アイスダンス日本代表3組が競った四大陸選手権 トリノ五輪代表・木戸章之氏が語る、世界選手権代表・小松原組の強さ
活性化する日本のアイスダンス
経験豊富な小松原組(中央)、成長著しい田中/西山組(左)・吉田/森田組(右) 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
「(小松原組の)振付の難しさや完成度は、他の日本の2組と比べると『やっぱりちょっと一歩抜けているな』というのは感じました」(木戸氏)
木戸氏は、小松原組は「男性が女性をリードし、それぞれが違う動作をしながらもマッチしている」というアイスダンスの基礎がよくできていると評価する。そして、それができるようになるには経験が必要だという。
「他の2組は、当然まだこれからだと思います」(木戸氏)
木戸氏は、トランジションを難しくすると体力を消耗してエレメンツでミスが出やすくなると説明。それにもかかわらず作戦を完遂できたのは、小松原組の鍛錬によるものだと言う。
「(小松原組は)しっかり滑り切れたので、動きを見ているだけで『良く練習しているんだろうな』ということは分かります。専門家として見ていても、小松原組の演技は気持ちよかったですね」
「『練習をしっかり継続していて、そこが小松原組の強いところでもあるな』とも感じています。全日本で下から追い上げてきた子たちに(RDで)負けて(FDでも)負けて、でもRDとFDで負けた相手が入れ替わったことによって優勝したという状態になってしまうと、焦りが出てきてしまうんですよね。そのときに、しっかりと自分の軸をもう一回とらえ直して練習をしてきたということで、すごく良く頑張ったなと思います」(木戸氏)
では、世界選手権でさらに上を目指すために、小松原組には何が必要か。木戸氏が指摘する修正点は、「リズムを“点”ではなく“幅”でとること」「下半身をお互いに近くすること」の2点だ。
まず、「リズムを“点”ではなく“幅”でとること」とはどういうことか。
「アイスダンスでは、音のリズムをとらなくてはいけないんですね。そのリズムって、“点”ではなくて“幅”なんです。その“幅”いっぱいにポーズをとる・しっかり滑らせる・全部をカーブで描く、といったことをすると、動きが立体的かつ止まってみえて、かつ途切れない。矛盾したものが、全部ピタッとはまるんですね」(木戸氏)
要は、「音を使い切る」ことだという。それでは、二つ目の「下半身をお互いに近くすること」とはどういうことか。
「男性も女性も、腰がちょっとひけているところがあるんですよね。もう少し腰が入ると、もうそれだけで多分ガラッと変わります。足から滑るというか、そういう感覚がしっかり出てくると、世界との差がさらに縮まってくるはずです」(木戸氏)
一方若手の2組についても、木戸氏は将来性を高く評価している。
「吉田/森田組は、2人ともダンスの経験者だけあって、ダンスホールドをある程度作ろうという意識はあるみたいですね。もちろん組んで1年目だから、まだかみ合っていないところもある。それぞれがもう少し経験を積み上げていって、感覚を作っていかなくてはいけないなと思います」
「田中/西山組は、どちらかといえばまだ滑れるシングルスケーター2人が形を作っている、というふうにみえてしまいますね。ペアのように、走ってポーズをとって、間にエレメンツが入って、という感じになっている。もう少し全体の流れができてくると、すごく良くなってくると思います。一方で、2人ともそれぞれ形をきれいにとれているので、その辺はすごく楽しみですね」(木戸氏)
高橋大輔がアイスダンスに転向して以来、日本代表選考が白熱している。木戸氏は「活性化していますよね。切磋琢磨して頑張ってほしい」と期待する。
「我々コーチたちも『今の日本代表争いに割って入れるようなカップルを育てたい』とすごく感じています」(木戸氏)
四大陸選手権のフリー後、美里は次のように語っている。
「本当に高橋先輩・哉中ちゃんたちのおかげでアイスダンスがまた盛り上がったところもあり、後輩たちがどんどん続いてくれているのかなと思います」
「自分たちは、自分たちに集中して。もし周りの方がいいように影響を受けて下されば、高め合いということになるのかなと思いますけれども…自分たちは影響をしっかりいただいているので、それを生かしてレベルアップにつなげたいなと思っています」(美里)
切磋琢磨して活性化する、日本のアイスダンス。可能性は広がるばかりだ。