ジェフ・フレッチャー著『SHOーTIME2.0 大谷翔平 世界一への挑戦』

内側側副靱帯の「断裂」が発表された大谷翔平 エンゼルスと代理人の“声明”から伝わってきたもの

ジェフ・フレッチャー
 エンゼルスの番記者のジェフ・フレッチャーが綴る、現在進行形の生きる伝説の舞台裏!
 二刀流・大谷翔平のMLBの2022年シーズンから始まり、2023年シーズンとWBC優勝、そして新天地移籍までの舞台裏を追ったノンフィクション。
 アーロン・ジャッジ、マイク・トラウトといった、強力なライバル&盟友らの背景や生い立ちなど、アメリカのベテラン記者ならではの視点で描かれた「大谷本」の決定版!!

 ジェフ・フレッチャー著『SHOーTIME2.0 大谷翔平 世界一への挑戦』から、一部抜粋して公開します。

復帰までのロードマップ

【USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 エンゼルスのペリー・ミナシアンGMが、大谷翔平の内側側副靱帯の「断裂」を発表するやいなや、野球を少しでも知る者なら誰でも、彼の直近の未来がどうなるかは理解できた。

 まずは手術だ。2018年に、エンゼルスが初めて大谷の内側側副靱帯、つまり、肘において投球でもっとも重要な役割を果たす靱帯の断裂を発表したときと同じことだ。

 野球の上手投げは、そもそも人間にとっては不自然な動きであり、しかも、投手があれほどの球速を出すためにその動きを繰り返し続けていると、必然的に肘の靱帯を痛めることになる。

 野球の歴史上、何十年にもわたり、内側側副靱帯の断裂はそのまま投手生命が絶たれることを意味していた。

 だが、1974年に、フランク・ジョーブ博士が、この靱帯を取り換える手法を編み出したことにより、投手に一筋の希望の光が与えられた。

 第1号として手術を受けたのが、ドジャースの左腕投手、トミー・ジョンだった。ジョーブ博士はジョン自身の体にある腱を取り出して、彼の肘に移植し、断裂した靱帯の代わりとしたのだ。

 手術は成功し、以来、この革命的手術に最初の患者の名前がついて今に至っているわけだ。

 それからというもの、数百人単位の投手がトミー・ジョン手術を受け、大部分は復帰して負傷前と同じレベルの投球を取り戻してきた。

 大谷はむしろ、手術前より復帰後のほうがよくなった1人だ。2018年のトミー・ジョン手術以前よりも球速が増し、機能性も上がった。トミー・ジョン手術の成功率は非常に高いが、だからといって半永久的な万能の解決策というわけではない。手術から復帰した投手は、以前と同じように腕へ負荷をかけるわけで、再建された靱帯が再び断裂してしまう恐れは十分にある。

 これがまさに、8月23日のシンシナティ・レッズ戦で先発登板して再び靱帯が断裂していることを知らされた大谷が直面した事態だった。

 最初の手術のときは大谷がまだメジャーの新人選手で、年俸も最低額に近く、チームは少なくともあと5シーズンは彼の保有権を持っている時期だった。

 だが、今回の大谷は、数カ月後にFAを控えており、億単位のドルが動く契約が結ばれるのは確実である。大谷の肘関連の情報をエンゼルスが出す代わりに、大谷側の代理人であるネズ・バレロが慎重に発信した理由でもあった。
 負傷が発覚してからの数日間、エンゼルスが当初の声明で発表した「2023年には、もう登板しない」という一報に続く最新情報は出なかった。

 負傷後、2週間近く経ち、ついにバレロは大谷に「加療が必要」であることを認めたが、具体的な点については明言しなかった。

 9月19日、つまり、腹斜筋が原因で打者としての大谷もシーズン終了となった日に、大谷はついに手術へ踏み切り、バレロのオフィスもいまひとつはっきりしない声明を出した。

 2018年にも大谷のトミー・ジョン手術を担当したニール・エラトロッシュ博士が、再び今回の手術を担当し、同医師の言葉がバレロの声明の中で引用されている。

「最終的なプランとしては、ショウヘイとの詳細な討議の結果、手にある組織を取り出し、健康な靱帯として再建しつつ、肘の寿命を延ばすためにさらに組織を加えていく。私は完全な回復を確信しており、2024年開幕のころには制限なく打撃ができるようになり、(打つことと投げることの)両方ができるようになるのは2025年を見込んでいる」

 この声明のなかに、「トミー・ジョン手術」という言葉は入っていなかったが、エラトロッシュの声明を聞いた医師はみな、大谷が二度目のトミー・ジョン手術を受けるのだと確信した。

 最初に目につくのが、「さらに組織を加える」という言葉だ。つまり、体のどこかからか組織を取り出して肘に移植する、つまり、トミー・ジョン手術の趣旨そのものだ。また、もう1つ、今後の予定として、大谷は2025年までは投げないと明言している。

「これがたんなる修復手術なら、だいたい6カ月から8カ月くらいで復帰するわけです。ということは、2024年シーズン中に復活できることになる」

 そう語るのは、ニューヨークの特別手術専門病院でスポーツ外科手術医を務めるジョシュア・ダインズ博士だ。

「2025年シーズンについて言及している事実を見ると、回復期間として16カ月から18カ月を設定していて、これこそが、元がどこであれ身体のどこかから腱を取り出して肘の靱帯として移植するという、トミー・ジョン手術の特徴そのものを表している」

 ゲイブ・ホーネフ博士は、ペンシルバニア大学ペレルマン医学部の肩および肘の担当ディレクター医師だが、同じくエラトロッシュ博士の表現がトミー・ジョン手術そのものであると述べた。

 ホーネフとダインズは同時に大谷の手術にインターナル・ブレースという新しいテクノロジーも含まれている点も指摘した。

 ジェフリー・デュガス博士は、アンドリューススポーツ医学整形外科センターの外科医であり、数年前にこの新手法を開拓した。

 デュガス博士は、再建された靱帯を強化するために、特別な種類の医療用テープを用いた。このテープはコラーゲンでコーティングされており、体の一部を使っている点は同じだが、テープ周りの組織がさらなる強度を与えることになる。

 ダインズ博士によると、インターナル・ブレースが実際の組織の移植に代わりとして使われたかどうかを判断することはできないという。現時点では、あくまでも補強材料として、「ベルトとサスペンダーを着けたようなもの」だとダインズは言う。

「われわれとしては、まだこれが万能の解決策と言い切るには至らないが、同業者と話していても、この手法が広まりつつあるのは確かだ。あと数年のうちに、どのような結果が期待できるのか、ある程度、方向性が見えてくると思う」

 ホーネフ博士によると、大谷の肘にインターナル・ブレースを使用することで、回復期間がわずかながら早まる可能性があるという。

 これも声明で示された時間軸と合っている。

 大谷は2018年のトミー・ジョン手術後、7カ月は実戦で打撃ができなかったが、エラトロッシュ博士の声明では2024年シーズン開幕には打撃ができるようになると明言しており、つまり、今回は6カ月で復帰できる計算になる。

 ただ、ここでさらに重要なのは、大谷が投手としてどのように復活するかということだ。ダインズ博士に言わせると、一般論として、二度目のトミー・ジョン手術を受けた投手は、一度目の手術後ほどには戻らない。なぜなら、当たり前の話だが、投手本人が年齢を重ねているからだ、という。

 さらに、医師が二度目の手術を執刀するときには、すでに一度取り替えられた組織や骨の構造を再びいじることになる。

 医師は新しい組織を移植するために骨にドリルで穴を開けるわけだが、二度目になると、また新しい穴をドリルで開けなければならない。

 二度目のトミー・ジョン手術に関して、「予後は確実に一度目より見劣りする」とダインズ博士は断言する。

「投手としての大谷を見ると、率直に言って一度目の手術後のような結果は期待できないだろう。もちろん、彼が特別な存在であることは誰もが知っているとおりで、もしも、私の推論が間違っているとするなら、彼自身が証明してくれるだろう」

 ホーネフ博士は、手術後の投手が手術前と同じレベルに戻ることは可能としたが、ただ、長年にわたってそのレベルを維持することはできないという。また、1試合で以前ほどの球数は投げられなくなる可能性が高いという。

「つまり、投手としての耐久時間が今後は問題になるということだ」

書籍紹介

【写真提供:徳間書店】

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