現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

遠藤航のすさまじき順応 アーセナル戦で見せた“世界最高峰”の真価

森昌利

極限の試合を「楽しい」と語った遠藤

遠藤はアーセナルの強力な中盤に対しても全くひるまず、攻守にわたって奮闘。前半終了間際にはドリブルで持ち上がり、ハフェルツの激しいチャージに負けずファウルを誘った 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 この試合、遠藤はウーデゴール、カイ・ハフェルツ、デクラン・ライスという、今季のプレミアリーグで最も華麗でフィジカルも抜群に強いアーセナルの中盤と対峙(たいじ)した。

 なかでもハフェルツとは何度も激しくボールを奪い合った。特に中盤からドリブル突破しようとした遠藤にドイツ代表MFが競りかけたシーンは印象的だった。178センチの遠藤に覆い被さるように193センチのハフェルツが襲いかかった。しかし遠藤は右側から左肘を張ってのしかかってくるハフェルツの方向に腰を入れて、ボールに触らせない。15センチの身長差があっても、強靭な体幹と巧みな体の使い方でボールを守る遠藤に業を煮やしたハフェルツは、最後には左腕を突き出し、日本代表主将を押し倒してイエローカードを受けた。

 あのような個人戦を見ても、遠藤がこの世界最高峰のピッチに立つ資格があったことは明白だった。また最後に課題として「勝ちにつながるプレー」と話していたが、センターラインのやや右サイドから、左サイドを走るルイス・ディアスにピンポイントでつけた縦パスは、アレクサンダー=アーノルド級のクオリティだった。さらに左サイドからコディ・ガクポの頭を経由してファーサイドのモハメド・サラーに渡ったパスもゴールに直結するボールだった。

 しかも得意の1対1で効果的なボール奪還を度々見せて、攻撃の起点になった。

 願わくば、後半27分、カウンターから独走したサラーからのラストパスを受けたアレクサンダー=アーノルドのフィニッシュがあと数センチ下で、クロスバーを叩かずアーセナル・ゴールに突き刺さってリバプールが勝利を飾っていれば、遠藤の言葉ももっと弾んだことだろう。

 けれどもそんな悔しさも感じていた試合後、筆者が頼もしさとともに喜びを感じたのは、遠藤がこのアーセナル戦を「楽しい」と語った瞬間だった。

 遠藤だけではなく、この日アンフィールドのピッチに立った選手全員にとってこのプレミアの頂上決戦は、己のフットボーラーとしての全能力を絞り出される、まるで底なし沼のようなタフな試合だった。ところがそんな極限のフットボールマッチを30歳の日本代表主将は嬉々として体験していたのである。

「やっぱりサッカー選手になって、一番の夢、子どもの頃から夢として持ってたものというか、はい。サッカーが好きだからやってるっていうね。楽しみながらやってます」

レギュラーにどっかりと腰を下ろしている

プレミアでは4試合連続、全公式戦を通じて6試合連続となるスタメン出場を果たした遠藤は、最高の雰囲気のなか、ビッグマッチのピッチで“楽しみ”ながら最後まで勇敢に戦った 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 昨季はドイツで残留争いに巻き込まれたシュツットガルトでプレーしていた。ところが遠藤は、ドイツの降格圏からイングランドの優勝争いにレベルアップされた突然変異とも言える環境の変化を「子どもの頃からの夢」と語り、サッカー少年の純粋さを持ってエンジョイしているのだ。

 前戦のリーグ杯準々決勝の後、ユルゲン・クロップ監督はウェストハムを相手に5-1の大勝を飾ったというのに「こんな静かなアンフィードは初めてだった」と語って、熱狂度も忠誠心の強さも英国随一のリバプール・サポーターを煽った。

 無論、アーセナルとの天王山直前に行われた試合後のこの発言には、敵にとっては脅威と言うしかないアンフィールド本来の喧騒を取り戻そうとするドイツ人闘将の明確な意図が含まれていた。

 この神にも近い監督の言葉に対し、当然のように激しい気性かつ律儀なリバプール・サポーターが反応した。そしてキックオフ直前に途方もない勝利への祈りを込めて歌われるアンセム『You'll Never Walk Alone』のボリュームがいつにも増して、合唱を妨げようとするアーセナル・サポーターが発するけたたましいノイズを完全にのみ込んだ。

「雰囲気は最高です。でもそれ(You'll Never Walk Aloneの合唱)だけじゃなくて、入場した時の雰囲気も。特に今日はね、ビッグゲームっていうのはみんな分かっているわけなんで。そういうなかで試合ができるっていうのは、サッカー選手としては幸せなことです」

 チーム内ライバルのアレクシス・マック・アリスターが故障したこともあるが、途中出場で豪快な同点弾を叩き込んだフラム戦の後は公式戦全6試合のすべてで先発(注:アーセナル戦の3日後のバーンリー戦でも先発出場した)。アンフィールドの声援にも支えられ、世界最高峰のリバプールというクラブのレギュラーに遠藤がどっかりと腰を下ろしている。

 今後も年末年始の過密スケジュールのなかで厳しい戦いが続くが、日本のサッカー・ファンにとってはここを無事に通過し、来月のアジア杯でいったいどんなプレーを見せてくれるのかと期待に胸膨らませる状況だ。

 リバプール移籍には30歳という年齢が懸念されることも少なからずあったが、そのなかで成長を続ける遠藤に脱帽すると同時に、これからもアーセナル戦で見せた存在感を示して、イングランド・サッカーの頂点にしっかりその名を刻み込んでほしいと願っている。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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