「MVP級」の活躍だった豪代表FWデューク ハードな日程でもタフにプレーし、J2町田の窮地を救う

大島和人

エリキ負傷後には「スコアラー」に

終盤戦は得点源としての役割も果たした 【(C)FCMZ】

 エリキの負傷はチームの根幹を揺るがしかねない事態だった。ただそれはデュークの責任感を目覚めさせるスイッチになった。

「私とエリキのコンビネーションはハマっていて、そこから得点できていた部分もありました。自分は彼の役割を背負わなければいけないという分析もありましたから、攻撃陣のひとりとしてそこは奮起してやったつもりです」

 彼は清水戦に続くモンテディオ山形戦でゲームキャプテンを任され、5-0の快勝に貢献。個人の成績を見ても、エリキ負傷後は10試合に出場し5得点を挙げている。

「キャプテンマークを巻いたのは山形戦でしたけど、本当にエリキのためにやらなければいけないという思いもありました。代表でもキャプテンマークを巻いたことがありましたし、町田は若手もたくさんいますから、自分は引っ張っていかなければいけない立場です。そういう部分でも、キャプテンマークを巻いたことには意味がありました」

代表活動で各大陸と日本を往復

昨年11月のW杯で得点を決め、その後も豪代表に招集されている 【写真:ロイター/アフロ】

 シーズンを見ていて、彼を可哀想に感じることもあった。競り合いが圧倒的に強いデュークに対して、相手DFはファウルを覚悟した激しいコンタクトを仕掛けてくる。Jリーグの判定は後方からのコンタクト、手を使ったプレーに寛容で、これは「フィジカル系アタッカー」にとって不利なスタンダードだ。ナイスガイのデュークが相手や審判に対して明らかに苛立っている試合もあった。

 デュークが背負っていた最大の重荷は、クラブと代表の掛け持ちだ。町田加入後には3月14日・28日、6月15日、9月10日、10月14日・18日のオーストラリア代表戦に招集されていて、彼はそれぞれオーストラリア、中国、アメリカ、イギリスと日本を往復した。11月16日にはバングラデシュとのW杯アジア2次予選が組まれていて、そこにも招集されている。

 デュークは言う。

「代表活動でリーグ戦に出られないことが多く、チームに迷惑をかけましたし、私にとってもストレスでした。今から代表に合流しますし、(1月には)アジアカップもあって、なかなか休みがないですけど、ただ来年はしっかりコンディションを整えて帰ってきたいと思います」

 直近では10月18日のニュージーランド戦を終えてイギリスから帰国したが、22日のロアッソ熊本戦、29日のツエーゲン金沢戦はベンチスタートだった。監督としても、直近の試合で結果を出したメンバーを変更する判断は難しい。

「チームが上手くいっていて、なかなか先発に戻ることが難しかった時期もありました。ベンチにいる腹立たしさもありましたけど、ただ途中から出て、チャンスを生かして結果を出せば、次につながることも分かっていました」

J2最終戦を終え、そのまま夜行便で移動

 序盤戦にはケガで離脱した時期もあった。代表戦の影響で抜ける、先発から外れる試合もあった。ただこの男は献身的で、ゴールがない試合でもコンスタントに自分の役割を果たしていた。何よりチームを引っ張るメンタリティを持っていた。今シーズンの町田、J2からひとりMVP(最優秀選手)を選ぶなら、それはデュークではないだろうか?

 J1は国際Aマッチデーにリーグ戦が組まれないため、昇格は彼とチームにとって大きな救いとなる。

 ただデュークの2023年はまだ終わっていない。仙台戦を終えたデュークは15時半過ぎに他の選手より一足早く取材対応を終え、チームスタッフに急かされながらタクシーに乗り込んだ。彼はW杯予選を戦うオーストラリア代表へ帯同するために、羽田空港発のカンタス航空夜行便に乗る必要があり、自宅でなくメルボルンに向かっていた。

 ハードスケジュールをこなしながら、タフにプレーし続けて、チームをJ2制覇に導いたーー。そんなオーストラリア生まれの愛すべき働き者に、心からの称賛を送りたい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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