさかのプロ初黒星。虎の子の世界ランクも失ってしまう。

 再起戦、最強挑戦者決定戦と「我慢の2試合」を勝ち抜いて、試練から這い上がり、上昇のきっかけをつかんだ三代は仲里戦を前に3冠統一をぶち上げ、ライバル対決への意欲を公言した。

 王座奪取後も意欲的な発言を繰り返し、機運の盛り上げに務めたが、思い通りに事が運ばないのが、この世界の常。現在は「あまり期待しないように」と流れに身を任せる心境で機会を待つ。

 それでも意気消沈しているわけではない。8月、約2年ぶりのサウスポー相手で「刺激を与える狙いがあった」(石井一太郎・横浜光ジム会長)という同級11位の宮本知彰(一力)との初防衛戦に6回TKO勝ち。そして「強い相手とやりたい」と指名したのが丸田陽七太だった。「僕の気持ちも上がるし、気が引き締まる相手」と燃えている。

 日本王者には例年1月から4月の期間に開催されるチャンピオン・カーニバルで、最強挑戦者との指名試合が義務づけられる。“3冠”にこだわるなら、さらに1位の村上雄大(角海老宝石)戦をクリアしなければならないが、「今は丸田くんのことだけを見て」と目の前の一戦に集中する。

 21日は、メインの2冠戦はもちろん、セミでも日本ライト級6位のホープ・今永虎雅(大橋)と同4位の齊藤陽二(角海老宝石)によるアジア最強ライト級トーナメントの決勝が行われ、宇津木、保田に勝利したことのある元日本王者で同2位の仲里が再起し、日本スーパーライト級2位で2度のタイトル挑戦経験を経て、ライト級進出を目論むアオキクリスチャーノ(角海老宝石)と対戦。国内ライト級の勢力図が書き換わる日になる。

 その中で、世界ランカーの三代は依然としてキーマンのひとり。12月7日、丸田との防衛戦まで目が離せない。(続く)

※11月21日の「Lemino BOXING フェニックスバトル」は「Lemino」で、12月7日の「WHO'S NEXT DYNAMIC GLOVE on U-NEXT」は「U-NEXT」でライブ配信される。

2/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント