トレバー・バウアーに独占インタビュー

細部にまでよく気が付くバウアー アメリカとの違いを意識しながら取り入れた日本の長所とは

丹羽政善

オフの時間を有効活用できるところが日本野球の利点

日本でのプレーを経てバウアーはアメリカとの差異をポジティブに捉えるようにしていた 【写真は共同】

 ところで、1軍に合流して間もないころ、もう一つの戸惑いを口にしていた。

「先発の翌日とか、登録枠の都合で、ベンチに入れない。遠征にも帯同しない。その時間、どうしたらいいかわからない」

 メジャーリーグでは、常にチームに帯同する。先発が遠征初日で、前日の移動が深夜になる場合だけは、前乗りする。それが当たり前だっただけに、時間を持て余した。ただ、その部分でもすっかり順応していた。

「それぞれにメリット、デメリットがある。アメリカでは、先発日ではないのにチームに帯同して移動することで、自分の練習が出来ないとか、移動が多いとか、デメリットを感じる部分もあった。でも、アメリカでは、常に一緒に動いているので、勝利の喜びであったり、負けの悲しみであったりとか、肌身で感じることができる」

 日本では?

「自分の必要とされる練習をしっかりできる。また、オフのときに時間を有効に使える。その点では、日本のほうが優れているかなと思う。どちらがいいか、悪いか、というよりは、それぞれに良し悪しがある」

 そんな空いた時間を使ってハマったのが、グローブ造りだった。様々なメーカーを訪ねて工程を学ぶと、ネットで革などを購入し、パターンを組み上げた。いま、その自作グローブが完成しつつある。

「最初はまったくだったけど、練習するにつれて、グローブの製作技術もどんどん向上していった。自分で革を調達して、そこからパターンを組んで、組み上げるというところも、いまはある程度のレベルまで出来ている。近日、YouTubeに上がると思うので、楽しみにしていて」

 彼はかつて、スパイクにも興味を持った。2019年に来日したときも、時間の関係で回れなかったが、日本のメーカー訪問を考えていた。今回、それが実現し、スパイクの構造、製造工程をいろいろ勉強した結果、さすがに自作は難しいと感じたという。

「踏み込んだとき、あるいは、回転のときに、かなり負荷がかかる部分なので、日本や海外の一流メーカーと同じような品質のスパイクを自分のマンションの一室で作れるとは思えない」

 とはいえ、日米の違いには興味をそそられた。

「日本のスパイクのほうが薄底で、平らなソールの形になっているので、地面を感じやすい。 アメリカは、よりソールが厚くて、人間の足にフィットした形になっている。クッション性はあるが、地面は感じにくい。つま先も、日本のスパイクだとP革が付いているが、アメリカの方だと、樹脂でコーティングしたようなスパイクが、少なくとも自分が履いてきたスパイクは多くて、そこに違いがある」

 なお、日米でボールに違いがあることは知られているが、バウアーは、さほど気にならなかったよう。

「縫い目が高く、日本のボールの方がアメリカの硬式球と比べると少し大きいと感じたけど、そこまで大きな違いを感じなかった」

 ただ、投げているうちに、思ったようなボールの軌道が出せないことから、改めてボールを調べて気づいた。

「一番大きな違いは、ツーシームの握りをしたときのシームとシームの幅。日本の方が少し広いと感じるので、それによってツーシームを投げる際の空気抵抗が少し変わってくる。ツーシームの調整は、シーズン序盤の早いタイミングから取り組んできた」

 大リーグの公式球の場合、シームとシームの幅は2センチ。日本プロ野球の公式球は2.5センチ。この5ミリの差が、縫い目の後ろにできる空気の流れを変え、軌道に変化をもたらす。そういうところに気づくのが、いかにもバウアーらしい。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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