宇野昌磨がファイナルで感じた、切磋琢磨する楽しさ 支える人達を満足させる滑りを目指して

沢田聡子

ランビエールコーチも讃えた宇野のファイナルでの演技 【写真:ロイター/アフロ】

「己と戦うのがフィギュアスケート」

 幻想的なショートプログラム『Everything Everywhere All at Once』をクリーンに滑り終えると、宇野昌磨はリンクサイドにいるステファン・ランビエールコーチがガッツポーズしている様子を見て、軽く拳を握った。

 グランプリファイナル(中国・北京)の男子シングルは、高いレベルで競い合う熱戦となった。12月7日に行われたショート、ポイントランキング5位でファイナルに進出した宇野は、2番滑走でリンクに登場。すべてのジャンプを決め、曲と一体となった表現をみせてショートを滑り切り、106.02という高得点をマークする。

 宇野によれば、演技後にランビエールコーチは「最後のステップ・スピンはすごくよかった」と讃えている。一方で、まだ今のベースを出しただけの演技だと評し「次はもっと技術面ではなく全体的にチャレンジ的なショートプログラムができるようにしたら、もっといい演技ができるよ」というアドバイスもしたという。

 宇野の点数は出た時点では今季世界最高得点だったが、宇野自身がミックスゾーンで予想した通りすぐに塗り替えられることになる。5番目に滑走したイリア・マリニン(アメリカ)が史上初めてショートで4回転アクセルを成功させ、106.90というスコアを出したのだ。

 テレビのインタビューで「レベル高すぎて無理です。やってられないです」と語った宇野だが、言葉と裏腹にみせた笑顔が印象的だった。ミックスゾーンでは、このファイナルで感じている充実感を言葉にしている。

「フィギュアスケートというものは、対人スポーツとは違うので。相手の嫌がることをするスポーツとはまた違って、己とずっと戦い続けている。(他の選手は)ライバルであり、どちらかというと仲間だと僕は思っている。

 もちろん点数をハイレベルで競い合うのはすごく楽しいことで、見ていてもその方が楽しいと思うんですけれども、あまりそこに固執し過ぎずに『いや、今回は負けちゃった。次は勝ちたい』という、それを直接相手に言えるぐらいの仲で、それぐらいの意識でこのスポーツに取り組みたいと思っていますし。今(ファイナルに)出ている6人は全員そういうメンタルの持ち主だと思っているので、すごく居心地いいですね」(YouTubeチャンネル「CGTN Sports Scene」より)

 ショート後の記者会見には、1位のマリニン、2位の宇野、3位の鍵山優真が出席した。2022年北京五輪銀メダリストの鍵山と銅メダリストの宇野に向けられた「北京という場所で、またこのようにトップ3の場に一緒にいられることについてどんなふうに思っていますか」という質問に、宇野は感慨深げに答えている。

「それほど月日は経っていないとは思うんですけれども、すごくいろんなことがあり…優真くん(がトップ3にいるの)は同じですけれども、すごく時代の流れを感じますし、すごく昔のことのように感じます」

 若い力が台頭するファイナルに、世界選手権2連覇中のベテランとして臨んでいる宇野の立ち位置を感じさせるコメントだった。

1/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント