西浦颯大『もう一回野球させてください神様』

西浦颯大の人生を変えた甲子園での満塁ホームラン 大会後の変化と馬淵史郎監督からの教え

西浦颯大

馬淵史郎監督の「棚ぼた理論」

 高校3年間お世話になった馬淵監督は、本当に厳しかったんですけど、言われたことは正しかったと感じています。高校生だった当時は理解できなかったんですけど、あとになって、「あー、こういうことなんだな」と思うことはかなりたくさんありました。

 そのひとつが、「棚からぼたもち理論」です。

 監督は、「棚からぼたもち」の話を僕らに何度も言い聞かせていました。本当にもう口癖のように。
「棚からぼたもち」という言葉は、一般的には、「思いがけない幸運が舞い込むこと」や「苦労せずによいものを得ること」という意味で使われていると思います。でも、馬淵監督の「棚ぼた理論」には少し違った、深い意味があります。

 棚からぼたもちなんて落ちてこないだろうと思って、離れたところにいる人は、ぼたもちがパッと落ちてきた時に、いつまで経っても拾うことなんてできない。いつくるかわからないその時に備えて、常に「落ちてくる」と思って、棚の一番近くで準備し、手を伸ばしていた人が、ぼたもちを拾うことができる。

「結局は、努力し続けることが一番の近道」だという意味です。

 野球に置き換えると、「どうせ自分にはチャンスなんかこない」、「レギュラーなんか獲れない」、「全国優勝なんか無理だ」と思ってサボッている人は、いざ監督が使ってくれるとか、チャンスがきても、そのチャンスをものにすることなんてできない。
そういう選手はいつまで経ってもレギュラーにはなれない。

「いつかきっとチャンスはくる」
「レギュラーを絶対獲ってやる。逃さない」
「全国優勝してやる!」

 そういうふうに思い続けて、常に努力し、備えている人が、いざチャンスがきた時に、それをものにすることができる……。深いな、と思いました。

 それは野球だけでなく、人生にも言えることだと、よく話してくれました。
 監督と話をすることは多くないんですけど、たまに家に呼んでもらって、奥さんの智子さんが作ってくれたご飯を食べさせてもらうことがありました。監督の家は寮とつながっていたので。

 たぶんレギュラーメンバーを2人ずつぐらい、順番に呼んでいたんじゃないかと思いますが、たまに呼ばれるのが、なんだかうれしかったですね。なにを話していいのかわからないので、その時間はめちゃくちゃ気まずかったんですけど(苦笑)。

書籍紹介

【写真提供:KADOKAWA】

小学6年生でソフトバンクジュニアに選出されるなどセンス抜群の野球少年だった西浦颯大。
中学、高校と輝かしい経歴を歩み、オリックスではあのイチロー以来、10代でホームランを記録するなど華々しい野球人生を歩んでいた。

そんな“野球に愛された男”に突然の病魔が襲い掛かる……
国の指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」を患い、医師から告げられたのは「復帰は8割強、無理」という非情通告……
懸命にリハビリに励むも、復帰は叶わず、22歳の若さで球界を去ることに……

引退を決めた後輩に、山本由伸、宗佑磨がヒーローインタビューで投げ掛けた言葉とは? 
中嶋聡監督が取った意外な行動とは? そして西浦が引退試合で許された「たった1球の物語」とは――?

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