大谷、理想の「スプラッシュヒット」に大打者・ボンズの影 オラクル・パーク名物をめぐるファンのサイドストーリーも
5月14日のジャイアンツ戦、大谷は四回に本塁打を放った。オラクル・パーク名物のスプラッシュヒット(場外本塁打)になるか、打球の行方を大谷とファンが見つめる 【Photo by Ezra Shaw/Getty Images】
「打った瞬間、行くかなと」
5月14日のジャイアンツ戦、四回無死。先頭で打席に入った大谷翔平(ドジャース)は、82.3マイルという凄まじいスイングスピード(大谷の平均は75.5マイル=リーグ18位。平均トップはジャンカルロ・スタントンの80.6マイル)でボールを捉えると、打球初速113.4マイル、打球角度29度という完璧な打球が、高々と右中間へ舞い上がった。
スプラッシュヒットか?
オラクル・パークの右翼席の背後にはマッコビー湾があり、そこに直接飛び込む場外本塁打をそう呼ぶ。厳密に言えば、ジャイアンツの選手が打った場合のみ、スプラッシュヒットとしてカウントされるが、あの日の夜も、それを期待したカヌーが何艘も穏やかな波に揺られていた。
マッコビー湾には大谷の場外本塁打に期待するファンのカヌーが 【撮影:丹羽政善】
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「バリー・ボンズ選手が打った映像とか、ずっと見てきた。洗練されたパワーヒッターというイメージなので、かっこいいなと思って」
1993年からジャイアンツで15シーズンプレーしたボンズ。オラクル・パークの開場は2000年だが、スプラッシュヒット第1号はボンズで、07年を最後に引退するまで、35本も場外弾を放った。
大谷はドジャースへの入団を決める直前の昨年12月2月にオラクル・パークを訪問。その際、「歴史的な球場というか、そういうスタイルの球場で、個人的にはすごい好きですし、本当にきれいな球場」というイメージを抱いたそうで、同時にボンズのスプラッシュヒットの映像が蘇り、自分も――というイメージを描いたものの、わずかに及ばなかった。
「ちょっと残念でしたけど、またチャンスがあれば」
大谷の打球の行方は?
すると、思ったよりも中堅寄りの右中間で、おそらく、球場では一番深いところ。ジャイアンツでもプレーしたドジャースのデイブ・ロバーツ監督も、「あんなところまで飛ばせるのは、ボンズぐらい」と振り返った。
近くの警備員に落下地点を聞くと、右中間上段のコンコースを指差す。
「この当たりに落ちて、奥の鉄柵に当たって跳ね返ったんだ」
大谷の打球は、赤い丸(筆者加筆)で囲んだあたりに落下した 【撮影:丹羽政善】
「もうちょっと、右翼寄りだったらね」と警備員。確かに、右中間でも右翼寄りであれば、間違いなかった。06年のデータになるが、スプラッシュヒットの平均飛距離は405フィート。今回、大谷の飛距離は446フィートだった。
鉄柵に当たり、コンコースを転々とした打球を拾い上げたのは、たまたまそこを通りかかった警備員だったが、すぐに近くにいたボストン出身の大学生サム・セルビー君に手渡した。ボールを手にした彼が小躍りする姿がテレビ画面に映し出され、その本人を落下地点の近くで見つけたものの、ボールを見せてくれるよう頼むと、もう持っていなかった。
「近くにいた子供にあげちゃったから」
サム・セルビー君 【撮影:丹羽政善】