パリ五輪バレー男子決勝「ちょっと次元が違った」 元日本代表・山村宏太が唸ったフランスの強さ

田中夕子

国民の大声援を背に、開催国フランスがポーランドにストレート勝ち。2大会連続で金メダルを手にした 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

 8月10日にパリ五輪の男子バレーボール決勝が行われ、開催国のフランスがポーランドを3-0で下して連覇を達成した。2大会連続の金メダルは、1984年、88年のアメリカ以来。地の利があったとはいえ、圧倒的なパフォーマンスで世界の頂点に立ったフランスの強さに、元日本代表主将で前サントリーサンバーズ監督の山村宏太氏は、「すごかったとしか言いようがない」と脱帽する。

フランスに流れを引き寄せたのはあの選手

東京五輪で金メダル獲得の立役者となったヌガペトが、母国で開催された今大会の決勝でも「さすが」というプレーを見せた 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

 いやー、フランスが強かった。このオリンピックという祭典の、一番最後に100%を持ってこられる強さ。自国開催の強みも最大限に活かしながら、各選手のパフォーマンスがすごかったとしか言いようがない。素晴らしいパフォーマンスでした。

 勝敗を分けた差は何か。監督という立場を経験した身としてはすごく興味があるのですが、この試合に関して言えば本当にちょっとしたところが勝敗を分けた。まずわかりやすい点で言えば、フランスのほうが全員の名前を挙げたいぐらい、ヒーローが多くいました。

 たとえばセッターのアントワヌ・ブリザール選手。トスワークだけでなく、2セット目に2本連続で1枚ブロックを決めてみせた。またオポジットのジャン・パトリ選手のパフォーマンスは常に神がかっていた、と言っても大げさではなかった。今まで見ていた試合は何だったのか、と思わされるほどのギアの入りようでした。

 そして第3セットの終盤にリリーフサーバーで出てきたカンタン・ジュフロワ選手もすごかった。2セット目もコートに入りすぐエースを取り、3セット目は18対18で投入されていきなりサービスエース。その後も2本のサービスエースを含め、彼のサーブからフランスは5連続得点で23対18とポーランドを一気に引き離しました。あの場面であれだけの仕事ができる。スペシャリストとして素晴らしい仕事ぶりでした。

 挙げ出したらキリがないほどヒーローがいた試合ですが、やはりキーマンとなった選手、この流れのきっかけをつくったのはガペ(エアルバン・ヌガペト)選手です。

 1セット目は互いに様子見で、どちらがリズムを握るか。お互い主導権を得るためにサーブを攻めていたので、サーブミスも多かった。でも少しずつサーブが入り始めた。ポーランドにはウィルフレド・レオン選手を筆頭に、素晴らしいサーブ力を持つ選手が揃っている。そのなかで、ものすごいサーブをごく平然とAパス(セッターの定位置に返るパス)にしているのがガペ選手でした。

 しかも彼がすごいのは、ところどころに面白いことを入れてくる。たとえばサーブを打つ時もコートのクロス方向に強いサーブを打つのですが、普通に真っすぐ入ってくるのではなく、コートの外から中に切り込みながら入ってきて、コース幅を広く取ろうと狙っていた。今日は徹底して1ゾーン(ネットを正面に見てコート後方右側)を狙っていましたが、彼の場合はその反対側の5ゾーン(ネットを正面に見てコート後方左側)にも打てる。ルールの中で、僕らが「普通」と考えるところからまた別の角度でのプレーを体現していました。

 相手を崩したサーブや、難なく返したサーブレシーブだけでなく、ディグでもうならされる1本がありました。

 第3セット、16対17とフランスが1点を追う場面でガペ選手がサーブを打ち、コート後方中央でディフェンスに入る。ポーランドはレフト側からアレクサンデル・シリフカ選手が攻撃してきたのですが、そのボールをワンハンドレシーブで拾ったのがガペ選手です。

 単純にワンハンドでレシーブをして正確に返す技術はもちろんですが、フランスは前衛でブロックに跳んだのがオポジットのパトリ選手でした。

 セオリーで考えれば、セッターが前衛の時にはセッターの上から攻めてくることが多いので、後ろのレシーバーが少しセッター側に寄ることもある。実際に日本チームも関田誠大選手が前衛時にはディフェンスを2枚入れて対応しています。でもオポジットの場合は上を抜けるケースはほとんどない。そう考えるのがセオリーとされるなか、リプレイで確認したら、ガペ選手はシリフカ選手が打つ前に一歩寄っているんです。彼の野生の勘で「こっちに来そう」と思ったのか、リーディングなのか。彼の話を聞いたわけではないので正解はわかりませんが、その一歩がスーパーレシーブにつながった。

 表現する立場、そして指導者として選手に伝える立場としては「すごい」とか「やばい」といった言葉で表すのはよくないと理解していますが、それでもその言葉しか出てこないぐらいすごかった。

 48年ぶりの金メダルに向け、ポーランドも最後まで素晴らしいプレーをしました。2セットを獲られ、後がない20対24の状況からサーブで攻め、サービスエースを取ったレオン選手もすさまじかった。最後はミスで終わってしまいましたが、まさに両チームともにベストパフォーマンスがぶつかり合うなか、フランスのスパイクミスはわずか1本。ちょっと次元が違うな、と思わされてしまうほどの強さを見せつけられました。

 そして何より、流れを引き寄せる役割を、選手だけでなく大きく担った、自国開催の会場のボルテージも素晴らしかったです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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