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優勝に向けてゴールへの意欲を燃やす冨安 覇権争いから脱落して無言の遠藤とは対照的に…

森昌利

アシストを記録できずに悔しがった冨安

ゴール、アシストという目に見える結果が欲しいと語る冨安。大量点でチェルシーを破ったことに満足しつつも、自身がアシストのチャンスを活かせなかったのを悔しがった 【Photo by Catherine Ivill - AMA/Getty Images】

 マージーサイド・ダービーの前日には、アーセナルのホーム戦を取材していた。こちらもチェルシーとのダービーだった。北ロンドンの盟主の座を争うトットナムとのダービーの方が、伝統がありヒートアップするが、2000年代半ばのジョゼ・モウリーニョ時代から目の上のたんこぶのような存在だった西ロンドンの強豪が相手。それなりの激戦が予想されたが、結果はアーセナルが5-0でチェルシーを完全に粉砕した。

 地元ライバルのエヴァートンに引導を渡されたリバプールとは対照的に、アーセナルはチェルシーをコテンパンに叩きのめして今季のロンドン最強を高らかに宣言すると、暫定ながらもしっかり首位を堅持。試合後の選手の表情も輝き、生き生きとしていた。

 そんななか、冨安健洋も取材に応じてくれた。

 まず開口一番、「得失点差も大事になってくるなかで、5点を取れたことは大きいと思います」と胸を張った。

 ここまで優勝争いがもつれてくると、勝ち点が並ぶというケースも当然想定される。チェルシー戦の5-0の勝利で、アーセナルの得失点差は82得点・26失点でプラス56点。プレミアリーグのなかで最も得点し、最も失点していないチームだった。これは選手にとって大きな自信にもなる。

 こんな強さが滲み出るような結果を残しているチームにいて、怪我から復帰したばかりの冨安はこんなことを言った。

「もうちょっと試合を重ねていくなかで良くなってくる部分も間違いなくあると思う。それをしっかりと続けながら、アシストだったり、ゴールだったりという、目に見える結果も残りの試合で残したいっていう気持ちがあります。今日もアシストのチャンスがあった。こういう(5点を奪った)試合でアシストだったり、ゴールできなかったのはちょっと悔しい部分ではありますけど、 残りの試合で目標としている数字を達成できればいいと思っています」

 もちろん近年のフットボールではサイドバックに攻撃力が求められるのは当然なのかもしれない。しかしDFもゴールを奪うことにここまで高い意識を持って試合に臨んでいるということをあらためて告げられると、やはり衝撃的だった。

 実際チームがボールを持つと、冨安のポジショニングがボランチに移り、その後の味方との連係次第で、左サイドの最前線にまで上がるケースも多々見られる。「攻撃に多様性が見られるが?」と尋ねると、「埋めるべきスペースっていうのはチームのなかで決まっています。状況を見ながら、それぞれが埋めていくっていうだけなんですが、それがバリエーションがあるように見えるんだと思います」と、選手にとっては豊富な運動量が不可欠ではあるが、ミケル・アルテタ監督という戦略に長けた若いスペイン人指揮官のきめ細かい指導が垣間見える話をしてくれた。

 さらに、昨季は終盤戦の勝負どころでスタミナが切れて勝ち点を落とし、マンチェスター・Cに逆転優勝を許したチームに「今季は落ち着きがある」という。「いい意味で、去年とは違った部分っていうのはあるかなと思っています。去年はどっちかっていうと勝たなきゃいけないっていう心理状態になっていた部分もあったと思う。しかし今年はいい意味で1試合1試合やっていく感じはあります」と続けて、ヤングアーセナルの1年の成長を語っていた。

 このコメントからも優勝争いに必要な平常心がチームに宿っていることが分かる。このようなメンタルの強さが“勝ちたい、勝たなくてはならない”という重圧に負けた昨季の経験から生まれ、しっかりと今季の糧となった。それが厳しい三つ巴のタイトルレースで息切れせずに走り続けるアーセナルの原動力となっている。

 そしてアーセナルが大勝した2日後、リバプールが負けた翌日の4月25日、前人未到の4連覇を狙うマンチェスター・Cは、三笘薫も含めて主力に怪我人が続出し、やる気を失ったロベルト・デ・ゼルビ監督率いるブライトンを相手にアウェーで4-0の勝利。本当にこのチームは毎シーズン、4月以降に負ける、いや引き分けもほとんど見たことがない。

 こうした安定感を見せつけられるとやはり、2018-19シーズン、そして2021-22シーズンにリバプールと壮絶なタイトルレースを展開し、どちらも1ポイント差で優勝を果たしたマンチェスター・Cが今季もアーセナルとのつば迫り合いを制するのではないかと思ってしまう。イングランド史上でも稀に見る三つ巴の戦いは4月下旬に事実上終焉したが、2強の優勝争いは最終節まで続きそうだ。

運も味方につけたアーセナルが大難関を突破

4月28日、マンチェスター・Cはフォレストに快勝。これで19戦連続負けなし(15勝4分)で、消化試合が1つ多い暫定首位のアーセナルを1ポイント差で追う 【Photo by Copa/Getty Images】

 2-2の引き分けに終わった4月27日のウェストハム戦は、リバプールが優勝争いから脱落したという事実をより確実にした試合になった。

 先制され、一時は意地を見せて後半に2-1と逆転に成功したものの、その後ウェストハムに押し込まれると簡単に同点弾を許した。試合終盤にはタッチライン際で交代を待っていたモハメド・サラーとクロップ監督が口論したが、この出来事も優勝争いから脱落したことを少しだけ強調した。遠藤は記者団の前に姿を現したが、コメントを求められると苦笑しただけで、足早にチームバスに向かって歩き去った。

 まあ、足を止めても勝ち点を落としまくったこの数試合の話になるだけで、気乗りがしないのは仕方がない。

 一方、アーセナルは優勝への大難関と見られたトットナム・アウェー戦の前半で、あれよあれよという間に3点を奪った。本当に“ついている”という印象だった。コーナーキックからのプレーで、冨安がニアサイドでうまくピエール=エミル・ホイビェアの動きを封じたことで、前半15分という早い時間帯にこのデンマーク代表MFのオウンゴールが生まれた。

 かたや同22分にきれいに決まったかに見えたトットナムDFミッキー・ファン・デ・フェンの同点ゴールは際どいオフサイドで取り消し。するとその5分後の前半27分、ブカヨ・サカがカウンターから2点目を奪い、同38分にはカイ・ハフェルツがコーナーキックに至近距離で頭を合わせてあっさり3点目を追加。ホームのトットナムのほうがエネルギッシュで攻撃的なパフォーマンスをしていたなか、アーセナルが非常に効率よくゴールを立て続けに奪って、優勝争いをするチームの勢いを見せつけた。

 後半、トットナムが2点を挙げて追いすがったが、やはり前半に3点のビハインドを負ったのが響き、憎きアーセナルから勝ち点を奪い取ることはできなかった。

 結局、アーセナルが3-2で勝利。勝ち点を80に伸ばして暫定首位をキープした。

 そしてこのアーセナルの試合の直後、マンチェスター・Cはルートン、バーンリーと残留を争うノッティンガム・フォレストと対戦。どんな形でもいいから勝ち点を積み上げたいフォレストが守備を固めて試合に臨むことは明らかで、フラストレーションの溜まる戦いを強いられることが予想された。しかし王者は前半に1点、後半に1点奪い、終わってみれば2-0の完勝。前日にウェストハムと引き分けたクロップ監督が「彼ら(アーセナルとマンチェスター・C)がこのシーズン終盤戦に2敗も3敗もすると思うのか? 私は思わない」と語った通りの結果となった。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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