珠玉の演技が続いたフィギュア全日本 “神試合”を作り上げた日本男子の切磋琢磨
熾烈な戦いとなった全日本男子のフリー。自らが持つ力をそれぞれが出し切り、ビッグハットが「特別な空間」となった 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
練習から漂う予感「みんないい演技するんだろうな」
最終グループのひとつ前となる第3グループから好演技が続き、ビッグハットの熱気は高まっていた。19時55分、最終グループのショート上位6名がリンクに入る。最初に滑走したショート6位の友野一希は、3本の4回転を着氷。続くショート5位の佐藤駿も、4回転ルッツを皮切りに3本の4回転を成功させる。グランプリファイナル進出を逃した二人が、世界選手権代表選考会を兼ねたこの全日本選手権にかける思いを演技で示した。
3番目に滑走する三浦佳生は、ファイナルで患った胃腸炎が完治しないまま今大会を迎えた。体調が万全ではない中、それでも三浦は疾走感あふれる『進撃の巨人』を披露する。
三浦はフリー冒頭のジャンプを、予定していた4回転ループではなくトリプルアクセルからの3連続ジャンプに変えて成功させた。演技後三浦は、公式練習で4回転ループにトライした際の感触から、リスクを避ける決断を下したと説明している。
「みんな状態がいいので、『いい演技してくるだろうな』と予想していた。絶対(失敗のリスクがある4回転ループを)抜いて、少しでもいい点数、いい順位を取りにいこうという気持ちでいきました」
3本の4回転を着氷させ、最後までスピード全開で滑り切った三浦は、リンクサイドに戻りながら涙を見せた。
「(現地に)来た時からいろいろなトラブルがあったので、そういったものを含めてやり切れて、涙がちょっと出てきたという感じです」
三浦のフリーは186.17、合計点280.08で、この時点での暫定首位に立つ。
次に滑走するのは、ショート3位の鍵山優真だ。鍵山は、他の選手の演技を「見ないようにしていました」と振り返る。
「『みんないい演技するんだろうな』って、練習からすごく感じていたので。第3グループの後半あたりから徐々にお客さんも盛り上がっていたので、『僕もその波に乗れるように頑張りたいな』と思っていました」
鍵山は『Rain, In Your Black Eyes』を滑り始める。冒頭の4回転サルコウは、4.30の加点がつく美しいジャンプになった。その後もほぼ完璧といっていい滑りを展開し、見どころとなるステップシークエンスにさしかかったところで、鍵山はつまずいた。「スピンもステップもジャンプも全部GOE(加点)、レベルをとるつもりで、全力でやっていた」という鍵山の足には、もう力が入らなかった。
「『やってしまった』と思った。少しでも失敗したら、(音楽に)遅れるプログラムなので。でも、冷静に対処はできたかなと思います」
焦る気持ちを落ち着かせ、鍵山は徐々にテンポが上がっていく曲の先をいくようなステップを踏み、プログラムを完遂する。鍵山のフリーは198.16、合計点は292.10で、その時点での首位となった。