坪井慶介が見た男子サッカー決勝の“死闘” 考えさせられた「組織と個のバランス」と「OAの是非」

吉田治良

“ドリームチーム”と言われた92年バルセロナ五輪以来の金メダル。スペインは組織の力と、フェルミン(右)やバエナ(左)らの個の力をバランスよく融合したチームだった 【Photo by Eurasia Sport Images/Getty Images】

 パリ五輪の男子サッカー決勝、フランス対スペインの一戦は、歴史に残る激闘となった。フランスが先制し、スペインがひっくり返し、フランスが追いつく……二転三転するスリリングなゲームは、延長戦の末にスペインが5-3で制し、1992年バルセロナ五輪以来、32年ぶりの金メダルに輝いている。勝敗を分けたポイントは、はたしてどこにあったのか。元日本代表DFの坪井慶介氏に解説していただくとともに、今大会を通して感じたことも語ってもらった。

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即興性に委ねる部分が大きかったフランス

スペインの決勝ゴールは、延長前半の100分だった。複数人が連動してパスをつないで崩し、最後は途中出場のカメロが冷静に浮き球のシュートを流し込んだ 【Photo by Icon Sportswire/Getty Images】

 目まぐるしく流れが変わる決勝戦になりましたね。

 立ち上がりは、ホームの観客に背中を押されたフランスの出足が素晴らしかった。前からプレッシャーをかけて相手のクリアミスを誘い、11分に幸先よく先制しましたが、スペインもその勢いにのみ込まれることなく押し返しました。

 優勝したEURO2024のA代表もそうでしたが、スペインは中がダメなら外、外がダメなら中という使い分けが本当にうまいんです。開始早々にキープレーヤーのフェルミン(・ロペス)が二度、厳しいチェックで削られました。中央をこじ開けるのは難しそうだと判断すると、両サイドバックを高い位置に押し出し、サイドを起点に攻めることで、意識的にフランスの守備陣形を横に揺さぶるようにしたんです。その結果、18分の同点ゴールは右サイド、25分の逆転ゴールは左サイドを起点にして生まれました。

 ただ、これもA代表に通じることなんですが、今のスペインは伝統的な組織としての崩しにプラスして、個の力による局面打開もかなり意識するようになっています。今日で言えば、左サイドバックの(フアン・)ミランダの突破であったり、同点、逆転弾を奪ったフェルミンの決定力であったり。3点目を決めたアレックス・バエナの見事な直接フリーキックもそうでしょう。その「組織と個のバランス」が非常にいいんですね。

 フランスも後半の頭から、アンカーの(マニュ・)コナも積極的に前線に飛び出すなど、文字通り総攻撃を仕掛けます。その力押しが実って、2点のビハインドをはね返すわけですが、スペインとの比較で言えば、やはり個の力、即興性に委ねる部分が大きかったように思います。オーバーエイジの(ジャンフィリップ・)マテタと(アレクサンドル・)ラカゼット、そしてトップ下の(ミカエル・)オリズ。結局、この強烈なアタッキングトリオの力で、ここまで勝ち上がってきた印象もありますし、最終的には「組織と個のバランス」という部分で、本当にわずかな差が生まれたのかなと思います。
 
 スペインは後半にフェルミン、バエナという攻撃のキーマンを下げ、最後は5バックにして逃げ切りを図ります。結果的に土壇場(90+3分)で追いつかれたとはいえ、個人的には間違った選択ではなかったと思っています。あの時間帯、後ろを5枚にしてスペースを消すことを優先するのは当然ですし、勝利という結果にこだわればこその判断。そうした割り切った戦い方ができるようになったのも、ここ最近のA代表も含めたスペインの変化ではないでしょうか。

 守備に関しても、スペインには個の力を感じました。フランスの2点目(フリーキックから)と3点目(コーナーキックからファウルで得たPK)は、いずれもセットプレーから。流れの中から奪われたものではありません。エリック・ガルシアと(パウ・)クバルシは高さ勝負で劣勢を強いられましたが、決して相手に良い形でシュートを打たせなかった。そこは個の守備戦術、駆け引きの巧さだったと思います。それは、スーパーセーブを連発したキーパーのアルナウ(・テナス)についても言えるでしょう。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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