苦悩の先に希望を見出す、羽生結弦の「RE_PRAY」 「考えるきっかけの一つであってほしい」

沢田聡子

プロスケーターとして進化を続ける羽生結弦 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

『鶏と蛇と豚』でみせた新たな表現

『いつか終わる夢』で始まり、『春よ、来い』で終わる「RE_PRAY」は、苦悩を抱えながらも進み続け、やがて希望を見出す羽生結弦の内面をさらけ出すアイスショーだ。

 初めての単独ツアーとなる羽生の「RE_PRAY」は、11月4日、さいたまスーパーアリーナでスタートした。ゲームをテーマとした今回のショーは、今年2月に東京ドームで行われた「GIFT」に連なる内容といえる。

「ゲームや漫画・小説から、『自分の人生って何だろうな』とか『命って尊いものだな』とか、皆さんが感じているようなことを、僕自身もいろいろな作品から受け取って」

 公演後の囲み取材で、羽生はこの「RE_PRAY」のテーマについてそのように説明している。

「すべての障害を乗り越えて夢・目標をつかんで、という人生があったとして、それがもう一回繰り返されるのだったら皆さんは何を選ぶだろうか。皆さんが何を選んで何を感じるのかなということを、このICE STORYの中で皆さんに考えてもらいたい、というのが、今回のテーマです。一言でまとめるのが難しくて申し訳ないのですが、このストーリー自体で答えを出してほしいというものではなくて、考えてもらいたい。考えるというきっかけの一つであってほしいのが『RE_PRAY』という物語であり作品かなと、僕は思っています」

 1万4000人の観客からの熱い視線を受けて登場した羽生が最初に滑ったのは、競技会で4回転アクセルを成功させる夢が叶わなかったことを表現する『いつか終わる夢』だった。「怖い」「独り」「真っ暗」「希望」「応援」「夢」という文字が流れる氷上を、羽生が滑る。

 続いて演じられるのは、『鶏と蛇と豚』(椎名林檎)を使った新プログラムだ。仏教の“三毒”、つまり煩悩を意味するタイトルの楽曲で、冒頭で流れる般若心経と共に黒い衣装の羽生が登場する。鋭角的な動きでダークな雰囲気を醸し出す羽生は、また新しい表現を手に入れたようだ。

 2017年世界選手権を制した時のフリー『Hope & Legacy』に続き、羽生が氷を蹴る音だけが響くパートをはさんで、2つ目の新プログラム『Megalovania』が始まる。多彩なスピンを駆使して疾走感を醸し出し、大きな拍手を浴びた後には作品の一部として演出された6分間練習を経て、3つ目の新プログラムに入っていく。

「プログラム自体がラスボスというイメージ」という『破滅への使者』は、4回転を含む試合のプログラムのような高難度構成だ。このプログラムでみせたトリプルアクセル―オイラー―3回転サルコウ―オイラー―3回転サルコウという試合では組み込めないジャンプについて、羽生は「繰り返されていくジャンプなので、テーマにもすごく沿っていいんじゃないかなというのと、あと音的にもすごくはまるかなということを考えました」と説明している。第1部の最後に配したこのプログラムを滑り切った羽生を讃える拍手が、会場を満たした。

 スクリーンに、どこまでも戦い続けなければならない競技生活の過酷さを思わせる「セーブデータが壊れています」という文字が表示され、第1部は終わる。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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