J1首位攻防戦で完敗した町田 広島との「差」はどこにあったのか?

大島和人

広島が町田の強みをほぼ完全に封じた試合だった 【(C)FCMZ】

 J1最多得点のサンフレッチェ広島が、J1最少失点のFC町田ゼルビアを迎え撃つ「勝ち点59」同士の首位攻防戦だった。

 広島は直近のリーグ戦3試合を3-2、2-2、6-2とハイスコアの撃ち合いで終えている。シーズン途中に加入したトルガイ・アルスラン、ゴンサロ・パシエンシアら強力FW陣が得点力を発揮する一方で、守備については懐疑的な見方もあった。しかしエディオンピースウイング広島で開催された大一番は、ホームの広島が2-0の完封で制し、首位を堅持した。広島は4月3日のアウェイ戦(2◯1)に続く勝利で、町田に対して「ダブル」を記録している。

 町田は9月28日の広島戦を迎えるまで、31試合で22失点の堅守を誇っていた。町田はサイド攻撃を強みとしつつ「サイドから失点しない」チームで、リーグ戦はクロスからの失点が「1」しかなかった。にもかかわらず開始3分、23分と右ウイングバック中野就斗のクロスから2失点を喫している。

「町田の強み」で広島が上回る

 町田の監督、選手は口を揃えて「立ち上がりの2失点」を悔いていた。黒田剛監督は試合をこう振り返る。

「終わってみれば、立ち上がりの悪さ――。そこで2失点してしまったことが、敗因のすべてだと思います。システムを多少変更して入った後半は、かなり我々の意図する守備ができたのですが、前半のクロス対応があまりに悪すぎた。たった2本でも『2本中の2本』をしっかり仕留めてきた広島さんが一枚上手だった印象です」

 広島は攻守ともアグレッシブなスタイルで、試合の序盤ほどその強みが出る。立ち上がりは当然ながら警戒ポイントだったが、そこを封じられなかった。

 町田の強みは「1対1」「セカンドボール」「両ゴール前の際」といった部分だ。この試合はそこで上回れなかった。

 広島は特に3バックの1対1でファウルをせずに守り切る「上手さ」が光った。塩谷司は35歳、佐々木翔は34歳とベテランの域に達したセンターバック(CB)で、身体や手の使い方が際立って上手い。荒木隼人も含めた3バックは194センチのFWオ・セフンの持ち味を消し、前半での交代に追い込んだ。

 黒田監督はこう説明する。

「(広島は)ボール際、それからセカンドを回収する感覚、立ち位置がさすがに洗練されているなと感じました。経験の違いといえばいいのか、我々はまだまだこういうステージで優勝を争えるところに到達してないメンバー、経験してないメンバーも多くいます。そこに関して広島さんと少し差があったのではないかなと総評できます」

守備でも町田が後手を踏む

右ウイングバック中野就斗は2点に絡む活躍だった 【(C)J.LEAGUE】

 攻撃でも広島は「外に広げて内側」「FWがDFを引っ張って手前」といった揺さぶりが有効だった。町田の相馬勇紀は前半の守備をこう分析する。

「単純に[4-4-2]と[3-4-2-1]でミスマッチが生まれる中で、コンパクトにさせてくれなかった印象です。広島はしっかりFWの選手が背後を取る中で、シャドーが(手前に)ポジションを取るところがやはり上手い。相手のウイングバックにボールが入ってから、ボランチなどの背後に流れる動きが広島の特徴というのは分かっていました。でも僕と(ナ・)サンホがそこに行き過ぎると、ウイングバック(の対応)でズレが生まれる。なるべく二度追いしようとしたのですが、やはりフリーの時間は増えてしまっていました」

 広島のサイド攻撃も町田の「十八番」を奪うものだった。1得点目は左足、2得点目は右足のクロスでゴールをお膳立てした中野はこう説明する。

「町田は人に強く来るので、ニアに走り込んだ後のところにスペースがあるというのはチームとして(意識を)統一していました。早い時間帯で本当に自分のアシストからゴールにつながって、そこから勢いにも乗れました。2点目は(ゴールを決めた加藤)陸次樹くんに感謝です。あそこは(DFの)股が空いてくるかなと思って、速いボールで足を開かせることを考えていました」

 黒田監督はこう評する。

「ゴール前できちっとニアサイドとファーサイド、マイナスの3点に入り込んできたところはさすがです。(パシエンシアの先制点は)普通なら吹かして終わる、なかなか打ち切れない場面ですが、そのクオリティもさすがだなと思いました」

 広島の2得点目は左サイドのクイックリスタートが起点になった。町田の昌子源主将はこう悔いる。

「相手も上手ですけど、ああいうのがウチは多いですね。前には(町田の選手が)立っていたけど、あれが逆に広島さんだったら、蹴らせてないでしょう。そのしたたかさと言うべきなのか、ウチの経験不足・弱さなのか……。おそらく後者です」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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