楽しみな新勢力台頭のスーパーフェザー級の戦いに注目 デンマークで無敵王者に挑む世界戦も【8月のボクシング注目試合②】

船橋真二郎

日本王者の奈良井翼(左)は初防衛戦で難敵・福井貫太を指名 【写真:船橋真二郎】

奈良井翼が難敵と初防衛戦、アジア王者を決める戦い

 沼田義明から尾川堅一(帝拳)まで、歴代10人の日本人世界王者を輩出してきたスーパーフェザー級。現在、頭一つ抜けている存在が力石政法だ。WBC、IBFともに3位にランクされるサウスポーは世界に照準を定め、7月2日付で大橋ジムに移籍した。

 その日本伝統の階級に楽しみな新勢力が台頭してきた。今年4月、評価上昇中だった日本王者の原優奈(真正)を大阪で3度倒し、5回TKO勝ちで24歳の奈良井翼(RK蒲田)が、6月には経験豊富な32歳、東洋太平洋王者の坂晃典(仲里)を3回TKOの圧勝で下した27歳のサウスポー、波田大和(帝拳)が新王者となった。

 今月は奈良井が日本1位の福井貫太(石田)との初防衛戦に臨み、さらに力石の返上で空位になったWBOアジアパシフィック王座を期待の鈴木稔弘(志成)と渡邊海(ライオンズ)が争う。これから体重58.9kgリミットの階級を盛り上げるであろうフレッシュな戦いに注目したい。

 27日、王者として後楽園ホールに凱旋する奈良井(13勝10KO2敗)は「この階級でさらに上を目指すために上位ランカーをしっかり倒して勝って、次につなげたい」とあえて難敵と認める福井(30歳、12勝8KO5敗1分)を指名。実力の証明を誓う。

 奈良井は戦績が示す通りの強打者だが、ここ2戦の進境が素晴らしい。以前はパワーに任せて倒す傾向が強かったが、失敗を教訓にした。2022年9月、日本王者だった坂に挑戦。1回、4回と先に倒して優勢も、5回と6回に坂に倒し返される激戦の末、大逆転のTKO負けを喫した。

「ボクシングはパワーではなく、タイミング」。初回TKOで勝ち抜いた挑戦者決定戦、王座奪取の原戦と余計な力みが抜け、試合運びにも落ち着きが出てきた。勝負の怖さを知り、「難しい試合になることを覚悟して臨む」と心構えも変わってきた。

 元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者・石田順裕会長のジム第1号のプロ選手でもある福井はタイトル初挑戦。4回戦からコツコツとキャリアを積み上げ、強豪との対戦も厭わず筋金が入ってきた。

 昨年10月には元日本フェザー級王者の佐川遼(三迫)を最終8回でストップし、勝負強さを見せた。この後楽園ホール4戦目の初勝利で上位に躍進し、今回のチャンスにつなげた。「選択試合にも関わらず、上位ランカーから僕を選んでくれたことに感謝したい。いただいたチャンスは必ずつかむだけ」と福井。こちらにも硬い拳がある。好勝負が期待される一戦は「Lemino」でライブ配信される。

渡邊海(左)と鈴木稔弘はWBOアジアパシフィック王座を争う 【写真:ボクシング・ビート】

 鈴木(27歳、5勝4KO無敗)と渡邊(21歳、12勝6KO1敗1分)は22日、後楽園ホールでベルトをかけて戦う。ともに東京・駿台学園高出身の先輩・後輩対決でもある。

 鈴木は元日本スーパーライト級、前東洋太平洋ライト級王者の鈴木雅弘(角海老宝石)の1歳違いの実弟。高校時代にインターハイ優勝、世界ユース3位、ユース五輪2位、日大では2度の全日本選手権準優勝の実績を残した。高いポテンシャルを秘めるが、ケガがちでデビューまでに時間がかかり、思うようにキャリアを積むことができなかった。プロ初のタイトルマッチでブレークなるか。

 小、中学生の頃からU-15全国大会、全日本アンダー・ジュニア大会で大活躍した渡邊だったが、高校では3年時の大会がコロナ禍で軒並み中止になるなど、大きな結果を残せなかった。高校卒業後にデビュー。フェザー級の全日本新人王、スーパーフェザー級の日本ユース王座を獲得。着実にキャリアを積んできた。「世界戦のつもりで臨む」という元A級ボクサーの父・利矢トレーナーのもと、鴨川、沖縄、ロサンゼルス、蔵王と各地で走り込み、スパーリングの強化合宿を重ね、準備万全で臨む。

 上背のある渡邊は長い左ジャブ、右ストレート、鈴木は鋭い出入りからの左フックが軸になる。パンチにキレのある鈴木が仕掛けていけば、スリリングな展開になりそうだ。試合は「ABEMA」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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