高校サッカーの前座にプロレス? なぜ米子北高は公式戦をイベント化するのか

平野貴也

チアリーダーが作る花道から、前座イベントを務めたプロレスラーとともに入場する米子北イレブン 【米子北高校サッカー部】

 高校サッカーのリーグ戦が、ピッチ外でも価値を持ち始めている。東西に分けて行われるユース年代最高峰の年間リーグである高円宮杯JFAプレミアリーグWESTに所属する米子北高校(鳥取県)は、地域の人々にサッカーに触れてもらう機会を増やそうと様々なイベントを行っている。10月6日に米子市のどらドラパーク球技場で行われた第17節のヴィッセル神戸U-18戦では、地元で活動する「鳥取だらずプロレス」を招致。高校生の試合前に、ピッチ外の特設リングでプロレスを披露する前代未聞の試合運営を行った。

「天気が心配でしたが、無事にできました。サッカー教室に参加した園児や、少年団の子ども、うちの部員もプロレスを見ていましたが、レスラーの方が『場外戦』で子どもを楽しませるように巻き込んでやってくれて、みんなで楽しむ雰囲気が良かったです。リングの最前列には、プロレスファンの方も来ていました」と教えてくれたのは、イベント化の仕掛け人である梶貴博コーチだ。米子北高で教員になる以前の2014年から3シーズンにわたり、Jリーグの大宮アルディージャで広報活動、試合運営に携わった経験を生かしている。

最大の目的は、サッカーの普及

子ども向けサッカー教室では、部員が指導役を務める 【米子北高校サッカー部】

 公式戦をイベント化する最大の目的は、サッカーの普及だ。競技に触れてもらう機会を増やし、試合観戦を通じて地域とのつながりを広げる。鳥取市にはガイナーレ鳥取(J3)があるが、米子市から車で片道90分、特急で1時間。子どもが気軽に観に行く距離ではない。島根県と鳥取県は、テレビ朝日の系列局がなく、日本代表の試合が見られないことも多い。ガイナーレ鳥取が年に数回は米子市で試合をするが、子どもが地元でプロスポーツを見る機会は少ない。

 それならば、全国大会上位の強豪に、地元チームが立ち向かう姿を見てもらい、サッカーに触れる機会を増やせないかと考えたのが始まりだ。23年から学校の職員や鳥取県サッカー協会などの協力も仰ぎ、地元の少年団を招待。試合前に子どもたちにも競技場でプレーする機会を与えられないかと幼児向けのサッカー教室や少年団のフレンドリーマッチも始まった。中学校で競技を続けない子どもが増えていると聞き、進学先の中学が同じになる学区の小学校を同時に招き、混合チームで試合をさせて交流が深まるようにも工夫している。

サッカー熱の高い埼玉で感じた地域格差

 普及活動の必要性を最初に感じたのは、梶コーチが地元である米子を離れて埼玉大学に進学したときだった。サッカー部でプレーする傍ら、浦和スポーツクラブのコーチや、浦和レッズが普及やホームタウン活動を行っているハートフルクラブでアシスタントコーチを担当。元プロ選手やプロ指導者が、地元の小学生をサッカーに夢中にさせていく様を見て「どおりで埼玉は強いわけだ」と感じたという。

 埼玉県は、各年代で日本一になるチームも多く、サッカーが盛んだ。学校内のクラス対抗戦なども行われる。梶コーチは、大学卒業後、さいたま市の小学校で教員を2年間務めたが「米子で対抗戦をやるなら陸上競技か水泳。子どもがサッカーをやる機会、見る機会が圧倒的に違う」と土壌の違いを痛感。小学校の教員を辞め、大宮アルディージャでプロクラブのホームタウン活動を学び、米子北の教員となり、思いと学んだ手法を結びつけているのが、現在の普及活動だ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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