ウェルター級で期待度ナンバー1の強打者・佐々木尽が復帰【5月のボクシング注目試合】

船橋真二郎

韓国で元世界王者の京口&谷口、ミドル級の竹迫が競演

左から京口紘人、伊藤雅之・TBプロモーション代表、竹迫司登、谷口将隆 【写真:船橋真二郎】

 5月11日、韓国・仁川のパラダイスシティで元世界王者の伊藤雅雪(本名・雅之)さんが代表を務めるTB(トレジャーボクシング)プロモーションの第6弾興行が開催され、ワタナベジムの同い年の元世界王者2人、京口紘人(30歳、18勝12KO1敗)、谷口将隆(30歳、17勝11KO4敗)と東洋太平洋ミドル級王者の竹迫司登(ワールドスポーツ/32歳、16勝15KO1敗1分)が参戦。それぞれ重要試合に臨む。

 メインを務めるのは元世界2階級制覇王者の京口。「3階級制覇という目標を掲げて、フライ級に上げてチャレンジしてきて、これが最後のステップになると思うので、しっかりといい内容で勝ちたい」と意気込む。

 拳を交えるIBF世界フライ級9位のビンス・パラス(比/25歳、20勝15KO2敗1分)とは2018年5月、京口がIBFミニマム級王者時代に対戦。大差の判定で2度目の防衛を果たしたが、3回に当時13戦全勝11KOで勢いのある19歳に左フックでキャリア初のダウンを奪われている。京口は「タイミングの独特なジャブ、フック系の大きなパンチに気をつけたい」と警戒しつつ、6年が経過しての2階級上での再戦に過去の姿にとらわれすぎないように、と気を引き締める。

 パラスは直近の2戦、TBプロモーションに起用され、花田歩夢(フリー)、石澤開(M.T)と日本の実力者を連破。伊藤代表は「(京口に)リベンジしたいとパラス本人からも強く言われた」という経緯を明かし、強い気持ちで挑んでくる。

 これがフライ級3戦目の京口は、前戦でフィリピンの中堅どころを京口らしいダイナミックな左アッパーで3回に仕留め、階級にフィットしつつあることを示した。さらに半年以上が経過。体づくりに徹底して取り組んだ成果が体つきに表れ、「いい階級アップのキャリアが積めている」と絶好のタイミングで勝負の一戦を迎える。

 3団体で世界ランク入りする京口のIBFランクは4位。6月29日にファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)のWBC世界スーパーフライ級王座に挑戦するジェシー・ロドリゲス(米)が返上、空位になった王座は1位のアンヘル・アヤラ(メキシコ)と大橋ジムが契約する3位のデーブ・アポリナリオ(比)の間で争われることが有力視される。次の最上位ランカーが京口で(現在2位は空位)、伊藤代表は次戦にも新王者に挑戦させたいと青写真を描く。

「しっかり返り討ちにして、世界タイトルまで突っ走りたい」と京口。5月6日にはWBA王者の阿久井と桑原の日本人対決がある。京口の存在感が増せば、フライ級戦線が熱を帯びてくる。

 セミファイナルに登場の竹迫は、東洋太平洋ミドル級5位のテイジ・プラタップ・シン(豪/37歳、18勝8KO7敗3分)と初防衛戦。竹迫は昨年4月にもTBプロモーションの韓国興行に出場し、同じ会場でWBO世界ミドル級4位のミーリン・ヌルスルタノフ(カザフスタン)に奮闘するも、終盤8回TKO負けで力尽きた。「前回の負け(の借りを)を返したい」という思いもモチベーションのひとつになっている。

 プロ初黒星をきっかけに昨夏は米国・ロサンゼルスで1ヵ月、今年2月にはオーストラリアで2週間、スパーリング中心の武者修行に出て、意欲的にレベルアップを図ってきた。「前回の負けから1年。成果を試合で出せたら」と竹迫。昨年10月の再起戦で東洋太平洋王座に返り咲き、世界ランクにも入った(WBC14位)。経験豊富なインド出身のサウスポー相手に「内容次第では実力をアピールできると強く思っている」と難関のミドル級で上を目指す決意を込める。

 元WBO世界ミニマム級王者の谷口はライトフライ級に上げて2戦目。昨年8月の再起戦では当時43歳の堀川謙一(三迫=引退)に判定勝ち。が、アゴを割られるなど、大ベテランの意地と老かいな技に苦闘を強いられ、「勝てたことだけが救い」と反省する。

 9ヵ月ぶりの復帰戦で相対するジェイセバー・アブシード(比/29歳、22勝13KO13敗)は負け数こそ多いが、実戦派のサウスポーで左右の拳に威力を秘める危険な相手。6年前、現・WBAフライ級王者の阿久井に8回TKO勝ちした実績が光る。昨年6月には石澤開に5回KO負けも、3回には痛烈に倒し、あわやのシーンを演出した。

「そういう相手にしっかり勝って、2階級目も狙えることを証明したい」と谷口。集中力を研ぎすませ、持ち前の縦横自在のステップで強打を空回りさせたい。谷口もブランク中は体づくりに励み、「だいぶ体がなじんできた。前回より強い姿を見せられると思う」と手応え。アブシードとのサウスポー対決で存在をアピールする。イベントは「U-NEXT」でライブ配信される。

日本タイトルを巡る因縁のダブルリターンマッチ

豊嶋亮太へのリベンジを期す“逆輸入ボクサー”坂井祥紀 【写真:ボクシングビート】

 返り討ちか、リベンジか――。5月4日の後楽園ホールで行われるダブル日本タイトルマッチは、いずれも因縁のリターンマッチになる。

 日本ウェルター級タイトルマッチ、王者の坂井祥紀(横浜光/33歳、29勝15KO13敗3分)と挑戦者1位の豊嶋亮太(帝拳/28歳、18勝11KO3敗1分)の顔合わせは、2年7ヵ月前とは立場を入れ替える形になった。前回は東洋太平洋、WBOアジアパシフィックの2冠に君臨する豊嶋が終始展開をリード、粘る坂井を熱戦の末に判定で振り切った。今回はどうなるか。

 坂井は19歳の2010年6月、メキシコを拠点にプロデビュー以来、北中米のリングで36試合を戦った経歴を持つ“逆輸入ボクサー”。2019年暮れに帰国後、昨年4月の王座決定戦を制し、国内3度目のタイトル戦でベルトを巻いた。ブロック、カバー、パーリング、メキシコ仕込みのディフェンス技術をベースに前にプレスをかけて戦い、ここまで2度の防衛に成功している。

 空手、キックを経て、高校卒業後に福岡から上京した豊嶋も19歳の2014年11月にデビュー。2016年にはトーナメントを勝ち抜き、全日本新人王に輝いた。着実なキャリアが実を結んだのは2021年。一気に2冠王者となり、12月には坂井の挑戦を退けた。こちらは攻撃力を前面に出す。ステップアップを期した昨年1月、佐々木尽に衝撃の初回KO負けで王座陥落。11月、粘り強く挑戦者決定戦に競り勝ち、チャンスを手にした。

 坂井は豊嶋、豊嶋は佐々木に敗れて以降、本領を発揮しきれない試合が続く。両者の実力には疑いはない。坂井はリベンジ、豊嶋は王座奪還、明確な戦う理由とライバルを得て、停滞ムードを吹き飛ばす予感は十分。どちらが佐々木の対抗王者として生き残るか。前回以上の熱戦に期待したい。

左から横井龍一トレーナー、川満俊輝、三迫貴志会長。安藤教祐の挑戦を受ける 【写真:船橋真二郎】

 王者の川満俊輝(三迫/28歳、9勝5KO1敗)に挑戦者1位の安藤教祐(KG大和/31歳、13勝6KO4敗)が挑戦する日本ライトフライ級タイトルマッチは、両者がノーランカー時代の2021年1月以来の対戦。前回は試合の2週間前に急きょ代役に立った川満が右のワンパンチで安藤を沈め、初回わずか46秒でフィニッシュしている。

 川満は元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(志成)と沖縄・宮古工業高の同級生。鹿児島・第一工業大と合わせ、50戦35勝15敗のアマチュア戦歴がある。プロ7戦目のタイトル初挑戦は、現・IBF世界ミニマム級王者の重岡銀次朗(ワタナベ)の前に2回TKOで打ち砕かれた。が、再起戦で全勝全KOの世界ランカーに3回TKO勝ちして再浮上。昨年12月、神戸で38歳のベテラン王者・大内淳雅(姫路木下)を2回でストップし、初戴冠を果たした。

 対する安藤はプロ叩き上げ。会社の同僚で今年3月、米国で世界挑戦した阿部麗也(KG大和)に誘われてジム通いを始め、23歳でプロデビュー。阿部と同じく、サラリーマンボクサーとしてキャリアを進める。1年前の昨年5月に初のタイトル戦に臨むも、元WBO世界ミニマム級王者の山中竜也(真正)に大差判定負けで王座獲得ならず。それでも半年後の11月、挑戦者決定戦に5回TKO勝ちでリベンジとタイトルがかかった舞台に進んできた。

 勇猛な“沖縄ファイター”の系譜を継ぐ川満はもともと連打型だったが、大内から右の一撃で試合を決定づける痛烈なダウンを奪うなど、一発のタイミングをつかんできた感もある。安藤も決定力には定評があり、一瞬のチャンスを逃さない勝負強さも持ち合わせる。試合終了のゴングを待たず決着がつく可能性が高い。イベントは「U-NEXT」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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