JFA宮本会長がDAZN社長に語った男女日本サッカーの未来 アウェー戦“フリーミアム”の目的は?

元川悦子

選手の心の動き、キャラクターを見せていくことも

中国サポーターによって真っ赤に染まったスタンド。11月のアウェー戦も凄まじい雰囲気になるはずだ 【Getty Images】

――Jリーグ、WEリーグを筆頭に新たなファン作りというのもサッカー界にとって重要なテーマです。JFAとDAZNが協力してやっていけることはありますか?

笹本 我々はフットボールのファンベースを一時的ではなく恒常的なものにしていくためのお手伝いができたらと思っています。五輪やW杯のようなお祭りだけで終わらせないように、今回のW杯のフリーミアムを1つのきっかけにしたい。ファンゾーンを通して相互発信を増やし、盛り上げていくつもりです。

宮本 「常にそこにサッカーがあって、サッカーを見に行くのが普通の世界」という環境を作り上げたいですね。そのためにはスターの存在も必要だし、選手たちも「見せる意識」をより持たなければいけない。どうすればスターを作れるかというのは難しいですけど、まずパフォーマンスがすごく重要。そして場を作ることも大切だと感じています。

笹本 オフ・ザ・ピッチの姿やイメージとは異なる側面が見えてくるといいですね。そうすれば「この選手ってこんな人柄だったんだ」という親近感も湧いてきます。
 今、JFAの公式ユーチューブで配信している「Team Cam」は大きな役割を果たしていますよね。一部、使わせていただいていますが、アウェーの洗礼とか緊張感、恐怖感をよりリアルに感じてもらうツールになっています。我々もそういう機会を作れればいいなと考えています。

宮本 やっぱり見る人たちが知りたいのは選手の心の動きですよね。結果が出た時の喜びとか、ビハインドストーリーがあると記憶に残っていくと思います。

笹本 今回のW杯予選でも「Road to USA」のようなドキュメンタリーが作れると面白いですね。本番に行ったら行ったで、また違う姿が見れるでしょうけど、行くまでの道のりがどれだけ大変なのかを多くの方に知っていただきたいですからね。

宮本 自分が出場した2002年日韓W杯の後に出た「6月の勝利の歌を忘れない、真実の30日間ドキュメント」というDVDがあるんですけれど、それを見た人がすごく多くて、20年以上が経っても「あの時のDVD見ました」と言われることがあるんです。
 大会のパフォーマンスだけでなく、裏側も一緒に人々の記憶に残って、それがレガシーになっていく…。そんな世界が広がっていくと、ファンベースも浸透していくんじゃないかなという感覚がありますね。

 そのためには、繰り返しなりますけど、やっぱりスターが必要。一例を挙げると、38歳になっても代表の生き残り続けている長友佑都(FC東京)という選手がいます。彼がなぜチームを鼓舞したり、雰囲気を明るくする振る舞いができるのかというと、長年のキャリアを通して自身の役割が変化するのを知っているから。求められる役割はその都度、違ってきますけど、それに応える姿勢を強く示している。それは男子だけじゃなくて、女子の選手にもできること。自分の立ち位置を作っていくことが重要なんですよ。

代表を入り口にJリーグ・WEリーグの魅力も発信へ

笹本社長と日本サッカー界の現在・未来について語り合った宮本会長 【花田裕次郎】

――そのためにも、アウェー2連戦を無料開放するというのは本当に大きな意味がありますね。

笹本 我々としては、今回の日本代表戦をきっかけにDAZNに入っていただいて、JリーグやWEリーグ、欧州サッカーも幅広く見ていただきたいと思っています。

宮本 僕は先日、4年目を迎えたWEリーグの副理事長に就任したんですが、今までリーグの主役だった選手が海外に出ていった後、新しい選手がどんどん出てきているんです。プレー自体も男子のようにスピーディーでインテンシティの高いサッカーが展開されていますね。もちろん男子よりは試合展開が速くないので、その分、GKを含めた丁寧なビルドアップからの組み立てやボールの動かし方、個々の高度なテクニックがじっくり見られる。それも1つの特徴ですね。

笹本 サッカーの入り口として非常にいい競技なんですね。

宮本 はい。僕自身も今、DAZNで試合を見返しているんですけど、「こんなに面白い選手がいるんだ」とか、「この選手はまだ17歳なんだ」といった新たな発見があって、すごく面白いです。
 自分は元選手なので、若手がデビューする時の心境であったり、ベテランが5試合出場機会がない状態でピッチに立つ時の気持ちとか、準備のために何をしているのかといったことはお伝えできるのかなと。また違った角度からサッカーというスポーツを見てもらえるのかなと思うんで、可能な限り、発信をしていきたいですね。

――2011年女子W杯でなでしこジャパンが優勝した時は、澤穂希さんを筆頭に選手個々のキャラクターが際立っていて、非常に認知度も高かったですよね。今のWEリーグもそうなると理想的です。

宮本 選手のプレーやキャラクターというのは、見る側にとってすごく重要なファクターだと思います。男子は比較的認知されているでしょうけど、WEリーグの試合を見ていても「誰がピッチ上のリーダーか」「どういうキャラクターなのか」というのが分かりますし、「この選手は少しおっとりしているけどプレーは鋭いな」という特徴も感じられて面白いんです。選手側も自分自身をどう見せていくのかというのをもっと意識してほしいですね。

 WEリーグの試合前の整列を見ていても、日本のチームの並びは少し幅が狭いけど、イングランドやスペイン代表チームとかになってくると少し横に広い。男子の代表もそうです。それは自信やマインドセットの部分も影響しているのかなと。そのあたりを変えていくことも大事だと思います。

笹本 我々発信する側も視聴者がどういうWEリーグを見たいのか、どういうシーンを見せてほしいのかというコメントをいただきながら、工夫していきたいです。

日本のサッカー基盤強化に…

――今回の11月のフリーミアムがスター作りの布石になればいいのですね。

笹本 今までのフリーミアムはログインが必要で、ひと手間ふた手間かかってしまったのですが、今回は繋いだら見れるというテレビ感覚で使っていただけるような機能変更を試みたので、(無料配信が決まれば)その第一弾になります。

宮本 自分もいろいろなサブスクに入ってサッカーを視聴していますが、辿り着くまでの時間かかると面倒に感じるので、そういう工夫をしていただけるのは有難いですね。

笹本 我々の目指すところは、アプリを開く習慣を作ること。毎朝、昨日の試合結果とか、選手たちの動向、ハイライトシーン、ビハインドストーリー含め、試合以外の時も見てもらえるような方向に仕向けていきたいです。

宮本 日本サッカーの評価は確実に上がっていますし、僕自身もそれを実感しています。だからこそ、今後はJリーグ、WEリーグの価値を上げることにトライしなきゃいけない。選手が海外移籍する際に移籍金を残す、それを元手にしてクラブはさらに選手を育てていくといった好循環を作ることも大事ですね。今回のDAZNの試みは今までになかったことですし、JFAにとってもプラス。お互いにとっていい関係作りを進めていければと思います。

-----

 98年フランスW杯初出場を果たしてから日本代表は7回連続で本大会に参戦し、ベスト16を3回経験している。2026年北中米W杯では悲願のベスト8進出はもちろん、頂点を目指して飛躍を続けなければいけない。そのためにも、より多くの人々の声援や後押しが不可欠だ。2026年11月のアウェー2連戦での無料解放で日本代表、日本サッカーに関心を持つ人々を掘り起こし、新たなムーブメントを作れれば理想的。今回のJFAとDAZNの共闘の行方に大きな期待を寄せたいものである。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント