柳田将洋が“順応性”を評価する日本代表セッター 「らしいな」と思った1本とは?
11年前の代表入りから長きにわたり日本を牽引した柳田 【Photo by Mojtaba Saleh ATPImages/Getty Images】
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今の日本は研究“する側”ではなく、“される側”
柳田 現状の世界ランキング、4位だったり3位だったり変動はありますが(6月23日現在で2位)、ランキング負けしない強さを感じます。僕が数年前まで代表でプレーしていた頃は、4〜5位ぐらいまでは本当に五輪や世界大会のメダル常連国が名を連ねていました。その中に今、日本が食い込んでいるというのは、今までの歴史を振り返ってもなかなか見たことのない光景だなと。
特に印象に残ったのは、ネーションズリーグ福岡ラウンド初戦のイラン戦。アジアの強敵といわれているチームに、あれだけの差をつけて勝利した。石川祐希選手、髙橋藍選手は合流したばかりで、おそらく試合中もコンビネーションを合わせている最中だったと思うんですけど、それでも点差をつけて勝った。選手1人ひとりの能力の高さや、瞬間瞬間に対応できる順応力の高さも、世界ではトップクラスなんじゃないかと見ています。
――アジアの中では一時イランが急激に力をつけて世界の強豪の仲間入りを果たし、日本は引き離された時期もありましたが、今は力関係が逆転しました。
柳田 ちょうど僕が代表に入った2014年、15年あたりにイランが世界選手権のベスト8に入ったりしていたんですが、その時代の主力選手が次第に抜けていった。他にもアメリカやブラジルは、世代交代というか、新陳代謝に苦しんでいるように見えますが、逆に日本はいい選手が出てきてくれたり、次の世代へのバトンの受け渡しがすごくうまくなされているので、他チームよりも戦力を落とさずに世代交代ができているんじゃないでしょうか。
――改めて、日本が強くなった要因はどこにあると思いますか?
柳田 ひとつは、フィリップ・ブランさんというキャリアのある監督が(2017年に代表コーチとして)日本に来て、いろいろな知識や、世界のバレーのトレンドなどをいち早く取り入れられる土壌を作ってくれたことが大きいと思います。あとはもちろん、石川選手や髙橋藍選手も、昨シーズンのような結果(石川はセリエA3位、髙橋はセリエA準優勝)を残し、海外リーグのトップにまで上りつめた選手が日本代表にいることで、おそらく他国に引けを取らないマインドが形成されているんじゃないかと思っています。
僕が代表にいた頃は、まだ石川選手も(セリエAの中で下位の)シエナだったり、彼自身まだトップに行く途中の段階でしたし、他に海外でトップになっている選手もいなかった。それに対して、例えばイタリアやアメリカの代表選手は、常にイタリアやロシア、ポーランドというレベルの高いリーグのトップでやっていた。そういう選手たちと対峙する中で、僕らは力の差を感じながらやっていましたが、今はもう見ていてわかるように、まったくそういうことは感じないし、なんなら日本が「こういうバレーボールをするんだ」と世界を牽引するような立場にいると感じます。
――これまでの日本は、ブラジルなど他国のバレーを取り入れて世界になんとか近づこうとしてきましたが、今では逆に日本のバレーを取り入れようとしている国もあるのでは?
柳田 あると思いますよ。僕らの時代は研究する側でしたけど、彼ら(現日本代表)はもう研究される側だと思います。「どうやったら今の日本に勝てるか」ということを、常に分析されているんじゃないか。これはかなりすごいことですよね。本当にトップにいるからこその対策をされる。たぶん「日本の守備をどう崩すか」というような話は、常に他国の中でされていて、それに立ち向かっていかなければいけない、という場所に立っていると思います。
――それを聞くと、少しパリ五輪が怖くなってもきました。徹底研究されるのではと……。
柳田 たぶんパリ五輪ではもうチャレンジャー側ではなく、どちらかというと相手がチャレンジャーとして向かってくる。立ち位置が東京五輪のときとは若干違うと思います。そのあたりは選手ももちろん理解していると思うし、戦い方だったり、崩れたときの立て直し方なんかも違うんじゃないですかね。そこは日本の強さが活きるところでもある。順応性の高さや対応力は、日本がずば抜けていると思うので。
今の日本って、細かいルールとシステムがしっかり確立されていて、そこから外れたことに対しての順応性もすごく高い。そこが伸びているから強いのかなと。それをコートに入っている全員ができるから、瞬時に判断して動ける。だから相手からすれば、予期せぬことがコートの中でどんどん起こって、ボールがコートに落ちる、みたいな状況になっていると思います。