連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(7) Jリーグで試合後すぐに審判が見解を説明することができないのはなぜか

木崎伸也

佐藤マネジャー「現役時代、試合後に説明したいと思っていた」

プロフェッショナルレフェリー時代、佐藤は「試合後にインタビューに応じたいと思っていた」と明かす 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 では、どうすれば「プロ審判員増加」と「誹謗中傷」といった課題を乗り越えることができるだろうか?

 結論から言えば、(まだかすかな光ではあるが)希望が見え始めている。

 プロ審判員を増やすうえで最大の壁は「お金」だが、JFAは予算確保のためにJリーグと話し合いを進めている。

 JFA審判部の太田は言う。

「JFA審判部の収入で一番大きいのは、審判資格を持っている方たちが払う登録費です。つまり大まかに言えば、子供から大人までさまざまなカテゴリーで審判をしている方たちから集めたお金が、プロフェッショナルレフェリーたちの報酬や、Jリーグ担当審判員の活動費用や研修事業に当てられているということです。

 この構造はサステナブルではないので、『審判員の育成強化にはリーグ側からも投資が必要ですよね』という話をJリーグとしながら、徐々に投資をし始めてもらっています。予算をもっと確保できれば、段階的にプロ審判員の比率を上げられます」

 もう1つの誹謗中傷については、もはやどの分野でも問題になっていることで、残念ながら予算確保のような簡単な答えはない。

 ただそれでも希望があると言えるのは、レフェリングに関してSNSで自浄作用が見え始めているからだ。

 審判マネジャーの佐藤は言う。

「誰もが競技規則を読み込んでいるわけではないので、SNSにおけるレフェリング批判の中にはルールの解釈が間違っているものもあります。ただ最近は『ルールはこうだから、その解釈は間違っていますよ』と指摘する方が増えているように思います。自浄作用が生まれているんです。時間はかかるかもしれませんが、そういう繰り返しを経てサッカー文化が成熟していくはず。僕は審判マネジャーとして月に1回メディアブリーフィングで、事例を交えてルールの正しい解釈を発信しています。情報発信を通して、サッカー文化の発展に貢献していきたいと考えています」

 今回、連載を通してレフェリーや関係者に取材をすることで、「サポーターやファンの納得感」、「選手とのコミュニケーション」、「審判へのバッシング防止」といったキーワードが浮かび上がってきた。

 ようは観戦者・選手・審判員という三者の関係をより近いものにすべきということだ。そのために互いに何を感じ、何を求めているのかをよく知ることが不可欠である。

 佐藤は「プロフェッショナルレフェリー時代、試合後にインタビューに応じて自分で判定を説明したいと思っていた」と振り返る。

 Jリーグでレフェリーが当たり前のように試合後にインタビューを受ける未来を心待ちにしたい。

<完>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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