【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

久保建英やウーデゴールの成功例に続けるか? スペイン3部で岐路に立つ中井卓大の今

高橋智行

マドリー復帰の可能性がまだ残る久保だが

ソシエダが来季の欧州カップ戦出場権を逃せば、契約を延長したばかりとはいえ、久保が新天地を求める可能性はある。先買権を有するマドリーへの復帰も? 【Photo by Ion Alcoba Beitia/Getty Images】

 久保がウーデゴールと異なるのは、一度もマドリーのトップチームに加わることなく、レンタル生活を経て22年の夏に直接ソシエダへの完全移籍の道を選んだことだ。今年2月には29年までの契約延長も発表している。

 ただし、マドリーは久保売却時の条項に含んだ先買権(ソシエダが将来的に他クラブからオファーを受けた場合、同じ条件で優先的に久保を買い戻せる権利)や、キャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差によって生じる収益)の50パーセントを得る権利をまだ保有しているため、復帰の可能性も残されている。

 マドリーの番記者によれば、その条項が有効なのは今夏まで。すなわち、契約解除金が6000万ユーロ(約96億円)に設定されている久保をマドリーが手頃な価格で買い戻す場合、わずかな時間しか残されていない。加えてマドリーに復帰するか否かは、久保の気持ちが最優先されるとのことだ。

 仮に戻ったとしても、来季のマドリーの前線には現状のままならヴィニシウス、ロドリゴ、ブラヒム・ディアス、アルダ・ギュレルがいて、この夏にはブラジルの超新星エンドリッキも加わることが決まっている。さらにフランス代表のキリアン・エムバペまでやって来たら──出場機会は大幅に制限されるだろう。また近年のマドリーは南米市場に目を向けており、EU圏外枠の問題も絶えずつきまとう。久保がソシエダでの現状に満足することなく、さらに上を目指すのであれば、ウーデゴールのように国外を含めた他のビッグクラブで成功する道を探したほうが利口なのではないだろうか。

 年齢以上に成熟しているとはいえ、まだ22歳だ。来季の欧州カップ戦の出場権を獲得できるかどうかも去就に影響してくると思うが、もうしばらくは確固たる地位を築いたチームでプレーし、より大きな自信を得てからステップアップを求めても遅くはないだろう。

 一方で、久保のようにマドリーからレンタル移籍を繰り返しながら、なかなかステップアップできずにいる選手も少なくない。例えばブラジル人MFのヘイニエルがそうだ。18歳の誕生日を迎えた20年1月に3000万ユーロ(約48億円)という巨額の移籍金でマドリーと契約した逸材だが、しかしそのタイミングが悪すぎた。カスティージャに加入した直後に新型コロナウイルスの影響でリーグ戦が中止されたため、1年目は半年で3試合にしか出場できなかった。

 翌20-21シーズンから武者修行に出ているが、ドルトムント、ジローナでは結果を残せず、レンタル生活4年目の今季から加わったセリエAのフロジノーネでは、序盤戦の出来こそ良かったものの、怪我の影響もあって徐々に出番が減少。マドリーとの契約は26年6月末まで残るが、少なくとも来季の復帰は絶望的だ。

“カスティージャ後”の正しい進路は?

レンタル先のマハダオンダで定位置確保に至らず、パリ五輪出場を目指す大岩ジャパンへの招集も叶わない中井。マドリーとの契約は残り1年、重要なキャリアの分岐点だ 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 こうした文脈から思い出されるのが、久保の2歳下で、カスティージャに在籍していた“ピピ”こと日本人MF中井卓大のことだ。

 幼い頃から天才少年と騒がれ、11歳だった14年夏にマドリーのアレビンA(U-12)に加入。その後、毎年ふるいにかけられる狭き門を順調に潜り抜けてきた中井は、昨季ついにカスティージャにまで到達するのだ。

 しかし、ベテランぞろいの中盤の競争に勝てず、わずか2試合の出場機会にとどまると、20歳になって迎えた今季、初めてマドリーを離れる決断をする。

「スペイン3部のチーム、ポルトガルやオランダ、ベルギー、日本のJ1チームからもオファーがあったし、またセビージャやマジョルカ、ベティス、バレンシアなどラ・リーガのBチームからも声を掛けていただいた」

 そう本人が開幕直後に明かしたように、“ラ・ファブリカ産”の中井を欲しがるクラブは数多くあった。

 そんななかで、中井はプリメーラ・ディビシオンRFEF(3部)のグループ1に属するラージョ・マハダオンダと1年のレンタル契約を結ぶ。その理由についてはこう説明している。

「監督と会長が気に入ってくれて、僕を欲しいと言ってくれた。そして監督の目指すサッカーが、マドリーと似たティキ・タカ(ショートパスで素早くボールをつなぐプレースタイル)だったのが決め手になった。また同じマドリードのクラブで、これまでと環境が変わらないことも大きかったし、カスティージャと同じ3部リーグのチーム(カスティージャとは別グループ)でやりたいという想いもあった」

 だが心機一転、新たなシーズンに臨んだものの、ここまでは望むような出番を得られていない。その主な原因として、合流の遅れがあったようだ。

「移籍先が決まるまでが長引いてしまい、プレシーズンの2カ月くらいチーム練習ができなかった。加入後はチームメイトと比べるとコンディション的にまだ遅いというか、ちょっと衰えているなという感じがあった」

 その状況はシーズンが進んでも変わらず、今なおレギュラー獲りに苦しんでいる。今季ここまでの成績は14試合出場で得点、アシストともになし(30節終了時点)。先発出場は4試合のみで、ここ7試合はピッチにも立てていない。チームも開幕から低迷し、現在は20位と最下位に沈んでいる。3月末にクラブは今季2回目の監督交代に踏み切ったが、こうした混乱も中井のパフォーマンスに少なからず影響を与えているはずだ。

 マドリーとの契約は25年6月30日で満了する。残りおよそ1年。パリ五輪世代の逸材は、近々来季に向けた新たな決断を迫られることになる。はたしてマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、再びマジョルカとレンタル移籍を繰り返した末に、ソシエダという安息の地を見つけた久保のように、中井もまた“カスティージャ後”の正しい進路を見いだせるだろうか。

 いつか、「あのときの決断は正しかった」と笑って振り返られる日が、中井にも訪れてほしいものだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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