渡辺勇大「残せるものはすべて」、18歳の田口真彩を指名した理由=バドミントン
パリ五輪で2大会連続の銅メダルを獲得した渡辺(左)が、若手の田口とペアを組んで注目を集めた 【平野貴也】
試合後、渡辺が報道各社の囲み取材に応じることになっていたが、なかなか現れなかった。様子をうかがいに行くと、鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに、田口にレクチャーする渡辺の姿があった。ACT SAIKYOの小宮山元監督が見守る中、渡辺は、相手の返球予測やラケットの構え方、フットワークの足の運び方、配球時の声のかけ方――多岐にわたるアドバイスを、身振り手振りを交えて伝えていた。
選手をやっていられるうちに伝えたいこと
渡辺が、若手有望株をパートナーに選んだ理由の一つは、日本の未来への投資だ 【平野貴也】
渡辺は、新ペアは自分から声をかけたと明かした。以前BIPROGYに在籍していたACT SAIKYOの小宮山監督を通じて知った部分はあるのだろうが、世界を飛び回っている渡辺が、学生時代の田口の試合をたくさん見ていたとは思えなかった。どのように知り、どんな印象を持っていたのかと聞くと、少し質問とはズレたが、なぜ、まだ未熟な部分も多い18歳と組むのかという疑問の答えが返ってきた。
「世界ジュニアも優勝しているし、今の時代だから、SNSやYouTubeもある。田口が内定選手として出場したS/Jリーグや(今年の)全日本実業団選手権も見て、素晴らしい選手だと実感するとともに、まだまだ成長できる部分もたくさんある。僕が選手をやっていられるうちは、一緒にコートに入りながらとか、相手になったりとかしながら、教えられること、伝えられることがたくさんある。僕が残せるものは、すべて残して、やり切りたい」(渡辺)
未来を託せる可能性がある選手としての期待こそが、田口と組む理由だった。
渡辺「まだ僕自身も成長できる」
田口が見せた素質と課題
田口が持っている素質は、渡辺も認めるところ。助言を生かして経験を積めば、ペアとしても大きな成長の余白がある 【平野貴也】
田口は、前衛でサイドへの鋭い反応を披露。サイドを抜かれたと思ってカバーに入る渡辺と、しっかり反応できていた田口が重なる場面が散見された。ネット前に入る早さ、球への嗅覚の鋭さは、渡辺も認めるところだ。ただ、敗れた準決勝では、田口が狙われた。日本A代表を引退したばかりの篠谷は、経験豊富。「後ろに高い球を上げたら、勇大君の(強打とフェイントの)打ち分けにコントロールされる。なるべく田口に集めていったら、相手が少し引いてくれた」と低空戦を徹底したことを明かした。
主導権争いで課題を突き付けられた。田口にしてみれば、渡辺と組むことで教わることも、A代表で活躍した篠谷と対戦したことで教わることもあったはずだ。連係部分は、まだ試合の中で1本、2本、話した内容が実現できたという程度。優れた能力を持つ田口が戦い方やトップレベルラリーに慣れ、渡辺がカバーの意識を解放して攻撃を仕掛ければ、ペアとして大きく伸びる。
田口が置かれた特殊な難しさ、渡辺の気遣い
初めてペアで挑んだ全日本社会人選手権は、3位の成績 【平野貴也】
1日で1種目2試合、つまり1日で4試合をこなす過密日程も障壁で、田口は「スタミナというより、種目ごとの頭と身体(動き)の切り替えが大変。(試合後)すぐ試合に入ってしまうので、切り替える能力も大事」と苦戦。しかし、渡辺は「緊張もあったと思うし、2種目の疲労もあると思う。でも、一応、僕は1年目でこの大会で2冠しているよと言っておきました」と、ちょっと意地悪っぽく笑っていた。乗り越えろというエールだろう。記念撮影でも肩を落とす田口に「笑えよ」と声をかける姿があった。
このペアが長く続くかは未定だ。田口は「ジュニア(の日本代表)でミックスをやっていたこともあり、(2種目)やりたいとチームに伝えていたけど、パートナーがいなければ、女子ダブルスに専念しようと思っていた。小宮山さんからは、やるなら両種目、同じ熱量と目標と言われた」と話した。混合に専念する選択肢はなさそうだ。現状では、渡辺が山口まで練習に行かねばならず、それらの活動が、渡辺の所属チームの理解を得て継続可能かどうかなどの問題もある。それは、田口に混合ダブルスについて話す機会を与えなかった、もう一つの理由でもあった。
渡辺は、大会を終えた段階で「いったんは(12月の)全日本総合まで。そこでどんな結果、パフォーマンスだったかも判断材料になる」と話した。全日本総合は、来季の日本代表の選考を兼ねる大会だ。その間には、10月のデンマークオープンなど海外遠征もある。先行き未定ではあるが、銅メダリストと期待のルーキーのペアが、どのような化学反応を見せるかは、楽しみなところだ。
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