【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

2023年はキャリア史上最高の1年に──久保建英が不遇のビジャレアル時代から学んだこと

高橋智行

ラ・リーガ16節のビジャレアル戦で、全3ゴールに絡んで今季7回目のMOMに選出された久保。古巣のサポーターの前で成長した姿を見せつけた 【Photo By Ivan Terron/Europa Press via Getty Images】

 昨夏のレアル・ソシエダ加入をきっかけに、ワールドクラスへの階段を上り始めた22歳の若武者を、現地在住の日本人ライターが密着レポートする月1回の新連載コラム、『久保建英とラ・レアルの冒険』。第4回は、適応に苦しんだ2020-21シーズンのビジャレアル時代を振り返る。あの時、なぜ知将ウナイ・エメリは久保を冷遇したのか──。その理由を探れば、2023年に飛躍的な成長を遂げた理由も見えてくる。

ビジャレアル相手に決めたゴールの価値

 さかのぼること約1カ月前の2023年12月9日(現地時間、以下同)、久保建英はラ・リーガ第16節のビジャレアル戦でハイパフォーマンスを披露し、かつてのサポーターに大きく成長した姿を見せつけた。

 2020-21シーズンの前半戦を過ごしたビジャレアルの本拠地、エスタディオ・デ・ラ・セラミカでの一戦に、いつも通り4-3-3の右ウイングで先発出場。序盤こそ相手の警戒が厳しくあまりボールを受けられなかったが、徐々にペースを掴み始めた前半終了間際、ついにその才能を爆発させる。

 38分、右CKからミケル・メリーノの先制点をアシストすると、その3分後にも久保のショートCKを起点にマルティン・スビメンディが追加点を奪う。そして、極めつけは前半アディショナルタイムの49分。メリーノのパスをボックス内で受けた久保が、利き足ではない右足で相手GKの左脇を抜き、今季6点目となるゴールを叩き込んだのだ。

 9月30日のアスレティック・ビルバオ戦以来、公式戦では実に13試合ぶり、リーグ戦では8試合ぶりとなるゴール。レアル・ソシエダはこのまま3-0の快勝を飾り、久保は今季のラ・リーガで通算7回目のマッチMVPに選出された。

 完全復活──。ここ数試合は疲労と相手の厳重なマークに苦しみ、精彩を欠くシーンが増えていた久保だったが、これをきっかけにチームを勝利に導き続けたシーズン序盤戦の輝きを取り戻すだろうと、誰もがそう確信した。

「久々のゴールだったので嬉しかった」

 久保自身も試合後のインタビューでそう語り、重くのしかかっていたプレッシャーから解放されたように、安堵の表情を浮かべていた。

 何より、再浮上のきっかけをつかむゴールを、苦い思い出の残るビジャレアルを相手に決めたことに、大きな価値があったのかもしれない。

「マドリーに認められた日本人」への期待

久保はマジョルカで結果を残し、ELにも出場する強豪ビジャレアルにステップアップ移籍を果たしたが、その前途には大きな試練が待ち受けていた 【Photo by Pablo Morano/MB Media/Getty Images】

 今ではすっかりラ・リーガを代表する選手に成長した久保だが、3シーズン前のビジャレアル時代は、現在の姿からは想像もできないほど困難な時期を過ごしていた。

 スペインでプロキャリアをスタートした19-20シーズン、久保はレアル・マドリーからのレンタルでマジョルカに移籍した。この年、最終的にチームは降格するのだが、久保自身は攻撃の中心選手の1人として、4得点・4アシストという素晴らしい結果を残した。

 この活躍が、翌20-21シーズンからビジャレアルの指揮を執ることが決まったスペイン人の知将、ウナイ・エメリ(現アストン・ヴィラ監督)の目に留まる。

 久保とビジャレアルの契約は1年間のレンタル。ラ・リーガでも特に堅実なことで知られるクラブが、「レンタル手数料250万ユーロ(約4億円)+出来高250万ユーロの最大500万ユーロ(約8億円)」という決して安くはない金額を、弱冠19歳の若手に支払っている。それは「マドリーに認められた日本人」に対する大きな期待の表れでもあっただろう。

 20年8月11日の入団会見で久保は、かつてチャンピオンズリーグ(CL)でベスト4に進出するなど、欧州カップ戦でも実績を残していた実力派クラブに挑戦する意気込みを、次のように語っている。

「チームメイトと監督のサポートを受けながら、素晴らしいシーズンを送りたい。どうなるのか楽しみだ。ビジャレアルがベストの選択だったし、僕も家族も代理人も全員がそう考えた。これからそれを証明する必要がある」

 しかし、新天地で久保を待ち受けていたのは、大きな試練だった。

 前シーズンのラ・リーガを5位で終え、ヨーロッパリーグ(EL)の出場権を獲得していたビジャレアル。さらなる高みを目指して新監督に招聘したのが、団結力や高度な連係プレーをベースに、これまで国内外のクラブで数々の成功を収めてきたエメリだった。さらにクラブは、夏の移籍市場にラ・リーガで4番目という巨額の資金を投下。大型補強を敢行し、勝負に打って出たのだ。

 そのプロジェクトの一環として獲得された久保は、背番号16のユニホームをまとい、プレシーズンマッチの全5試合に出場。4−2−3−1のトップ下や4−4−2の左右のサイドハーフ、4−3−3の左ウイングと、様々なポジションでテストされた。しかし、チームメイトとの連係がかみ合わず、得点やアシストといった目に見える結果を残せない。

 そうした不安定な状態のままシーズンの開幕を迎えた久保は、望むような出番を得られず、ストレスを溜め込む日々が続く。そしてわずか半年後、出場機会を求めて、ヘタフェへの再レンタルという道を選択するのだ。

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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