パリ現地取材の記者が選ぶ五輪会場5選 各国のファンが最高の雰囲気を作っていた場所は?

大島和人

柔道会場でヒップホップ

柔道のフランス代表選手は総立ちの後押しを受けていた 【Photo by Michael Reaves/Getty Images】

 シャン・ド・マルス・アリーナは柔道、レスリングの取材で足を運んだ。エッフェル塔直下の公園内にある仮設施設で、スタンドもパリ南アリーナと同じく「工事現場」のような鉄骨むき出しだ。記者の作業室、ミックスゾーンはアリーナの外のプレハブ小屋で、雨の日はドロドロの泥濘に難渋した。

 観客数も3000〜4000人程度と決して大きな会場ではない。ただそれでもビジョン、音響、照明などの機能はフルスペックで揃っている。個人的にかなり大きなインパクトを感じたのが柔道の盛り上がりだ。フランス国内で柔道人気が高いことは承知していたが、観客が「今風のエンターテインメント」として柔道を楽しんでいた。

 フランス選手が登場したときの熱狂は、日本のアリーナ・体育館では経験したことのない「圧」だった。暗転とプロジェクションマッピング(フロアに幻想的な映像を映し出す演出)などもされていたし、MCと観客の掛け合いも盛んにある。「柔道会場にヒップホップ」は、日本国内だと想像がつかない選曲だが、意外にハマっていた。

ベルシー・アリーナはフランス最大の屋内競技場 【Photo by Maja Hitij/Getty Images】

 ベルシー・アリーナは体操、トランポリン、バスケットボールの開催地としてフル活用されている。パリ東部にあるフランス最大の屋内競技場で、まずアクセスが抜群だ。セキュリティが厳しすぎて爪切りを没収された、筆者が迷子になったといった微妙な思い出もあるが、「風格」「風情」のある施設だった。体操男子団体の大逆転優勝を取材できたことは良き思い出だ。

スタッド・ド・フランスはサッカー、ラグビーのW杯で決勝戦の会場となった 【Photo by Anthony Dibon/Icon Sport via Getty Images】

 パリ北部のサン=ドニにある「スタッド・ド・フランス」も忘れてはならない。1998年のサッカーワールドカップフランス大会に合わせて建設され、決勝戦が行われたことでおなじみ。今大会は陸上競技がここで開催されている。

 ただパリ五輪は開会式をセーヌ川で行ったため、メイン会場的な扱いではなく、少し影が薄くなってしまった。アクセスはほどほどで、日本の感覚なら「埼玉スタジアムの場所に国立競技場を建てた」施設だ。

会場の雰囲気は百点

各国ファンの工夫したビジュアルは見ていて楽しかった 【Photo by Clive Brunskill/Getty Images】

 パリ五輪はセーヌ川の汚染、選手村の不十分な食事など、さまざまな課題も報道されている。しかし少なくとも筆者個人のレベルでいうと、取材周りで嫌な思いをしたことはまだ一度もない。「自発的に五輪へ参加しようとしている人たち」という背景があるとはいえ、ボランティアの皆さんは揃ってフレンドリーで親切だ。「フランス人は英語で話しかけると無視をする」という噂は知っていたが、今のところはそのような目に遭っていない。英検3級の怪しい英語でも、何とかなっている。

 会場の雰囲気、盛り上がりは「百点」をつけてもいい。盛り上がりは行き過ぎると暴走しがちだが、フランスのお客さんは節度がありつつ、楽しく盛り上がっている。さらに自分が見た競技はどれも満員で、観客が「フランス以外」に声援を送るマインドを持っていた。例えば日本もバレーボールの男子代表は、地元のファンからもかなり推されていた。

 あらゆる競技の会場で繰り返し耳にした楽曲が『Freed from Desire』(Gala/1996年)と『スイート・キャロライン』(ニール・ダイアモンド/1969年)の2つだ。前者はフランスで開催されたサッカーヨーロッパ選手権のテーマソングだが、総じて選曲と演出からかなり“アメリカ風味”も感じる。

 勝手に「フランスは個人主義」という偏見を持っていたが、パリ五輪の会場でそれは覆された。「声を出そう」「同じ振りで踊ろう」「歌おう」といったMCからのお節介なリクエストに対して素直に乗り、陽気に盛り上がるのがフランスの観客だ。

 どんなスタジアムもアリーナも、演出も、最終的には「選手と観客」が揃って完成する。東京五輪で味わえなかったライブ感を、パリの現場で味わえていることは、この大会を取材した最大の収穫かもしれない。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント