長い低迷を経て、名門マクラーレンがついに復活か

柴田久仁夫

完全復活なるか

ノリス(左)、フェルスタッペン(中央)、ルクレール(右)。この3人による優勝争いが、今シーズンは何度も見られそうだ 【(C)redbull】

 それでもマクラーレンが今シーズン目覚ましい活躍を見せている最大の要因は、1年前に敢行した車体開発部門の大幅な体制変更だ。

 ザイドルの後任としてチーム代表に就任した技術者出身のアンドレア・ステラは、昨シーズン開幕早々に、マシン開発責任者のジェームズ・キーを解雇。新車MCL60の戦闘力があまりに低く、予選でほぼ最下位に低迷した責任を取らせた形だった。

 ステラ代表はその後、空力、デザイン、マシンコンセプト各部門の長が協力して開発を進める三頭体制を構築した。これが功を奏し、昨季中盤までは選手権6位に低迷していたのが、その後立て続けに投入したアップデートのおかげで、最終的に選手権4位まで順位を上げた。

 とはいえ昨シーズン終了時点では、まだレッドブルには全く歯が立たず、2、3位のメルセデス、フェラーリにも獲得ポイントで大きく引き離されていた。高速区間の多いコースでは表彰台を狙える速さを発揮できるが、低速コースは大苦戦と、サーキットによって得手不得手も激しかった。

 それが今季のMCL38は、その弱点はかなりの程度改善されている。たとえば上海サーキット特有の長く回り込む低速コーナーは、去年までのマクラーレンならお手上げだったはず。それが今年は予選から上位に進出し、決勝ではノリスが2位表彰台に上がった。

 マイアミで投入した改良版で戦闘力はさらに上がり、直近3戦は表彰台の常連になった。選手権4位のメルセデスにほぼダブルスコアをつけて、現時点のマクラーレンは完全にトップ3の一角を占めている。

 ではマクラーレンは今後も好調を維持し、選手権2位のフェラーリを追い落とし、レッドブルと毎レース優勝争いを繰り広げられようになるのか。

 そう言い切るのは、まだ時期尚早であろう。今季はフェラーリも開幕から好調で、去年までのようなつまらない戦略ミスも犯さなくなっている。何よりレッドブルがフェラーリ、マクラーレンの猛追を、そのまま放置するはずもない。

 とはいえ今回のエミリアロマーニャGPが象徴的だったが、各チーム間のタイム差は確実に縮まっている。たとえば予選Q1はトップのフェルスタッペンから17番手のローガン・サージェントまでの17台が、1秒以内にひしめくというとんでもない僅差だった。

 グランドエフェクトマシン導入から3年目を迎えて、マシンの性能差がようやく均質化した。その結果、今回のような超接近戦は今後も見られるだろうし、それだけレッドブルは簡単に勝てなくなっているということだ。

 そんな状況下、マクラーレンがどこまでやれるか。まずはこの3シーズン、目立った成績を上げられていない今週末からのモナコ、カナダ、スペインの3GPでの戦いぶりに注目してみたい。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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