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アストン・ヴィラの快進撃と日本人選手の試練 冨安の故障、遠藤が経験した厳しいマーク、三笘の太もも裏…

森昌利

離脱の冨安は「自分をもっと強くする機会」と力強く復帰を誓う

12月9日のクリスタルパレス戦。プレミアで初めて2戦連続でスタメンに名を連ねた遠藤だったが、徹底マークで動きを封じられ前半限りでピッチを去った 【写真:REX/アフロ】

 さて、アストン・ヴィラの絶好調とは対照的に、先週は日本人選手にとって厳しい1週間となった。

 まずは冨安健洋。先々週は11月29日に行われた欧州チャンピオンズリーグの試合で前半の45分だけの出場だったが2アシストを記録。続く12月2日のウルヴァーハンプトンとのリーグ戦でも先制点をアシストした。

 このように、右サイドバックのレギュラーの座をベン・ホワイトから奪い、攻撃面で凄まじい進境を見せていた。ところがウルヴァーハンプトン戦の後半34分に左足のふくらはぎを押さえてピッチ上に座り込むと、そのまま退場してしまった。

 それでも、ゆっくりとした足取りではあったが、自分の足で歩いてピッチを降りたこと。そしてミケル・アルテタ監督が「冨安はストロングボーイ」と試合前日の会見で発言していたことに一縷の望みをかけて、3日後のアウェーのルートン戦の取材に向かった。

 けれどもふたを開けてみればやっぱり冨安はベンチ外。一時は2-3と相手にリードされたところからカイ・ハフェルツが右足で決めて同点に追いつき、後半アディショナルタイムの最終分、主将マーティン・ウーデゴールのクロスにデクラン・ライスが頭で合わせて4点目を奪った劇的な逆転勝利で試合後の会見は祝勝ムードが支配し、絶好調だった日本代表DFの不在は忘れられていた。

 そんなお祭り騒ぎの雰囲気の中の会見で、筆者は最後の質問者として冨安の状態について尋ねた。すると、逆転勝利の直後で終始笑顔が絶えなかった41歳スペイン人青年監督が一瞬で真顔となり、「スキャンをした。いいニュースではない。ふくらはぎのケガでしばらく欠場する」と、いかにも残念で仕方がないという口調で語った。

 アルテタ監督がこの時、どのくらいの期間で全治するのか明言しなかった上、 英メディアの報道にも「全治4~6週間」と幅があり、アジアカップ出場が微妙な状況となった。

 ただし冨安本人は自身のインスタグラムで「ケガにはうんざりだ」と前置きしながらも、「しかしこれが自分をもっと強くする機会だと信じている」と英語で綴って、力強く復帰を誓った。

 また遠藤航も、先々週土曜日のフラム戦で劇的な同点弾を見事な右足のミドルシュートで決め、4-3逆転勝利のヒーローの1人となって、続くシェフィールド・ユナイテッドとのアウェー戦で待望の先発。ここで90分間フル出場を果たして2-0完勝にしっかりと貢献した。

 ところがアウェー2連戦となったクリスタルパレス戦にも先発すると、クロップ監督は前半45分間のプレーで日本代表主将を引っ込めてジョー・ゴメスを送り出し、右サイドバックのトレント・アレクサンダー=アーノルドを6番のポジションに入れた。

 それはこの試合で、クリスタルパレスのロイ・ホジソン監督が遠藤をマンマークの標的にしたからである。イングリッシュのMFウィル・ヒューズが日本代表主将を執拗にマークした。守備と攻撃の谷間でプレーする新加入選手を潰し、リバプールの攻撃の起点を機能させないことを目論んだのである。

 しかもホジソン監督の指示は徹底していた。遠藤がボールを持つとヒューズをはじめ誰かが必ず足を出してくる。「あいつにスペースを与えるな! とにかくプレーを邪魔しろ、自由にさせるな!」という元リバプール監督の思惑が伝わってきた。

 ただこれは76歳老将の面目躍如といった戦術だった。イングリッシュの監督には、こうした反則まがいの肉弾戦を選手に強いて当然という傾向がある。ウェストハムのデイヴィッド・モイズ監督、それにエヴァートンのショーン・ダイチ監督のフットボールにも、それがボールであろうと相手選手の足であろうと「とにかく蹴れ!」という指示が見え隠れする。

 遠藤はこの試合で、そんなオールドスタイルのイングリッシュ・フットボールの洗礼を受けたというわけだ。

 確かに見せ場は作れなかったが、これも一つの経験。今後はプレースピードをもう一段階上げて、ワンタッチの素早いパス回しを取り入れることでこうした試合にも対応していくことになるだろう。

絶好調時の三笘ならばシュートを決めていた

バーンリー戦の三笘は後半頭から出場。惜しいシュートもあったが、エースとしてチームに勝利をもたらせなかった。右ハムストリングの状態はまだ万全ではないようだ 【写真:REX/アフロ】

 最後に三笘薫だが、こちらもどうも良くない。確かに週中のブレントフォード戦では先制点を奪われた直後の同点弾をアシストして、久しぶりにゴールに絡んだ。

 しかし試合後に話を聞くと、90分間のフル出場については「久々できつかった」と発言。前週のチェルシー戦後に「右足のハムストリング(太もも裏)」と故障箇所を明かしていたが、筋肉系のケガはいつ再発してもおかしくない。

 ブレントフォード戦後に「そんなに大きいの(ケガ)はたくさんしているわけではないですけど、大体は分かりますし、そのなかでやるべきかやるべきでないかを判断しながら、しっかり話し合いながらやってる」と語った26歳MFの言葉には、まだ右足の太もも裏の故障が完全には癒えていないというニュアンスも含まれていた。

 筆者にはフットボール狂のイングリッシュの友人が何人もいるが、妻のビジネスパートナーの夫であるグラハムとは特に仲が良い。1953年生まれで、物心ついた頃からフットボールの虜となったグラハムは、「昔のフットボールでケガと言えば、大抵が接触プレーによる骨折だった」と言う。そして「ハムストリングなんて言葉は聞いたことがなかった」と付け加えた。

 これはやはり、スピードと強さを求める現代のフットボーラーがウェイトトレーニングに重点を置いている弊害だろう。速さと強さのレベルが格段に上がったフットボール・マッチの中で全力を尽くす選手は、その代償として筋肉を痛めるリスクを負った。

 チェルシー戦では、三笘のトレードマークである高速の大きな切り返しの幅がやや狭くなっているように見えた。それが先週の2試合では本来の動きが少し戻ってきている印象だったが、直近のバーンリー戦で前半の休みをもらったのも「相談しながらやっている」というハムストリングの具合が“完調ではない”証だろう。

 もしもあの試合、三笘が昨季の絶好調時と同じ体調であれば、後半18分に右足で放ったシュート、もしくは試合後に本人が「もうちょい当てれば入っていたと思います」と語って唇を噛んだ、後半アディショナルタイム7分のシュートが決まっていた、と思うのは身びいきがすぎるか。

 しかしこれも、今季からヨーロッパ戦に出場するクラブの大黒柱となったアタッカーの宿命でもある。過密日程とケガを乗り越え、これから選手としての全盛期を迎えるであろう三笘がプレミアのピッチでさらに輝くことを心から願っている。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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