現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

橋岡大樹の気合いと冨安健洋の平常心 残留争いと優勝争いの熱のなかで2人が見せた異なる姿

森昌利

冨安(中央)、橋岡(27番)の日本人対決ともなったアーセナル対ルートンは、プレミアの覇権を争うホームチームが貫禄の勝利を収めた 【Photo by Sebastian Frej/MB Media/Getty Images】

 4月3日(現地時間、以下同)、三つ巴の優勝争いの只中にあるアーセナルとプレミア残留をかけて厳しい戦いが続くルートンが激突した。1月にルートンに加入した橋岡大樹は、この試合でプレミア初のフル出場。不運なオウンゴールもあったが、3センターバックの一角として魂のこもったプレーを見せた。一方、故障明けの冨安は後半途中からピッチに立ち、2-0の勝利に貢献した。

自身のオウンゴールも「全然気にしてない」

「いいチームなのは間違いないですけど、やっぱりみんながお互いを助け合う気持ちっていうのは大切だと思いますし、それがチーム全体で『誰のせい?』『誰のせい?』『誰のせい?』っていうのではなくて、やっぱり『こうしたほうがいいよね』『こうしたほうがいいよね』っていうポジティブな声をもっと出していけばいいのかなと思います」

 あえて重複した言葉もそのまま使ってみた。そのほうがアドレナリンが出まくっている試合直後の感じが伝わるし、橋岡大樹という選手のキャラクターもより鮮明になると思ったからだ。

 橋岡へのこの取材は4月3日、ルートンが敵地エミレーツ・スタジアムで戦ったリーグ戦直後に行った。橋岡が「いいチームなのは間違いない」と開口一番に言ったのは、リバプール、そしてマンチェスター・シティと激しい三つ巴のタイトルレースを演じるアーセナル。厳しさという点では優勝争いに負けないプレミア残留争いの真っただ中のルートンだったが、残念ながらこのアウェー戦は大方の予想通り、2-0でアーセナルの完勝で終わった。

 しかも前半44分に記録され、アーセナルの勝利が色濃くなった2点目は橋本のオウンゴールだった。もちろんDFにとって不名誉なこのゴールについても質問が飛んだ。それに対して24歳の日本代表DFはこう答えた。

「気になってないです、全然。たぶん、本当に客観的に見てる人は『橋岡、オウンゴールか』とか『残念だな』とか思うと思いますけど、僕自身は、もちろんああいった状態で守らないといけないっていうのは、もちろんセンターバックとしてそうですけど、あそこで守らなきゃいけないっていうのは自分でも分かってますけど、また難しい状況だったんで1枚見て2枚……、後ろにも(相手が)いたっていうのを考えると、少し難しい場面ではあったなと思いますけど、まあオウンゴールに関してはそこまで気にしていないです」

 このコメントもあえて整理せず、そのまま使った。何かに急き立てられるように語を継ぐ橋岡に好感を抱いたからだ。

ミスをポジティブに捉えるくらいでないと戦えない

橋岡は前半終了間際、相手の折り返しをカットしようとして無念のオウンゴール。それでもすぐに顔を上げ、不慣れなセンターバックで懸命に守り、後半の無失点に寄与した 【Photo by Eddie Keogh/Getty Images】

 3月下旬のシーズン最後の代表ウイークが終わって4月に入ると、そのハードな日程を見ただけで今季も終盤戦に突入したことを実感する。10カ月にわたる長く激しいシーズンの総決算を迫られて、どのチームも最終戦というゴールを目指してラストスパートを切る。なかでも優勝を争うチーム、そして残留争いに巻き込まれたチームの試合には、選手の極限の必死さがピッチ上ににじみ出る。

 このアーセナル戦、ルートン・イレブンのなかでも特に橋岡からはそんな必死さが異様なほど発散されていた。

 必死に走り、最終ラインでチームメイトを指差し、大声を張り上げて鼓舞し、アーセナルの怒とうの攻撃に対峙(たいじ)していた。本人は試合後「全然気にしていない」と話したが、オウンゴールの瞬間、橋岡の表情があまりの心痛でぐにゃっと歪み、今にも号泣しそうに見えた。

 しかしその後にぐっと天をにらんで、最悪の失望を振り払うと、強豪相手のアウェー戦で0-2となって勝利が遠のいた戦いに、キックオフ直後のような勢いで挑んでいった。

 そして後半の45分はルートンがクリーンシートを保った。だから「この完封が自信になったと思うか?」と尋ねた。

「自信にはなると思います。で、正直、失点も難しい場面ではあったと思うので、一概にたぶん、まあ僕のせいとは正直……。そういうふうに見える人もいますけど、僕のなかでは相当難しいなっていう場面ではあったので、そこは僕のなかではポジティブに捉えていて。今日、守備の部分でもできていた場面もけっこうありましたし、コミュニケーションで僕も後ろで声を出しながらやっていた部分もあったので。で、日本人だからといって弱気になっちゃいけないと思うし、本当にチーム内で試合中に意見をもうバンバン、バンバン言い合う、喧嘩をするくらいでいいと思うんで。そのくらい言い合って、意見をぶつけ合って、納得するまで『こうしよう』『こうしよう』っていうふうに試合中でもやれば、またそれもいいコミュニケーションではあると思うんで、そういったところをまた続けていければいいなと思います」

 この質問にもまた矢継ぎ早に言葉を重ねて、橋岡のコメントが返ってきた。

 今読み返しても本当にいろんな思いが詰まっているのが分かる。オウンゴールをポジティブに捉える。それはどうなのかと思う人もいるかもしれない。しかし実際の話、そのくらいの気持ちがないと、プレミアリーグの残留争いなんて戦えない。ミスに負けて、気落ちしている暇など全くないのだ。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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