「フィギュアスケートは、美しくてダイナミック」 全日本2位の千葉百音、高い志が支えるたおやかな滑り

沢田聡子

移籍の決断を正解にした好演技

千葉は一年前の経験を生かし、フリーをしなやかに滑り切った 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 それでも、千葉は「最終グループの圧迫感というか、緊張感は尋常ではなかった」と吐露した。

「去年と同じ最終グループで、去年経験したからといって今年少しも緊張が減ることはなく、むしろすごく緊張して。でも、事前のここに来るまでの練習が去年よりいいものだったので、その分去年より自分の動きに自信を持って演技できたかなと思います」

「決して平常心でいけたわけではないのですが、そうなることは予想がついていたので。とにかく練習から『すごく緊張するだろうな、その中でもちゃんと跳べないといけない』というふうに練習してきたのが、良かったのかなと思います」

 確かに、今大会のフリーには一年前とは違う千葉がいた。冒頭の3回転フリップ+3回転トウループを決めると、後半に組み込んだ3回転フリップ+2回転トウループ+2回転ループを含めすべてのジャンプを着氷させた。

「すごく緊張した中で、足も少し力が入りづらくて、ジャンプもすべて100点満点のジャンプではなかったのですけど…最初のコンビネーションジャンプではフリップが少し危なかったのですが、トウループでしっかり跳ぶことができたので、そこでしっかり『頑張ろう』とスイッチが入りました」

 千葉の今季フリー『海の上のピアニスト』(鈴木明子氏振付)は滑らかなスケーティングと美しい所作が堪能できるプログラムで、演技構成点でも3項目すべて8点台という高評価を得る。フリー141.25、合計点は200点台に乗る209.27で、千葉は価値ある全日本の銀メダルを獲得した。

 千葉は、苦戦していたシーズン前半には、今季から木下アカデミーに移籍した決断について迷いが出たこともあったと明かした。

「京都に移って結果が出ない時期は不安になった時もあったのですが、『やるしかない』と思って(笑)。練習環境がとてもいいリンクなので、『ここにいて、全日本で結果を出せないと駄目だな』と考えていて、そこから頑張りました」

 初めて全日本の表彰台に立った千葉は、移籍の選択を自らの力で正解にしたといえる。

「京都の木下アカデミーに移籍すると自分で決めた以上は、間違いじゃなかった結末にしたくて。まだまだその道の途中で、これから来年、再来年もどんどんパワーアップしていきたいです。今回の結果は良かったですが、まだまだ課題点が多いので、それも含めてこれからもっと練習していきたい」

 四大陸選手権代表入りを目標に今大会に臨んだという千葉だが、結果としては四大陸だけでなく、初となる世界選手権代表にも選ばれた。昨季の世界選手権は、今回共に代表入りした木下アカデミーのリンクメイト・吉田陽菜と共に、会場のさいたまスーパーアリーナで観戦していたという。

 代表会見で、憧れの舞台である世界選手権(来年3月、カナダ・モントリオール)に臨む意気込みを、千葉は次のように語った。

「初めて世界選手権代表に選ばれて、とても嬉しいです。まずはシニア一年目として、伸び伸びと滑ってこられたらいいなと思います」

 全日本フリー後のミックスゾーンで、これからどのようにして日本女子を盛り上げていくのかという質問に、千葉は志の高さをうかがわせる返答をした。

「フィギュアスケートという競技は、こんなに美しくて、きれいで、かつダイナミックな競技だということを、もっともっと広めていくその一員になれたらなと思います」

 来春、モントリオールで、千葉のたおやかなスケートが世界を魅了する。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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