中国戦の歴史的勝利を選手はどう見るのか? 河村勇輝の「反省」が示す、バスケ日本代表の進化

大島和人

日本にとって中国戦は歴史的な勝利だった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 バスケットボール日本代表が2月25日の「FIBAアジアカップ2025予選」で、中国を76-73のスコアで下した。

 日本は2023年夏に開催されたFIBAバスケットボールワールドカップ(W杯)でアジア最上位の成績を残し、パリオリンピック(五輪)の出場権を獲得している。しかし中国は姚明(現中国バスケットボール協会会長)のようなNBAのスターも輩出し、長らくアジアの覇権国だった。2016年9月にBリーグが誕生してから、中国が完全なBチームを派遣したような大会を除くと、日本は中国に勝っていなかった。

 「中国がベストメンバーで参加したFIBA管理の主要大会」に限ると、88年ぶりの勝利だった。日本が中国を下した2012年のアジアカップは「大会の性質が異なる同名別大会」と位置づけられるなど、その基準に分かりにくさもある。だとしても、歴史的な勝利だったことは間違いない。

 厳密に言うと、今回のアジアカップ予選も両チームが「ベストメンバー」を出したわけではない。中国はパリ五輪への挑戦権を失い、その先に向けたチーム作りを既に開始している。日本は八村塁(レイカーズ)、渡邊雄太(グリズリーズ)、富永啓生(ネブラスカ大)といったアメリカでプレーしている本来の主力が不在だ。とはいえ中国はやや若くとも能力に疑いの余地がないメンバーを日本に送り込んでいた。先発5人の平均は197.6センチと、日本より5センチ以上高かった。

立ち上がりの劣勢を跳ね返す

後半の日本は守備の強度を上げて流れをつかんだ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 試合の立ち上がりは完全な中国ペースだった。日本は開始直後に連続12得点を許し、第1クォーター半ばには14-3までリードを広げられている。210センチのセンター胡金秋がインサイドを制圧し、3ポイントシュートまで成功。ドライブ能力が高い左利きのガード胡明軒など、バックコート陣のスキルも高かった。

 しかし日本はベンチスタートだった井上宗一郎の連続3ポイント(3P)シュートなどで追い上げ、19-20で第1クォーターを終える。その後は拮抗した展開が続いた。

 日本は後半に入ると、ディフェンス(DF)の強度を上げた。そして試合の終盤になるほどフロントコートからプレッシャーを掛ける場面も増えていく。

 河村勇輝はこう振り返る。

「前半に(自分が)ファウルをしてしまって、チームファウルもかさんでいたので、簡単にはファウルができない状況でした。自分は審判との駆け引きの中で、本当にファウルすれすれのところでDFをしています。だからできるタイミングと、できないタイミングはあると思いますけど、(後半は)チームのファウルもすごくかさんでいたわけではなかったし、個人的にもファウル1つだったので、アグレッシブにできるなと思っていました」

 馬場雄大はこのように説明する。

「まず個人として、受け身のDFをしたくなかった。トム(・ホーバス)監督もいつも言いますけど、自分たちから、アクションしていくDFをコートで表現しようと思っています。それはもうずっと、Bリーグの試合から意識してやっていることです。だからこそ、スムーズにそういう攻め気のDFができたのではないかと思っています」

 オフェンスも日本は前半と違う攻め手を出した。前半は井上、馬場の3Pシュートで畳み掛けたが、後半は馬場のドライブが特に有効だった。

 チーム最多の24得点で立役者となった馬場は言う。

「最初は3ポイントを簡単に打てた状況でしたし、『空いたら打つ』というメンタリティでいました。今日は(3Pシュートが)入ったのがまず良かったです。そのことによって後半、相手が3ポイントに警戒し始めてきたので、ペイントエリアに空間が見つけられた。守り方を見て、冷静に判断できたと思います」

指揮官も称賛する攻撃の「バランス」

馬場のアタックは戦術的な決め手にもなっていた 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 日本は試合を通して27本のフリースローを得ている。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC=監督)は3Pシュートの多投を好む指揮官だが、同様に3Pシュートと2Pシュート、フリースローの「バランス」を重視する。中国戦の日本は2Pが28本、3Pが32本、フリースローが27本と攻撃の均衡が取れていた。

 ホーバスHCは試合後にこう語っていた。

「もう本当に細かいことだけど、ドライブインのタイミングとか、カッティング(パスを受ける動き)とか(が良くなった)。3Pシュートのパーセンテージは今日34%だけど、まだ足りないと思う。2Pシュートのパーセンテージ(確率)もちょっと低かった、だけど、フリースローを結構打ったじゃないですか?それは本当にすごいと思います」

 フリースローは主に「ゴール下へのドライブ、ダイブ(飛び込む動き)」から生まれる。後半の日本はそういったアグレッシブな動きを増やしていた。積極的な守備、ドライブから主導権を握った日本は後半に入ると優勢に試合を運ぶ。

 リバウンドに限れば「33本vs.44本」と劣勢で、終盤の日本は胡明軒のドライブに苦しんだ。第4クォーター残り1分25秒のフリースローは、井上が3ショットをすべて落とし、場内に軽く不穏な空気も漂った。

 しかし直後のデイフェンスでジョシュ・ホーキンソン、比江島慎のダブルチームがハマり、ホーキンソンがスティールからダンク。これで75-70と点差が広がった。さらいタイムアウト明けのDFで相手の14秒バイオレーションを誘い、勢いを断ち切った。

 中国の3Pシュートが一本決まったものの、残り7秒から比江島慎がフリースロー2本のうち1本を成功。中国が「残り1秒」で狙った3Pシュートは失敗し、日本が76-73で試合を終えた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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