現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

アンカーとして本来のスタイルに徹した遠藤航 プレミア優勝へ、職人芸の守備で貢献する予感

森昌利

最終ラインの前に構え、得意のボール奪取でブライトンの攻撃の芽を摘み取った遠藤。文字通り防波堤となり中盤の守備を支えた 【写真:ロイター/アフロ】

 3月31日(現地時間、以下同)、リバプールはホームでブライトンと対戦。この試合で遠藤航はあまり前に出ず、最終ラインと連動しながら主に守備の局面で貢献した。チーム全体を押し上げて、相手にプレッシャーをかけ続ける超アグレッシブなサッカーを実践するリバプールで、アンカーとして本来のプレースタイルに徹することができるようになったのは、チーム内での信頼が確立されたからだろう。

サポーターも遠藤のシブい見せ場を理解するように

 リバプールとブライトンが対戦した3月31日から英国は夏時間となった。

 プレミアリーグも残り10試合となり、シーズン終盤戦に突入する代表ウイーク直後の試合だった。

 晴天も手伝って一気に春めいた陽気となり、暖かい陽光が降り注いだ昼下がり。午後2時のキックオフを待つアンフィールドでウォーミングアップを終えると、遠藤航は輝くような緑のピッチ上でコナー・ブラッドリー、ジャレル・クアンサー、フィルジル・ファン・ダイク、そしてジョー・ゴメスの4選手と親密なハイタッチを交わした。彼らはこの試合の4バックの先発陣だった。

 そんな光景を眺めてから、実際に試合を観戦すると、遠藤が本来のアンカーとしての存在感をさらに明確にしたように感じた。

 元日に行われたニューカッスル戦の直後に遠藤と話をした時は、30代にしてアグレッシブ極まりないヘビーメタル・フットボールのなかに放り込まれ、そこでレギュラーを勝ち取るために「このチームのアンカーは5メートル前でプレーしなければならない」と言っていたが、今回のブライトン戦では守備で職人芸を見せるMFになっていた。

 前に出るのはアレクシス・マック・アリスターに任せていた。自分の位置を押し上げるより、右前方にいるアルゼンチン代表MFにいいボールをつけることに注力した。

 しかしそれも考えてみれば、昨年12月から4カ月近くもリバプールという強豪チームでがっちりとレギュラーの座をつかんでいるゆえだと思う。

 夏に加入して約1週間後のリーグ戦で初先発したが、この時はレギュラーとして時期尚早と判断された。リバプールのNO.6として少し守備的すぎた。その後3カ月間ほどはカップ戦要員だったが、ここでチームの過激さを身をもって体験し、理解しながら、徐々に頭角を現した。意識的、組織的に混乱を生み出すカウンタープレスのフットボールに慣れ、的確に対応する反射神経を身につけると、途中出場した12月3日のフラム戦で見事な同点弾を決めて、チーム内で信頼を勝ち取った。

 ただし元日の試合を終えると、アジア杯に出場するために1カ月以上もイングランド北西部の港湾都市を留守にするしかなかった。それでも中東カタールでイランに準々決勝で敗れて復帰すると、怪我人が続出していたこともあったが、日本代表主将はあっという間にリバプールにとって不可欠なピースになった。

 3月10日に行われたマンチェスター・シティとの天王山にも当然のように先発して(このような試合に先発する選手こそ真のファーストチョイスである)存在感を示すと、ここからの連戦でさらにマジックのようにボールを奪い返すシーンを次々と生み出し、豊富な横の運動量で最終ラインをプロテクトし、相手の攻撃の芽を絶妙な当たりで潰しまくって、自分本来の良さをピッチ上で表現し続けた。

 こうして毎試合出場することで、遠藤が周囲の選手の特性を理解すると同時に周囲の選手も日本代表主将の特性を理解した。

 サポーターも遠藤のシブい見せ場を理解するようになった。相手選手の懐やルースボールに飛び込む日本代表主将の姿に「カモン! エンドー!!」と声援が飛ぶ。

 すると自然に、遠藤の本来の良さが最も活かされる中盤の底が31歳MFの不可侵のテリトリーとなった。

3バックに近い形になってパス回しに参加した遠藤

守備の局面での貢献が目立った遠藤だが、ボールを奪った後は即座に前方へ正確なパスを送り、攻撃の起点としても機能した 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 リバプールは今回のブライトン戦でキックオフ直後の前半2分に不運な失点をした。ファン・ダイクがクリアし損ねたボールがこぼれ球となり、これをベテランFWダニー・ウェルベックが右足で蹴り込んでブライトンが先制した。必勝のリバプールがホームで不覚を取る形になった。

 ウェルベックのハーフボレーシュートは、今シーズンで最高の“当たり”だった。さすがは元マンチェスター・ユナイテッドFW、今でもリバプール戦となると目の色が変わるようだ。

 しかしこの後は三笘薫をはじめ、ジョアン・ペドロ、ソリー・マーチ、ビリー・ギルモア、ジェームズ・ミルナーら何人もの主力選手を欠いていても、ショートパスを的確につないでゴールに迫るブライトンに、リバプールはインテンシティの高い守備で対抗し追加点を許さなかった。

 その中心に遠藤がいた。不思議なほど足が伸びるタックルでボールを奪い返し、ブライトンのチャンスの芽を潰して、守りの場面を一瞬にして攻撃に切り替えた。

 またビルドアップではセンターバックのファン・ダイクとクアンサーの間に入り、3バックに近い形を作ってボールを回し、チャンスと見れば前方にいるマック・アリスターにきれいなパスを送った。

 すると今季リバプールで10番を背負う25歳アルゼンチン代表MFが、昨季まで同じ番号をつけてプレーしていた古巣を相手に覚醒し、エースのモハメド・サラーとのホットラインを築くと、危険極まりない絶好機のクリエイターとなった。

 それを象徴するのが、後半20分に生まれたリバプールの逆転ゴールのシーンだ。

この試合で際立ったパフォーマンスを見せたのがマック・アリスターだ。決定機を作り出すパスを連発し、サラーの逆転ゴールもアシスト 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 先制された後、リバプールは再三決定機を生み出した。しかしフィニッシュの正確性に欠けていた。代表ウイーク直後の試合で、わずかながらFWのインテンシティが足りていなかった。開始早々に先制されてアドレナリンが大量に放出されたこともあって、少しばかり力んだこともあっただろう。ただしそれも、リバプールの神がかった最高のフィニッシュを基準にしての話だが。

 それでも前半27分にルイス・ディアスがコーナーキックからの流れで同点弾を決めた。サラーが相手のクリアボールをヘディングでペナルティエリア内に戻すと、ブライトンのジョエル・フェルトマンが振り上げた左足に当たってゴール前への浮き玉になった。そこに韋駄天のコロンビア代表FWが飛び込み、見事に右足で押し込んだ。

 こうなると後半は開始直後からリバプールの流れとなり、逆転は時間の問題という雰囲気となった。そのなかで、マック・アリスターの華麗極まるアシストシーンが生まれた。

 後半20分、まるで魔法がかかったかのようなゴールだった。この試合、マック・アリスターはそれまでに少なくとも2回、アシストがついてもいいラストパスをサラーに出していた。これが3度目の正直だった。

 ポゼッションで優位に立っていたリバプールは、14本のパスをつないでこの逆転ゴールを奪った。ビルドアップには最終ラインと連係した遠藤も絡んでいた。そして鍵となるパスが主将ファン・ダイクから右サイドに開いていたドミニク・ソボスライに飛んだ。

 ボールを受けた23歳ハンガリー代表MFがドリブルで駆け上がった。そして今にも閉まりそうな狭いスペースを狙って、横パスを放った。それを中央、ペナルティエリアの手前で受けたマック・アリスターは、「すごく強いボールだった」と試合後に苦笑いしながら語ったが、ソボスライが自陣に完全に引きこもっていたブライトンの守備陣の間を通したボールに“思いやり”は全くなかった。

 しかしマック・アリスターはその強烈な、シュートのような球足のパスを左足に収めると、次の瞬間、元同僚のブライトン主将ルイス・ダンクとドイツ代表MFパスカル・グロスの間の1メートル足らずのスペースを突いて、前方のサラーの足元へスルーパスを送った。

 前半に2度、決定機を逃したが、このチャンスを外すようなエジプト代表FWではなかった。ゴール前で自慢の左足を合わせてブライトン・ゴールの左隅にきっちりとシュートを流し込んで、リバプールが逆転した。

 もちろん、この後には同点を狙うブライトンが攻め込むシーンもあった。しかしフットボールの神様は、今季限りでの勇退を宣言したユルゲン・クロップと有終の美を飾ることをなにより望むアンフィールドの熱い大観衆の前で、残酷なドロー劇を生み出すことはしなかった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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