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プレミアリーグで“お疲れ”のイングランド代表 EURO2024を前に慢性化した不安を露呈

森昌利

ブラジルとの対戦は6年半ぶり。エースのケインをはじめ主力数人を欠いたイングランドは、後半に入ると疲れが見えはじめ、終盤にゴールを奪われて0-1で敗れた 【Photo by Eddie Keogh - The FA/The FA via Getty Images】

 代表ウイークでプレミアリーグは小休止。3月23日(現地時間、以下同)には、イングランド代表がロンドンのウェンブリー・スタジアムでブラジル代表と対戦した。親善試合とはいえ、サッカー王国を相手に勝利を収め、6~7月にドイツで開催されるEURO2024(ヨーロッパ選手権)に向けて弾みをつけたいところだったが、0-1で惜しくも敗北。この試合を通じてイングランド代表が抱える課題が改めて浮き彫りになった。

聖地ウェンブリーでは相手がどこでも負けてはならない

 ジョン・クロスは現在、英大衆紙『デイリー・ミラー』の主任フットボール・ライターを務めている。北ロンドンの地元紙『イズリントン・ガゼット』でフットボールの取材を始め、アーセナルのクラブ内にニュースソースを開拓すると、2002年からミラーの記者となった。2015年に出版されて世界的なベストセラーとなった『アーセン・ヴェンゲル』の著者でもあり、一昨年の2022年から英国のフットボール・ライター協会会長も務める人物。この国でフットボールを追いかければ必ずどこかで彼の姿と名前を目にすることになる。

 非常に温厚な性格で、現場ではいつも笑顔で「good to see you」(会えて嬉しいよ、といった挨拶)と声をかけてくれる紳士だ。ところがイングランド代表がホームでブラジルに0-1で負けた親善試合の直後にカメラの前に立たなければならないとなると、かすかにではあったが彼ほどの人格者でも苛立ちが隠せなかった。「もちろん相手がクオリティの高いチームであることは承知している。それに今季の激しいプレミアリーグの戦いも影響しているのだろう。しかし特に後半、イングランドに疲れが見えた」と早口で語ったジョンの表情には、暗い影のような失望の色が浮かんでいた。

 けれども、ジョンも言っている通り、相手はブラジルである。W杯優勝5回は史上最多の、言わずと知れたサッカー王国。負けて恥じ入ることはない、と言いたいところだが、イングランド人にとって聖地ウェンブリー・スタジアムではどこと対戦しようが、母国の代表チームが負けてはならないようだ。

 実際、ブラジル戦の直近5試合の戦績は1勝3分1敗だったが、負けたのはブラジルのホーム扱いになったカタールでの一戦で、ウェンブリーでは3戦無敗だった。

 しかもブラジルは、2026年W杯予選でウルグアイ、コロンビア、アルゼンチンに敗れて3連敗中。対するイングランドはイタリアと同組となったEURO2024予選を無敗(6勝2分)で突破。最近の両代表チームの戦績はくっきりと明暗が分かれていた。

 イングランドとしてはここで王国ブラジルを倒して、6月14日開幕のEUROに弾みをつけたいところだった。

 しかし結果は、後半26分から出場した17歳FWエンドリッキにウェンブリーの史上最年少ゴール記録を更新されるおまけ付きで、ブラジルに0-1で敗れた。

ベリンガムとライスがいる中盤は絢爛豪華

ワールドクラスが並ぶ中盤はハイレベル。今季からマドリーでプレーするベリンガムは、3日後のベルギー戦では終了間際に劇的な同点弾を決めた 【Photo by Alex Davidson - The FA/The FA via Getty Images】

 ドリヴァウ・ジュニオール新監督の初陣で、敵地での親善試合とはいえW杯予選の不振からいち早く脱却したいブラジルは、流れを変えるため、勝利という“特効薬”にすがりついたということだろう。そんな「勝ちたい」という気持ちが前に出ていた。

 それはアンカーで起用されたニューカッスル所属のブルーノ・ギマランイスが、プロフェッショナル・ファウルと言えば聞こえがいいが、汚れ役を自ら買って出て、イングランドのカウンターの芽を狡猾な反則で止めまくったことでも明らかだった。

 一方、イングランドは強国相手には善戦しながらも惜敗するという、W杯での敗退パターンをここでも繰り返して、冒頭のジョンをはじめ、常にメジャー大会で優勝すると信じて疑わないフットボール発祥国のファンをがっかりさせた。

 ただし、今季は移籍先のバイエルン・ミュンヘンでゴールマシンとしてさらにすごみを増した絶対的エースである主将のハリー・ケイン、そしてアーセナル優勝の鍵を握るブカヨ・サカが揃って小さな故障で今回の代表メンバーから外れていた。

 またセンターバックもジョン・ストーンズのパートナーで、久々の実戦となるハリー・マグワイアが試合勘を取り戻せていない印象が否めず、ケインの代わりにキャプテンのアームバンドを巻いたカイル・ウォーカーがハムストリングを痛めて前半20分で負傷交代するというアクシデントもあった。

 しかしながら、今季レアル・マドリーでクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシの次を担う逸材であることを証明しつつあるジュード・ベリンガムと、昨夏にアーセナルに移籍し、完全にレギュラーに定着して1億ポンド(約195億円)の価値があることを見せつけているデクレン・ライスが入った中盤は豪華絢爛だった。大型選手でありながらスピード満点で足元の技術も高い2人が築く攻守のバランスは緻密で、イングランドのミッドフィールドの将来が本当に楽しみになった。

 またサカが右サイドに復帰して、この試合では右サイドでプレーしたフィル・フォーデンを左サイドに動かし、22歳アーセナル・ウインガーと23歳マンチェスター・シティのウインガーの両翼がセンターフォワードのベテラン・ケインを盛り立てるという形が定着すれば3トップも安泰。2年後の2026年北米W杯にも期待が膨らむ布陣になる。

 さらにはこの試合で負傷退場したウォーカーの右サイドバックのポジションには、リバプールのトレント・アレクサンダー=アーノルド、そしてチェルシー主将のリース・ジェームズという、どちらを選んでも世界最高峰という人材が控えており、全く心配はない。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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