トレバー・バウアーに独占インタビュー

細部にまでよく気が付くバウアー アメリカとの違いを意識しながら取り入れた日本の長所とは

丹羽政善

9月中旬、リハビリの合間にインタビューを実施 【スポーツナビ】

 2019年に来日した際、秋葉原に寄ったあとで、ホテルに戻るタクシーの車内だった。外堀通りを走っていると、右手に東京ドームが見えてきた。そのとき不意に、トレバー・バウアー(DeNA)が口にした。

「日本にも、サイ・ヤング賞のような賞があるの?」

 沢村賞というのがあると伝えると、「メジャーでサイ・ヤングを取ったら、いつか沢村賞も狙ってみたい」と言いながら、東京ドームの方に顔を向けた。

 翌年、ナ・リーグのサイ・ヤング賞を獲得。日本でも今年、その可能性が出てきた矢先だった。5月27日以降、8月25日の中日戦を終え、15試合に登板すると、112回2/3を投げて、9勝2敗、2完投。防御率2.00。

 9月も中4日で投げ続ければ、逆転もあるのか? というところだったが、8月30日の阪神戦で、三塁前のゴロを処理した際に右足付け根を痛め、顔を歪めた。翌日は右足が上がらず、検査の結果、「右腸腰筋遠位部損傷」と診断された。離脱が1ヶ月を超えることが確実となると、その可能性が潰えた。

「仕方がない」

 検査結果が出てから、「掛ける言葉がない・・・」とメッセージを送ると、そう返信があった。

 当初、インタビューを9月2日に行う予定だった。ケガで延期となったが、9月16日にリモートで行うと、「前日から、軽く走り始めた」と明かし、「リハビリは順調」と思ったより明るい表情だった。

いやなことがあっても24時間以降は切り替える主義

 彼には、「24時間ルール」というのがある。気持ちが落ち込んだとき。打たれたとき。とにかく24時間は後悔してもいい。マイナスなことを考えてもいい。彼だけのマイルール。しかし、24時間が過ぎたらとにかく前を向く。ネガティブなことはいっさい考えない。今回のケースでももう、復帰だけに集中していた。

 リハビリの経過を聞くと、「まずは、普通に歩けるようになるところから始めて、そこから可動域を出し、筋量を戻していく。そういったプロセスを一歩一歩、進めているところ」と説明。それから2週間ほどでライブBPにも登板したことで、14日から行われたCS(クライマックスシリーズ)での登板も視野に入るほどだった。

 彼は通常、なにかがあったとき、その原因を徹底的に探る。後編で改めて別のケースを紹介するが、ケガに関してはどうだったのか? 疲労に起因し、思うように体が動かなかったのか。どこかに張りがあり、普段とは違う動きになったのか。本人もいくつかの可能性を考えたようだが、思い当たる節はなかった。

「ケガの前兆はなくて、そのときのジャンピングスローの結果、ケガに繋がったと思う。プロのレベルで、一瞬のタイミングで全力プレーをすると、そういったケガをしてしまうことがあるので、今回もそういう偶発的な動きが、ケガにつながった」

 不可抗力。強いて言えば、競争心の強さが、ケガを招いた。

 さて、そんな近況を聞いた後で、まずは、日本での生活ぶりを聞いた。5月終わりに話をしたとき、「日本の食事が美味しくて、体重が増えてしまった」と苦笑した。「本当にお寿司は美味しい。気づくとたくさん食べてしまうが、そうなると、一回で摂取する炭水化物の量も相当なものになるので、それが原因かも」。

 その後、どう? と聞くと、やはり日本の食習慣にどう適応するかは、課題のひとつだったそう。

「日本では脂身の多い肉がいいとされているけど、アメリカでは赤みの付いている肉のほうが美味しいとされている。だからまず、自分に合う肉を探した」

 日本では確かに“霜降り”の方が人気。アメリカでは逆に“脂”として敬遠されがち。そうした違いも理解する必要もあった。

 また、「日本では、一食に必ずご飯や麺がついてくる。そうした炭水化物の多さも、シーズン当初の体重増につながったと思う」とのこと。「でも、来日してから3〜4週間かけて、自分にとってどういう栄養環境がいいのか、徐々に見つけることが出来て、最終的には206〜209パウンドという、自分が理想とする体重に落ち着くことができた」。

 アメリカでは、カロリー計算された食材宅配サービスを利用していたバウアー。朝など、必要なものをすべてジューサーにかけ、それを飲み干していた。調理時間、食器を洗う時間も短縮できるからだ。日本ではそこまでしてないようだが、食事に行くときは、美味しいものというより、そのときに必要なものを摂るようにしているそう。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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