中国戦の歴史的勝利を選手はどう見るのか? 河村勇輝の「反省」が示す、バスケ日本代表の進化

大島和人

2年半の成長、Bリーグの底上げを示す勝利

ホーバスジャパンの初戦は22年11月の中国戦 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 ホーバスHCが就任して迎えた初の国際試合が、2021年11月27日と28日に仙台で開催されたW杯予選の中国戦だった。そのとき日本は63-79、73-106という大差で連敗している。当時はチーム作りの初期で、メンバーも大きく入れ替わったのだが、日本のステップアップは単純にスコアの比較でも分かる。

 ホーバスHCは選手をこう称えている。

「2年半のチーム(のメンバー)は、このチームに3人くらいしか(残って)いない。でも少しずつ、このバスケットのスタイルをみんなが分かるようになって、みんなの役割もよく分かっていたから、もっとスムーズなバスケットができている。色々な選手を見て、アメリカ組の選手も来て、合宿を重ねて、レベルが下がらなかったんです。少しずつ上がったんですよ。本当にこの短い間に……すごいと思います。みんな信じているし、頑張っている。今のメンバー、本当にすごいと思います。気持ちが強い」

 ホーバスHCは富樫勇樹、河村の起用が示すように、サイズを重視しないタイプの指揮官だ。ビッグマンも3Pシュートが打てる、走れる選手でなければ起用されない。とはいえインサイドのDFやリバウンド争いである程度「食い下がる」ことができないと、中国や世界の強国に対しては試合が成り立たない。

 これについて201センチのストレッチ4(アウトサイドからのシュートを得意とするパワーフォワード)井上はこう口にしていた。

「Bリーグの外国人の方が強いので、元々負ける気はしていなかった。リバウンドも僕は全然取っていないですけど、チームが取れればいいと思って、色々なところで身体を張ったのが良かった」

 終盤に入ってもエナジーレベルが下がらない、守備をきっちり遂行できるといった「強度への慣れ」や、相手にアジャストして適切に判断できる個々のバスケットIQは、Bリーグという土台が生んだものだろう。今のチームにはホーキンソンや吉井裕鷹、馬場とフィジカル面で「戦える」選手が揃っている。

 7月に開幕するパリ五輪に向けても、弾みがつく勝利だった。

自信、自負ゆえの反省

河村がまず口にしたのは反省のコメントだった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 もっとも試合後の選手からはあまり「スッキリした雰囲気」を感じなかった。試合の感想を尋ねると反省のコメントが多く、W杯の取材現場のような賑やかさ、晴れやかさもなかった。

 河村はこう口にしている。

「W杯のときは練習を2カ月くらいして、本当にあうんの呼吸で5人が流れに乗ってプレーできていた。(中国戦は)なかなか練習期間がすごく短い中で、新しい選手もいて、自分たちが目指しているバスケットとはちょっと程遠い内容になった」

 自身のプレーについてこう語っていた。

「個人的にはすごく反省点が残る試合になった。シュート精度もそうですし、スタートとしてゲームの流れを作っていかないといけない部分でラン(連続得点)をされてしまったことは、ポイントガードの責任です。本当に強い相手にはスタートから常に自分たちが流れを持って戦っていかないといけません」

 それは「もっとやれるはず」という自負があるからこその反省だろう。チームの目標はパリ五輪の「トップ8」だ。そんなチームにとっては短い準備期間だろうと、何年も勝っていない相手だろうと、中国は勝たなければいけない相手だった。

 だからこそ、謙虚なキャラクターで知られる河村も、こう言い切っていた。

「今回も中国は若手メンバーで、メンバー的に僕たちが絶対に勝たなければならない相手でした。自分たちの求めているバスケットをやれていれば、もっと点差をつけて勝てた相手だったと個人的には思っています」

裏づけのある自信と、チャレンジャー精神

チームの「ゴール」は24年夏のパリ五輪だ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 河村に中国戦の勝因を尋ねると、少し考えた様子を見せてから、このような答えを返してきた。

「『たかが気持ち、されど気持ち』というか……。自分たちは88年も勝てていない中で、中国が強いというイメージが多分あったと思います。その中でトムさんの体制に変わってから、W杯で結果を残すことができて、中国相手にも勝たないといけないという強い信念、プライドが生まれた。それがプレーの一つ一つに結びついたのではないかと思います。もちろんチャレンジャー精神は持ちながらも、『自分たちは強いんだ』というプライドも持ちながら、戦わないといけないなと思います」

 日本バスケは間違いなくレベルを上げている。日本は現在アジアから自国産のNBAプレーヤーを輩出している唯一の国でもある。しかも今回は「国内組」だけで中国を下した。

 もっともオリンピックは世界の「トップ12」が参加する大会で、世界ランキング26位の日本は明らかにチャレンジャーだ。チャレンジャー精神は大切だが、一方で卑屈なマインドは禁物。「この部分は相手を上回っている」という裏づけのある自信がなければ、そもそも本気のチャレンジなどできない。

 河村は「アジアのレベルだったら、僕はポイントガードとしてアドバンテージを取っていける自信がある」という言葉も口にしていた。少なくとも河村は、向上心と自信が程よく混ざった世界で戦うメンタリティを手にしつつある。

 日本はアウトサイドプレイヤーのスキル、守備の強度、試合中の適応力といった部分で上回り、勝つべくして勝った。中国への歴史的勝利は、ホーバスジャパンがアジアを背負って五輪に挑戦する「資格」をつかんだ試合だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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