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A・ロッド、アクーニャJr.に大谷翔平 絶滅寸前だったMLBの大記録「40-40」は見直されるか?

丹羽政善

8月23日のレイズ戦で40号サヨナラ満塁本塁打を放ち、「40-40」を達成した大谷翔平。試合後に手荒い祝福を受けた 【Photo by Katelyn Mulcahy/Getty Images】

 カージナルスの本拠地ブッシュ・スタジアムでは、ホームの選手が打撃練習をするときだけ、打球初速、角度、飛距離などがセンターの電光掲示板に表示される。

 アストロズのミニッツメイド・パークなども同様で、ビジターの選手が打撃練習を始めると、連動させている測定器のスウィッチを切ってしまう点でも共通しているが、カージナルスの練習を見ていたムーキー・ベッツ(ドジャース)に、「ああいうデータ、気にしている?」と声をかけると、彼は首を振りながら苦笑した。

「自分の数字は、おそらくリーグの平均以下。恥ずかしくなるから、見ないよ」

 ちなみに彼の平均打球初速は90.3マイル。リーグ77位タイ(ともに8月29日の試合終了時点)なので、平均以上ではある。しかし、「自分には必要ない」と話す。

「打撃は、打球初速やスイングスピードの速さだけではない。他にも大事なことはたくさんあるから」

8月25日のレイズ戦で13号2ランを放ったムーキー・ベッツ。今季は打率.299、13本塁打、12盗塁をマークしている 【Skalij/Los Angeles Times via Getty Images】

 確かに、Statcast(ホークアイを用いたMLB独自のデータ解析ツール)で得られるそうしたデータから、ベッツが特別な選手であることを証明することは難しい。そこでふるいにかけられたら、彼はプロにもなっていないかもしれない。

 実際、ドラフト前の彼の評価は低かった。しかし、レッドソックスが脳科学のテストを受けさせたところ、とてつもない数字を叩き出して、2011年のドラフトにおいて5巡目(全体172位)という上位指名に至った。

 その経緯は改めて触れたいが、一方で彼は統計学的見地から選手の評価などを行うセイバーメトリクスのデータにおいては超エリート。例えば、今年は左手の骨折で長期離脱したために低いが、WAR(※)では、離脱することなくそのままショートを守っていたら、今頃、ナ・リーグトップだったのではないか。

※WAR:Wins Above Replacementの略。その選手が、最低限のコストで代替可能な選手と比べて、どれだけチームの勝利数を増やしたかを様々な投手成績、あるいは打撃成績、守備成績から算出した指標

 また、彼の意外性はPSN(※)という指標にも反映されている。

※PSN:POWER-SPEED NUMBERの略。セイバーメトリクスを広く野球界に浸透させたビル・ジェイムズが提唱。2(本塁打×盗塁)÷(本塁打+盗塁)で求められる

 彼は、本格的にメジャーデビューした2015年から今年まで、10年連続で二桁盗塁をマークしていて、そのことは容易に想像できるが、20本以上の本塁打を7度も記録。自己最多は昨年の39本で、パワーも兼ね備えている。

 よってPSNでも上位の常連。20を超えればリーグのトップ10に入れるが、ベッツは2016年、17年、18年、20年シーズンでトップ4に入っている。

【スポーツナビ】

 彼の打球初速やスイングスピードからは、この結論はなかなか導けない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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