5連敗で敗退も「3善戦」は大きな収穫 ハンドボール日本代表が“1点差”を制するために必要なこと

大島和人

杉岡尚樹はスウェーデン戦で9得点の活躍を見せたが、チームは完敗した 【写真は共同】

 ハンドボールの男子日本代表が、パリオリンピックのグループAを5連敗で終え、大会を後にした。初戦のクロアチア戦を終了と同時の失点で29-30と落とし、その後もドイツ(26-37)、スペイン(33-37)、スロベニア(28-29)と勝ち星を得られなかった。既に敗退が決まった状態で迎えた8月4日のスウェーデン戦は27-40の完敗だった。

 アジアでの立ち位置を考えると、まず36年ぶりの「自力出場」が日本代表にとっては快挙だった。ハンドボールに世界ランキングはないが、世界選手権や五輪の結果を見れば男子の優勝チームは常にヨーロッパ勢。日本が5試合中3試合を接戦に持ち込んだ部分は、評価できる要素でもある。

 カルロス・オルテガ監督のもとには、日本の戦いを称賛する連絡がいくつも舞い込んでいたという。

オルテガ監督が語る差と手応え

 もっともフランスで既に4試合を済ませた日本代表の攻撃パターンは、丸裸にされていた。日本はセンターバック(CB)で司令塔の安平光佑、藤坂尚輝らのスピードを生かして「ズレ」を作る狙いを持っていたが、スウェーデンは先回りしてそこを消していた。

 レフトウイング(LW)の杉岡尚樹はこう振り返る。

「今日はやっぱりセットオフェンスがなかなか機能せず、髙野(颯太)から僕に変わって外の攻撃から中を広げようという狙いになりました。ただ相手はかなり研究してきて、いつも点数を取っている安平と藤坂が今日はあまり取れていませんでした」

 ゲームプランの修正は奏功し、杉岡はチーム最多の9得点を挙げている。とはいえ最後の1対1を決める、ゴールキーパーが止めるといった得点に直結する「際」の部分で、スウェーデンが明らかに上回った60分だった。

 オルテガ監督は大会をこう総括する。

「差は間違いなくありましたし、足首の負傷のため重要な選手も欠場せざるを得ませんでした。選手たちは体力を削られ、(吉田)守一など何人かの選手たちは消耗していました。今日はスウェーデンの方がはるかに良かったと思います。我々はゴール前で多くのミスが出てしまいました。ゴールキーパーも相手ほど止められませんでした。そこが日本とヨーロッパの違いです」

 一方でこのような手応えも強調していた。

「選手たちは3試合、本当に良い試合をしました。皆さんが気づいているかどうか分かりませんが、ヨーロッパと日本やアジアの体格差、戦術差は非常に大きいのです。ですから、3試合が接戦という内容は大きな成功だと思います」

 キャプテンの渡部仁はこう口にしていた。

「自力でオリンピックの切符をつかんだことは、まず誇りにしていいと思います。東京、パリと2大会続けて出場できましたが、まずオリンピックの常連国となることが大切です。アンダーの世代がアジアで優勝しましたが、下の世代に何か伝われば嬉しい。でもやはり結果が欲しかったというのが一番です」

1点を生み出す大きな差

体重100キロの渡部仁だが、世界ではパワーを武器にできない 【写真は共同】

 いずれも1点差で惜敗したクロアチア戦、スロベニア戦はいい例だが「接戦を取り切る」ところは五輪における日本の明確な課題だった。どんな競技もそうだが終盤、勝負どころの1点をめぐる攻防にこそチームの真価は出る。「良い試合ができる」と「勝てる」の間には、おそらく大きな差がある。

 杉岡はいう。

「1点ですけど、僕の中ではその1点の部分で、まだまだ日本とヨーロッパは遠いなと感じています。スポーツで『際』を極めるのは本当に難しい。だからこそやりがいがありますし、変えていかなければいけない部分です。ゴールにねじ込む、突破してやるという気持ちの部分が、ヨーロッパの選手はすごいなと思いました。スウェーデンは点差がついても、最後の最後まで狭い間を割ってシュートまでいく姿勢を見せていました」

  渡部は「1点」を分けた部分をこう説明する。

「ディフェンスであれば、うまく連携が取れているときは守れていました。しかしちょっと連携をミスしてしまったときは確実に失点をしてしまう。徹底する力と、1試合を通して波をなくすことが必要です。ノーマークのシュートを決め切る力も大切です。そういった基本的な部分の遂行力かなと思います」

 メンタルは大切だが、そこだけで解消する問題ではない。ハンドボールは長身でなおかつ幅のあるパワフルな選手たちが、コート上でフィジカルの競り合い続ける競技。攻撃側から見るとゴールキーパーも含めて7人がゴール近くに密集するため、攻撃に使えるスペースがほとんどない。

 ボールと人の動きを精密に素早く合わせるか、正面からゴリゴリと割り込むか、そのどちらかしか攻撃の「解決策」はない。

 そして60分にわたってぶつかり合いを続ければ、選手は消耗する。パスにしてもシュートにしても、コンタクトで体力を削られた状態からプレーすれば必然的に精度が落ちる。

 渡部は183センチ・100キロと日本の中では「大型」と言えるライトバック(RB)だ。その彼がこんな感想を口にしていた。

「国内では僕もフィジカルが強い部類に入りますが、国際試合になるとまったく間を割れなかったり、フィジカルで跳ね返されたりします。より自分のレベルを上げるためには、こういった国際試合の経験が必要なのかなとあらためて思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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