連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(2) J2・J3にVARがなかなか採用されない理由

木崎伸也

W杯では1試合で13人もの大所帯がVARに関わっている

カタールW杯では「VAR1人・AVAR3人・RO3人」という7人体制で運用された 【Photo by Pablo Morano/BSR Agency/Getty Images】

 最上級のグレードを誇るのはやはりW杯だ。上述したように通常は、「VAR1人・AVAR1人・RO1人」という3人体制で運用されるのだが、2022年カタールW杯では「VAR1人・AVAR3人・RO3人」という7人体制で運用された。

 さらに補足するとカタールW杯ではVARルームがスタジアムとは異なる専用施設に設置されたため、万が一通信が遮断した場合に備えて「バックアップVAR」が各スタジアムに1人置かれた。さらにスタジアムには副審のバックアップも用意された。

 つまりスタジアムに「主審+副審2人+第4審判+バックアップVAR+バックアップ副審」、専用施設に「VAR+AVAR3人+RO3人」という大所帯だったのである(レフェリー10人+オペレーター3人)。

 AVAR3人の役割分担は次の通りだ。

【AVAR1】(アシスタントVAR)
主にメインカメラの映像を注視。VARがビデオで事象を確認している間、ピッチで起きていることをチェックしてサポートする。通常のAVARの役割とほぼ同じ。

【AVAR2】(オフサイドVAR)
オフサイドの判定を担当。半自動オフサイドテクノロジーの助けを借りて、潜在的なオフサイドをチェックする。

【AVAR3】(サポートVAR)
主にTV中継で流れている映像を注視し、VARの事象チェックをサポートする。

 W杯ではカメラの台数も違う。JリーグのVARには最大12台のカメラが使われているが、カタールW杯では42台のカメラが使われた(そのうち8台はスーパースローモーション、4台はウルトラスローモーション)。

W杯では、通常には設置されていない角度にもカメラが設置されている 【Photo by Dan Mullan/Getty Images】

 VARの最大のデメリットは、ビデオ判定に時間がかかって試合が止まること。その問題をカタールW杯では人海戦術で軽減したのである。

 とはいえ、「レフェリー10人+オペレーター3人」という運営体制を各国のリーグで実行するのは現実的ではないだろう。もともとVARシステムの目的は重大なミスの防止で、完璧さを目指すものではない。リーグごとに持続可能なグレードを採用すべきである。

 だからこそ「VARライト」が開発されたのだが、世界中に普及するにはさらなる簡易版が必要だ。もちろんビデオ判定の精度は落ちるだろうが、品質とコストがトレードオフなのは世の常である。

 VARが決して全知全能の神ではなく、あくまで道具のひとつにすぎない――そういうレフェリーにまつわる基本知識がさらに広く知れ渡れば、VAR簡易版の普及は早まるはずだ。

<次回に続く>

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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