元なでしこ宇津木瑠美がスペイン戦を解説「リズムを生めなかった“リアクションの守備”」

吉田治良

日本がどうこう以上にスペインが強かった

良い形でボールを持てなかった長谷川。「彼女の膨大なアイデアを引き出せるシチュエーションを作りたい」と、宇津木はブラジル戦のキーマンに名前を挙げる 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 初戦は逆転負けで落としましたが、この試合は日本がどうこうよりも、それ以上にスペインが本当に強かった。外を使うために中を開けて、外が混んでいれば中を使う。表現が難しいんですが、「スッと入ってくるサッカー」というか、シンプルだけど、点を取るために何をすべきかが明確で、それがピッチに立っている11人の共通認識としてあるんです。

 そんなスペインと比べると、第2戦で対戦するブラジルは組織の力でやや劣るかもしれませんが、その分、個の能力に秀でた選手が揃っている印象ですね。強引にドリブル突破を仕掛けてきたり、遊び心があるというか、トリッキーなプレーでファウルを誘ってきたり。日本としては、ちょっと辛抱が必要な試合になるかもしれません。

 システムに関してですが、スペイン戦を見るかぎり、私は4-4-2ではなく最初から3バック(守備時は5バック)でいったほうがいいと思います。ずっとレギュラーで使われてきたレフティの北川(ひかる)選手が出場できず(直前のガーナ戦で負傷し、別メニュー調整中と伝えられる)、ピッチの幅を目いっぱい使えないと判断しての4バックだったのでしょうが、これまでの試合でよりスムーズに機能していたのは3バックでしたし、守から攻に切り替わった瞬間の迫力は4バック時よりも上。ウイングバックの背後を突かれる怖さもありますが、個人的には状況に応じて3枚と5枚を臨機応変に使い分けるやり方がいいように思います。スペイン戦も始まってみて、「あ、4枚なんだ」って驚きましたからね。

 北川選手がブラジル戦に間に合うかは分かりませんが、左サイドにはスペイン戦ではサイドバックで先発した古賀(塔子)選手もいます。私もユースの頃からチェックしていた選手で、奪ってから高い位置まで自ら持ち運べるのが最大の持ち味。フィジカルが強くてスピードもあるし、なにより18歳という若さで、オリンピックの開幕戦という大舞台であんなに堂々とプレーできるなんて、すごいメンタルだと思います。

 一方の右サイドは……気になるのは怪我で途中交代を余儀なくされた清水(梨沙)選手の状態ですね。彼女のアーリークロスはゴールに直結する大きな武器ですし、とにかく無事に戻ってきてほしいと願うばかりです。ただ、スペイン戦で終了間際に出場した守屋(都弥)選手もアグレッシブな攻守が魅力で、クロスの質も高いですからね。チームの生命線であるサイドがどうなるのか、今は心配半分、楽しみ半分、といった気持ちです。

 ブラジル戦のキーマンを1人挙げるなら、やはり長谷川選手。彼女の頭の中にある膨大なアイデアを十分に引き出してあげられるシチュエーションを作れるかどうかが、勝利を掴む上での大きなポイントになるでしょう。そのためにも、リアクションではなく、良い攻撃をするための守備を、まずは構築したいですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

宇津木瑠美(うつぎ・るみ)

1988年12月5日生まれ、神奈川県川崎市出身。2歳からサッカーを始め、14歳でなでしこリーグの日テレ・ベレーザに入団。21歳でプロに転向すると同時に、フランス女子リーグのモンペリエHSCに移籍する。正確な左足を武器とするMFとして世代別代表でも活躍し、16歳で初選出されたなでしこジャパンでは、2011年女子W杯優勝、15年女子W杯準優勝に貢献した。16年にアメリカのシアトル・レイン(現OLレイン)に加入。21年に帰国し、古巣である日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーする。身長168センチ。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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