西浦颯大の人生を変えた甲子園での満塁ホームラン 大会後の変化と馬淵史郎監督からの教え
馬淵史郎監督の「棚ぼた理論」
そのひとつが、「棚からぼたもち理論」です。
監督は、「棚からぼたもち」の話を僕らに何度も言い聞かせていました。本当にもう口癖のように。
「棚からぼたもち」という言葉は、一般的には、「思いがけない幸運が舞い込むこと」や「苦労せずによいものを得ること」という意味で使われていると思います。でも、馬淵監督の「棚ぼた理論」には少し違った、深い意味があります。
棚からぼたもちなんて落ちてこないだろうと思って、離れたところにいる人は、ぼたもちがパッと落ちてきた時に、いつまで経っても拾うことなんてできない。いつくるかわからないその時に備えて、常に「落ちてくる」と思って、棚の一番近くで準備し、手を伸ばしていた人が、ぼたもちを拾うことができる。
「結局は、努力し続けることが一番の近道」だという意味です。
野球に置き換えると、「どうせ自分にはチャンスなんかこない」、「レギュラーなんか獲れない」、「全国優勝なんか無理だ」と思ってサボッている人は、いざ監督が使ってくれるとか、チャンスがきても、そのチャンスをものにすることなんてできない。
そういう選手はいつまで経ってもレギュラーにはなれない。
「いつかきっとチャンスはくる」
「レギュラーを絶対獲ってやる。逃さない」
「全国優勝してやる!」
そういうふうに思い続けて、常に努力し、備えている人が、いざチャンスがきた時に、それをものにすることができる……。深いな、と思いました。
それは野球だけでなく、人生にも言えることだと、よく話してくれました。
監督と話をすることは多くないんですけど、たまに家に呼んでもらって、奥さんの智子さんが作ってくれたご飯を食べさせてもらうことがありました。監督の家は寮とつながっていたので。
たぶんレギュラーメンバーを2人ずつぐらい、順番に呼んでいたんじゃないかと思いますが、たまに呼ばれるのが、なんだかうれしかったですね。なにを話していいのかわからないので、その時間はめちゃくちゃ気まずかったんですけど(苦笑)。
書籍紹介
【写真提供:KADOKAWA】
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