大谷翔平、今永昇太、山本由伸ら日本人選手の“心理”をディープに考察!【五十嵐亮太×井口資仁のMLB対談2024】

柴山高宏(スリーライト)

昨年に続いて「スポーツナビ野球チャンネル」でMLB対談を行った五十嵐亮太(左)さんと井口資仁さん 【撮影:柴山高宏(スリーライト)】

 打率、本塁打、OPSといった主要なスタッツで上位をキープしている大谷翔平(ドジャース)に、先発勝利のみで「日米通算200勝」という偉業を成し遂げたダルビッシュ有(パドレス)。MLBでは今季も日本人選手が連日のように活躍を見せている。

 現役時代、メッツなどMLB4球団に所属した五十嵐亮太さんと、ホワイトソックス時代にワールドシリーズを制覇した経験を持つ井口資仁さん。両者が昨年に引き続き行った対談「五十嵐亮太×井口資仁のMLB対談2024」(全3回)が、スポーツナビのYouTube「スポーツナビ野球チャンネル」で公開されている。

 そこで、本稿では6月2日、9日、17日に配信した動画のハイライトを紹介しよう。五十嵐さん、井口さんともに、米国での取材経験やデータを参考にしつつも、それだけでは伺い知ることができない、選手心理に迫るディープな解説を堪能してほしい。

今永昇太の“凄さ”に迫る

 第1回のテーマは「MLBルーキー投手診断」。今季からMLBに移籍した今永昇太(カブス)、山本由伸(ドジャース)、松井裕樹(パドレス)の3選手について、ここまでのピッチングを振り返って、今後に期待したいことを語り合った。

 五十嵐さん、井口さんともに絶賛していたのが、今永昇太だ。この動画の収録を行った5月27日時点で9試合に先発登板し、5勝0敗、防御率0.84。「MLB.com」が5月22日(現地時間、以下同)に発表した先発投手のパワーランキング(投手の総合力を評価したもの)で1位に選ばれるなど、快進撃を続けてきた。

 その要因について、変化球やコントロール、リリースポイントなど複合的であるとしながらも、話題の中心は、ある球種に。MLB平均を上回る回転数を誇る“その球”を高めに投じてきたことが、ここまでの快進撃を支えてきた主な要因だという。

「この今永投手の長所をカブスは把握していて、キャンプから“この球”でファウル、空振りをいかにして取るかということをやっていた。キャンプでやってきたことがシーズンでも再現され、それが結果につながっている」(五十嵐さん)

「データ以上の投球をしている。脱力したフォームからキレのいい“その球”を投じたり、投球のテンポを変えるなどして、うまく打者を狂わせている」(井口さん)

見応えがあった大谷翔平との初対決(4月7日)。9球目に投じた“その球”で、見事に空振り三振を奪った 【写真は共同】

 その後、5月29日のブリュワーズ戦で7失点、6月4日のホワイトソックス戦で5失点(自責点1)と打ち込まれるも、9日のレッズ戦で7回途中2失点、15日のカージナルス戦で7回1失点の好投を見せ、7勝目。17日終了時点で、防御率1.89(ナ・リーグ2位)、奪三振率9.24(同14位)、K/BB 7.09(同2位)、WHIP 0.99(同4位)と、個人成績は依然上位をキープしている。

「このまま抑え続けたらオールスターやサイ・ヤング賞という話になるが、MLBはそんなに甘くない。対応されたとき、どう対処するのか。おそらく、次のことを考えているはず。ここをクリアしないと、この成績を維持することはできないし、それをやってのける選手なのか。応援したくなる」(五十嵐さん)

 今永の凄さと、ここまでの快進撃を支えた球種については、動画で確認してほしい。

【指標解説】
※K/BB:奪三振(K:strikeout)と与四球(BB:Base on Balls)の比率で、投手の制球力を示す。3.50を超えると優秀とされる
※WHIP:「Walks plus Hits per Inning Pitched」の略。投手を評価する項目のひとつで、1イニングあたり何人の走者(安打+四球)を出したかを表す数値。1.10を切ると優秀とされる

山本由伸がはまった陥穽

5月20日のダイヤモンドバックス戦で好投した山本 【Photo by Ronald Martinez/Getty Images】

 今永とは対照的に、出鼻をくじかれたのが山本だ。オリックス時代、3年連続で投手4冠(防御率、勝利、勝率、奪三振)に輝き、投手史上最高額となる12年3億2500万ドル(約455億円)もの契約を勝ち取って名門・ドジャースに入団するも、オープン戦3試合の防御率は8.38と精彩を欠いた。さらに、韓国で行われたパドレスとの開幕シリーズでは1回5失点で降板するなど、苦しいスタートとなった。

 まさかの展開に、NPB時代の“無双状態”を知るファンは、とまどいを隠せなかったのではないか。当初、山本が苦戦を強いられた要因について、五十嵐さんは「投球スタイルの確立があいまいだった」ことと、「ボールの違いに対応しきれず、本来イメージしていたボールを投げられなかった」と分析。井口さんは「日本だと真ん中から下のゾーンだけで抑えられていたが、MLBではそうはいかない。課題は真ん中から上のゾーンをいかに使うか。それができると、カーブが生きてくる」という。

 さらに、ウィル・スミスとオースティン・バーンズ、2人の捕手のよるリードの違いに翻弄された面も否定できない。五十嵐さんは、皮肉にも山本の“優秀さ”があだとなったと指摘するのだが、膝を打つこと請け合いの理由は、ぜひ動画でチェックしてほしい。

※リンク先は外部サイトの場合があります

「最近の真っ直ぐ、カーブ、スプリットを見ていると、NPB時代に近い変化、回転数で投げることができている。ここからドンドン良くなるんじゃないか」と五十嵐さん。実際、6月7日に行われたヤンキースとのインターリーグでは、7回無失点の快投を見せるなど、山本は尻上がりに調子を上げてきた。

 しかし、「好事魔多し」というように、15日のロイヤルズ戦で2回を投げたところで、右腕の張りを訴え降板。15日間の負傷者リストに入った。17日終了時点の防御率は、チームトップの2.92(ナ・リーグ7位)。奪三振率10.22(同8位)、K/BB 4.94(同4位)、WHIP 1.068(同8位)と指標が改善してきただけに、悔やまれるところだ。

 ルーキー診断3人目は、中継ぎとしてチームトップタイの33試合に登板している松井。NPB時代は通算11.73と高い奪三振率を誇ったが、MLBに移籍した今季は7.34と下降している。この変化に、五十嵐さんは「空振りを本人が思っている以上にとれない。レベルの高さを感じているのでは」と推察し、こう付け加えた。

「登板数が多く、このままだと70試合近いペースになるので、そこまで三振にこだわらなくてもいいのかな。防御率3点台前半でシーズンを投げ切ることができれば、松井投手にとって凄くいいシーズンになると思う」

 井口さんは監督の起用が安定しないことを指摘しながら、「8回などの(重要な)ポジションを勝ち取るための、ひとつの過程なのかな」と、エールを送った。

<次のページ:大谷翔平 編>

1/3ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント