茨城の新戦力、ルーク・メイは「華麗なる一家」出身 NCAA制覇を支えた勝負強さでB1残留圏浮上に貢献

大島和人

【(C)B.LEAGUE】

 茨城ロボッツはB1の2023-24シーズン前半戦を、史上最低勝率ペースの2勝28敗で終えた。しかし「折り返し後」の11試合に限ると、5勝6敗と盛り返している。

 3月2日と3日には、全体勝率最下位の富山グラウジーズにアウェイで連勝し、「7勝34敗」まで戻してきた。信州ブレイブウォリアーズ(6勝35敗)も上回り、ついに残留圏内の「全体22位」まで浮上している。

富山との第2戦は延長の激闘

 富山との2試合はいずれも接戦だった。特に3日はリードチェンジが相次ぐつば競り合いで、茨城はオーバータイム(延長)の末に90-89と辛勝している。

 茨城は前半を49-37とリードして終えたものの、第3クォーターに追い上げられて一時は逆転されている。対する富山も第3クォーター残り5分36秒にイヴァン・ブバがこの試合2回目のテクニカルファウルを宣告され、失格(退場)処分となった。その後は一進一退の攻防が試合終了まで続いた。

 リチャード・グレスマンヘッドコーチ(HC)は試合後にこう述べている。

「我々は2連勝する必要が、本当に、強くありました。(残留を争う)富山が相手だからとか、今の順位は関係なく、今シーズンまだ連勝を一度もしていなかったからです。だからこそ2連勝が達成できたことを、本当に嬉しく思います。ルーク(・メイ)、シェイ(チェハーレス・タプスコット)、ハヤト(山口颯斗)の3人が、オフェンスで本当に素晴らしかったです」

 彼は激闘の「バイタルモーメント」(試合を決めたプレー)をこう振り返っていた。

「一つは鶴巻(啓太)選手が4点差で負けているとき、大事なところ(第4クォーター残り3分17秒)で、3Pシュートを決めた場面です。もう一つはオーバータイムで、ルーク(・メイ)がベースライン際のミドルレンジを決めた。その二つはすごく大きかったと思います」

全米制覇を呼んだ「劇的シュート」

17年3月26日のNCAAトーナメント準々決勝で決めたシュートは今も語り継がれている 【Photo by Kevin C. Cox/Getty Images】

 ルーク・メイは茨城の新戦力で、彼の勝負強さも試合の決め手になった。203センチ・106キロでインサイドとしては「中型」だが、3ポイントシュートのタッチが柔らかく、自らボールを運ぶスキルやスピードも持っている万能パワーフォワードだ。

 まず「外国籍選手が3人揃った」ことが、茨城にとっては大きかった。しかもメイは合流して初の2試合で、いきなりの大活躍を見せている。先発からは外れたもののまず2日に18分25秒の出場で16得点、10リバウンドを記録。3日は32分17秒の出場で29得点、13リバウンドと圧倒的だった。

 26歳の(3月7日が誕生日で、本稿掲載直後に27歳となる)メイは競技をまたいだ華麗なる「有名スポーツ一家」の出身だ。1学年下の弟・コールは201センチの長身左投手で、フロリダ大で2017年のカレッジワールドシリーズ(全米大学選手権)を制している。6つ下の弟・ドレイクはアメリカンフットボールの有望なクォーターバックだ。24年4月下旬に開催されるNFLドラフトでは1巡目指名が濃厚視されている。

 父・マークはアメフト、5つ下の弟・ボウはバスケの選手で、どちらもルークやドレイクと同じノースカロライナ大だ。

 長男のルークも、大学バスケのスター選手だった。NCAAトーナメントといえば、アメリカでは「マーチマッドネス」の異称でおなじみの春の風物詩。彼は2017年にノースカロライナ大の全米制覇に貢献している。決勝の対戦相手は、1年生の八村塁が所属していたゴンザガ大だった。

 彼は同大会の準々決勝で、ケンタッキー大を相手に「残り0.3秒」から劇的な勝ち越しシュートを決めている。1982年の決勝でマイケル・ジョーダンが放った「伝説のシュート」とともに、全米制覇6度の名門校の歴史の中でも語り継がれる劇的な瞬間だ。

来日直前、母校とデューク大の大一番で勢揃いした4兄弟(左がルーク) 【Photo by Peyton Williams/UNC/Getty Images】

富山戦も延長終盤にビッグプレー

 メイは3日の富山戦でも、試合終了間際の勝負どころでビッグプレーを見せた。まず延長残り1分18秒、86-85の場面でゴール下に飛び込んで、「1対4」の状況からオフェンスリバウンドを獲得。その直後のオフェンスでもリバウンドを獲得して相手のファウルを誘い、フリースローを2本沈めてみせた。

 88-86と追い上げられたその次のオフェンスでも、トップの位置でボールを受けると1オン1からゴール左に切れ込み、残り19秒からフェイドアウェイを沈めた。相手がコンテストをしてきた状態から放ったタフショットだった。結果的にはこれが決勝シュートになっている。

 富山の桜木ジェイアールスーパーバイジングコーチは言う。

「(相手の)ロング2(3Pライン近くから放つ2ポイントショット)は、自分たちにとって良いシュートです。確率の低いシュートですし、(得点の期待値が高い)レイアップやオープンのスリーポイントではない。あれは決まってしまったら仕方ないシュートだったと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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