週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

A・ロッド、アクーニャJr.に大谷翔平 絶滅寸前だったMLBの大記録「40-40」は見直されるか?

丹羽政善

再評価される「盗塁」という戦術

昨季「40-70」を達成したロナルド・アクーニャJr. 【Photo by Matthew Grimes Jr./Atlanta Braves/Getty Images】

 ところで、久々にPSNのことを思い出したのは、大谷翔平(ドジャース)が「40−40」(40本塁打、40盗塁)をマークしたからだが、この記録の難しさはパワーとスピードの両立だ。

「ホームランと盗塁は全く違うと思う」と前置きした上で大谷は「両方できるに越したことはないですし、もちろん、片方でいい成績を残していること自体も自分の能力を最大限活かしている、ということだと思うので、それはそれで素晴らしいことなんじゃないかなと思います」と話したが、若い頃にパワーとスピードを兼ね備えたオールラウンダーであっても、その多くはやがて体が大きくなってスピードを失い、パワーに特化した選手となっていく。

 アレックス・ロドリゲス(ヤンキースなど)やホセ・カンセコ(アスレチックスなど)などが分かりやすい例。ロドリゲスはマリナーズ時代の1998年に42本塁打、46盗塁を達成。このシーズンの43.91というPSNは、ロナルド・アクーニャJr.が昨年、41本塁打、73盗塁を記録し、52.51という規格外の数値を叩き出すまで大リーグ記録だった。

 ただ、ロドリゲスはその後、すでに知られているようにステロイドを使用し、本塁打は増えたが、走れる選手ではなくなっていった。1988年に42本塁打、40盗塁を達成したカンセコも似たようなキャリアの終盤だった。

 そもそも盗塁は「ハイリスク・ローリターン」とセイバーメトリクスの世界ではみなされ、2000年以降、戦略として重視されなくなった。両立を目指す選手も激減。よって、40−40を記録できるような選手は、絶滅危惧種と見られていた。

 ただ、ここに来て、アクーニャJr.のほか、エリー・デラクルーズ(レッズ)、ボビー・ウィットJr.(ロイヤルズ)ら、パワー&スピードを兼ね備えた選手らが台頭してきている。背景には、昨年からベースが大きくなり、けん制の回数に制限が加えられたことで、盗塁という戦術が見直されるようになったこともある。盗塁成功率が80%台となり、リーグ全体で3503盗塁は過去100年で2番目に多かった。新ルールは40−40を絶滅から救ったともいえるのかもしれない。

エリ―・デラクルーズは今季、ナ・リーグトップの61盗塁をマークしている 【Photo by Brandon Sloter/Image Of Sport/Getty Images】

 といっても今後、大谷クラスが、出てくるかどうか。

 大谷は8月28日(現地時間)の試合を終えて、42本塁打、42盗塁なので、現時点のPSNは42.0。これは32.49で2位のホセ・ラミレス(ガーディアンズ)、32.34で3位のデラクルーズを大きく引き離してリーグトップだ。40を超えることは歴代でも稀。大谷が到達するまで、過去7人、延べ10回(バリー・ボンズとエリック・デイビスが2度ずつマーク)しか、記録されていないのだ。

 長くシーズン記録だったのは、先程触れたようにロドリゲスがマリナーズ時代の1998年にマークした43.91。その数字はすでに更新目前。アクーニャJr.の数字も視界に入る。アクーニャのPSNが50を超えたとき、今後、この数字を超える選手が出てくるのかと感じたが、日に日に現実味が増している。

 いずれにしても大谷によって、忘れ去られていたパワーとスピードのバランスの重要性が見直されようとしており、同時に大谷自身、フィールド内における新たな表現の選択肢を加えたといえるのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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