92年ぶりの決勝進出に足りなかった「0.03」 サニブラウンがハイレベルなレースで犯したわずかな失敗とは?

大島和人

五輪で結果を出す選手とは?

100m決勝は8位が9秒91という超高速レースだった 【写真は共同】

 パリ五輪の100メートル走は準決勝、決勝とも「粒ぞろい」のハイレベルなレースとなった。「準決勝で9秒台を記録して決勝に出場できなかった」選手が登場したのは史上初。決勝も優勝タイムが優勝したノア・ライルズ(アメリカ)と2位トンプソンのタイムがいずれも9秒79で、2人のタイム差は0.005しかない。さらに8位のオブリク・セビル(ジャマイカ)が9秒91という、遠目にはほぼ横並びでゴールしたように見えるレースだった。

 そこはサニブラウンも「(9秒)95を切るくらいまでいかないと、決勝はいけないと思っていました」と振り返るように、想定していた展開だったという。

 サニブラウンは2015年に16歳で世界陸上代表に選ばれ、将来を嘱望されてきたランナーだ。2022年の世界陸上オレゴン大会では日本人初となる決勝進出を果たし、2023年のブダペスト大会では10秒04のタイムで日本勢最高となる6位入賞を果たしている。しかしオリンピックには違う難しさがあるようだ。

「オリンピックとなると全く違って、そこに関しては(200メートル代表として出場した東京五輪で)身にしみて感じました。ここでメダルを獲っている選手がいかにすごいのか、自分が出場して分かりました」

 彼の言葉を借りると、オリンピックで結果を出すのは速い選手でなく「強い選手」だ。大舞台の圧力があろうと、周りが速かろうと遅かろうと、自分の走りを崩さずにスタートからゴールまでまとめられるという意味だ。

 サニブラウンは大舞台の、準決勝という重要なレースで自己ベストを更新した。百点満点ではないが、一般論とすれば「いい走り」をした。ただしレースのレベルが事前の想定通りに高く、決勝進出までわずかに届かなかった。

「自己ベストでは足りないです。アジア記録(9秒83)を出すくらいの勢いで走らなければ、本当にメダルは獲れないので」

悔しさと切り替えと

 スタートについては手応えを口にしていたが、このコメントを聞いてもそれ以上に「悔しさ」「危機感」が大きい様子が伝わってくる。

「スタートは練習した甲斐があったかなという部分です。本当に1ミリ1ミリですけど、前進はしています。でもそんな悠長なこと言っている暇はない気がします。初めて世界陸上にいったのが2015年で、もう9年間もこのレベルで競技をやっていて、自分の競技人生があとどれくらいかも分からない。来年また世界陸上があって、28年はLA(ロサンゼルス)のオリンピックもありますけども、本当にこういうところでしっかり結果を出さないといけません。自分が練習していても。他の海外の選手たちはもっともっと前進していて、(今のままでは)一生追いつけない」

 世界陸上は2年に一度の開催だが、オリンピックは4年に一度。「0.01秒」のために4年間をかけて準備するのがトップスプリンターだ。そんな大舞台で、決勝に迫る走りを見せつつ、「0.03」で届かなかったのだから、その悔しさは想像に難くない。

 一方で彼は「引きずらない」ことも意識している様子だった。

「本当に前を見ていきたいです。来年は世界陸上(東京大会)もありますし、オリンピックもまだ4継(4×100メートルリレー)があります。しっかり気持ちを切り替えてやっていければと思っています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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