現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

アストン・ヴィラの快進撃と日本人選手の試練 冨安の故障、遠藤が経験した厳しいマーク、三笘の太もも裏…

森昌利

冨安は故障離脱。シェフィールド・U戦で及第点の働きを見せた遠藤は、3日後のクリスタルパレス戦では厳しいマークに苦しみ、同じく12月第2週のプレミア2試合に出場した三笘はインパクトを残せなかった 【Photo by Getty Images】

 今季、プレミアリーグで台風の目になっているのがアストン・ヴィラだ。過去に7度のリーグ制覇を果たしている古豪は、12月第2週に優勝候補のマンチェスター・シティとアーセナルを立て続けに破った。まさに絶好調で、首位をうかがう勢いだ。一方で日本人三人衆は、アーセナルの冨安健洋がケガで戦列を離れ、シェフィールド・ユナイテッド戦とクリスタルパレス戦で先発出場したリバプールの遠藤航は、前週の活躍からややトーンダウン。戦列に復帰して間もないブライトンの三笘薫は、ブレントフォード戦、バーンリー戦とも本来の出来ではなかった。

クラブ新記録のホームゲーム15連勝

「それじゃ、ここでクイズだ。1982年のチャンピオンカップ(現・欧州チャンピオンズリーグ)決勝戦の先発メンバーを言ってみろ!」

 そんな高揚した台詞が聞こえてきたのは、9月30日にヴィラ・パークで行われたブライトンのアウェー戦の取材を終えて、バーミンガム・ニューストリート駅に向かうバスの中だった。

 もちろんバス内で声高に会話していたのはアストン・ヴィラのサポーターたち。それもそのはず、この試合でアストン・ヴィラは開幕からリーグ戦5勝1敗と好調だったブライトンに歴史的な6-1の大勝を飾っていた。

 しかも5点差をつけたこの勝利で、アストン・ヴィラはブライトンと勝ち点(15)で並んだだけでなく、得失点差で抜いて5位に浮上した。大勝劇に沸き、順位も上がったついでに、サポーターたちが欧州最強だった41年前を振り返りたくなったのも無理はない。

 イングランド・フットボール史の中でもアストン・ヴィラは非常に重要なクラブである。1874年に創立され、1888年に12クラブで開始されたイングランド・プロリーグに参加した由緒あるクラブだ。イングランド1部リーグ優勝7回は、マンチェスター・ユナイテッド(20回)、リバプール(19回)、アーセナル(13回)、エヴァートン(9回)、マンチェスター・シティ(9回)に続く史上6位。また冒頭の会話にあるように、1981-82シーズンの欧州チャンピオンカップ優勝クラブ。マンチェスター・U、リバプール、ノッティンガム・フォレスト、チェルシー、そして昨季に初優勝を飾ったマンチェスター・Cとともに、イングランドで6つしかない欧州最強戦制覇を経験したクラブの一つである。

 加えて本拠地のバーミンガムはロンドンに次ぐ英国第二の大都市。当然ながら地元のファン層は厚く、クラブとしてのポテンシャルは非常に大きい。

 しかし2015-16シーズンにチャンピオンシップ(英2部)へ降格したことでも分かるように、近年は歴史的な格とクラブのサイズに反比例するような戦績で、ファンの失望と欲求不満が高まっていた。

 そんなアストン・ヴィラに昨季、異変が起こった。スティーブン・ジェラード監督を解任して元アーセナル監督のウナイ・エメリをビジャレアルから引き抜き、イングランドに連れ戻してから快進撃を開始。一時は残留争いに巻き込まれたチームをスペイン人知将が見事に立て直し、最終的にリーグ7位に引き上げてヨーロッパカンファレンスリーグの出場権をもたらした。

 そして昨季終盤の大躍進を今季につなげたアストン・ヴィラは、先週行われた2試合で149年間のクラブ史で14が最長だったホーム戦の連勝を15まで伸ばした。しかも、先週対戦したのはマンチェスター・Cとアーセナル。優勝候補筆頭の2チームを相手に水曜日夜、土曜日夕方にともに1-0の勝利を飾り、輝かしいクラブ新記録を打ち立てた。

奇跡の優勝を果たしたレスターを彷彿させる

マンチェスター・Cとアーセナルをヴィラ・パークで連破。昨季から続くプレミアでのホーム連勝を15まで伸ばしたアストン・ヴィラは、現在首位リバプールに2ポイント差の3位につける 【Photo by Robbie Jay Barratt - AMA/Getty Images】

 いやはや地元のバーミンガムは大騒ぎだろう。あのえんじ色と鮮やかな水色の組み合わせは、ウェストハムやバーンリーもチームカラーにしているが、これはアストン・ヴィラがオリジナル。筆者にとっては非常にイングランド的な配色(イングランドでしか見た覚えがない)で、このコンビネーションのTシャツや帽子をかぶった女性はなぜか非常に可愛らしく見える。

 それはさておき、先週の2連勝でエメリ監督に対して当然のように「今季の優勝争いに名乗りを上げたと思うか?」という質問が飛んだ。しかし経験豊富で、アーセナル解任の雪辱を狙う知将は、絶好調のチームに余計な重圧がかかることを避けるように「もしも30試合を越えて、32試合を終えたくらいでも今の位置にいたらそういう話をしてもいい」と素っ気なく答えた。

 イングランド中部のクラブの“突然変異的絶好調”ということでは、岡崎慎司がイングランド・デビューを果たした2015-16シーズン、ブックメーカーが“ありえない”と判断してつけた5001倍の優勝オッズを嘲笑うように「奇跡の優勝」を成し遂げたレスターを彷彿させる。

 ただしあのシーズンは、マンチェスターの2クラブをはじめ、同じくクオリティで大きくまさるアーセナルやトットナムも自滅し、ユルゲン・クロップ体制の1年目だったリバプールも8位。レスターに神風が吹いた展開となった。

 あの時との比較では、今季は序盤戦でマンチェスター・Cに少々ブレーキがかかった印象はあるが、このチームは例年2月以降に全く負けなくなる。それに昨季2位の雪辱を期すアーセナルがさらに良化した上にリバプールが復活の気配を見せてもおり、優勝争いのライバルが次々と脱落したレスターのような幸運に恵まれる可能性は低そうだ。

 とはいえ、今季のアストン・ヴィラの快進撃は8年前のレスターの躍進に勝るとも劣らない熱気を感じ、胸躍るものがある。マンチェスター・C、アーセナルに連勝した勢いをさらに加速させ、奇しくもレスターが優勝したシーズンに2部へ降格したアストン・ヴィラが奇跡を起こすのか。そんな因縁も感じながら、今後もこのミッドランドの古豪に注目したい。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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