週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

大谷、理想の「スプラッシュヒット」に大打者・ボンズの影 オラクル・パーク名物をめぐるファンのサイドストーリーも

丹羽政善

5月14日のジャイアンツ戦、大谷は四回に本塁打を放った。オラクル・パーク名物のスプラッシュヒット(場外本塁打)になるか、打球の行方を大谷とファンが見つめる 【Photo by Ezra Shaw/Getty Images】

 行ったと思った。なにより本人にも手応えがあった。

「打った瞬間、行くかなと」

 5月14日のジャイアンツ戦、四回無死。先頭で打席に入った大谷翔平(ドジャース)は、82.3マイルという凄まじいスイングスピード(大谷の平均は75.5マイル=リーグ18位。平均トップはジャンカルロ・スタントンの80.6マイル)でボールを捉えると、打球初速113.4マイル、打球角度29度という完璧な打球が、高々と右中間へ舞い上がった。

 スプラッシュヒットか?

 オラクル・パークの右翼席の背後にはマッコビー湾があり、そこに直接飛び込む場外本塁打をそう呼ぶ。厳密に言えば、ジャイアンツの選手が打った場合のみ、スプラッシュヒットとしてカウントされるが、あの日の夜も、それを期待したカヌーが何艘も穏やかな波に揺られていた。

マッコビー湾には大谷の場外本塁打に期待するファンのカヌーが 【撮影:丹羽政善】

※リンク先は外部サイトの場合があります

 大谷にも思い入れがあった。

「バリー・ボンズ選手が打った映像とか、ずっと見てきた。洗練されたパワーヒッターというイメージなので、かっこいいなと思って」

 1993年からジャイアンツで15シーズンプレーしたボンズ。オラクル・パークの開場は2000年だが、スプラッシュヒット第1号はボンズで、07年を最後に引退するまで、35本も場外弾を放った。

 大谷はドジャースへの入団を決める直前の昨年12月2月にオラクル・パークを訪問。その際、「歴史的な球場というか、そういうスタイルの球場で、個人的にはすごい好きですし、本当にきれいな球場」というイメージを抱いたそうで、同時にボンズのスプラッシュヒットの映像が蘇り、自分も――というイメージを描いたものの、わずかに及ばなかった。

「ちょっと残念でしたけど、またチャンスがあれば」

大谷の打球の行方は?

 ちなみにどの程度、飛距離が足りなかったのか。実際、その場所に足を運んでみた。

 すると、思ったよりも中堅寄りの右中間で、おそらく、球場では一番深いところ。ジャイアンツでもプレーしたドジャースのデイブ・ロバーツ監督も、「あんなところまで飛ばせるのは、ボンズぐらい」と振り返った。

 近くの警備員に落下地点を聞くと、右中間上段のコンコースを指差す。

「この当たりに落ちて、奥の鉄柵に当たって跳ね返ったんだ」

大谷の打球は、赤い丸(筆者加筆)で囲んだあたりに落下した 【撮影:丹羽政善】

 鉄柵までわずか数メートル。鉄柵を直接超えても、壁の下——マッコビー湾と球場の間には数メートルの歩道があるが、放物線の特性を考えれば、鉄柵を超えた時点で、スプラッシュヒットは間違いなかった。

「もうちょっと、右翼寄りだったらね」と警備員。確かに、右中間でも右翼寄りであれば、間違いなかった。06年のデータになるが、スプラッシュヒットの平均飛距離は405フィート。今回、大谷の飛距離は446フィートだった。

 鉄柵に当たり、コンコースを転々とした打球を拾い上げたのは、たまたまそこを通りかかった警備員だったが、すぐに近くにいたボストン出身の大学生サム・セルビー君に手渡した。ボールを手にした彼が小躍りする姿がテレビ画面に映し出され、その本人を落下地点の近くで見つけたものの、ボールを見せてくれるよう頼むと、もう持っていなかった。

「近くにいた子供にあげちゃったから」

サム・セルビー君 【撮影:丹羽政善】

 一緒に来ていたジャイアンツファンの友達は、「キープしておけば、3,000ドルぐらいで売れたんじゃないか?」と冷やかしたが、セルビー君は「もともと、もらったものだから」と控えめ。譲り受けた子供の姿は、もう近くにはなかった。

1/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント