目前で五輪切符を逸したバレー女子日本 敗戦も「始まり」を予感させた急成長ぶり

田中夕子

ブラジルとの最終戦に敗れ、五輪出場権を獲得できなかった日本。目標は未達に終わったが、今後を期待させる戦いぶりが光った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ワールドカップバレー2023を兼ねたバレーボールのパリ五輪予選(OQT)が、中国、日本、ポーランドの3ヵ国で開催された。各グループ上位2ヵ国にパリ五輪出場権が与えられる戦いにおいて、最終戦を2位で迎えた日本女子代表は3位ブラジルとの直接対決にフルセット(21-25、25-22、25-27、25-15、10-15)の末に敗戦。目標としていた今大会での五輪出場権獲得はならなかった。
 パリ五輪には今大会で勝ち抜いた6ヵ国(ドミニカ共和国、セルビア、トルコ、ブラジル、アメリカ、ポーランド)と開催国のフランスを含めた計7ヵ国の出場が確定した。残りは5枠のみ。2024年5月から行われるネーションズリーグ1次リーグを経て、6月17日時点の世界ランキングで残りの出場国が確定する。五輪出場を懸けた日本の戦いはパリ五輪本番直前まで続く。

予想を上回る戦いを見せるも、あと一歩及ばず

敗戦に肩を落とす日本。井上愛里沙は涙ながらに今後に向けた高い志を語った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 満員の観衆で埋め尽くされた代々木第一体育館。ニッポンコールだけでなく、一角を埋めたブラジルサポーターからのブラジルコールも入り混じる、熱狂の中で繰り広げられたパリ五輪出場をかけた戦い。

 フルセットの大熱戦に決着がついたのは、2時間が過ぎてから。ブラジルのサーブをつなぐことができず、日本コートにボールが落ちた瞬間、今大会で日本の五輪出場権獲得の夢は潰えた。

 終了と共に、選手たちの目から涙があふれる。ブラジル戦でも攻撃の中心となり、スパイク得点を量産したアウトサイドヒッターの井上愛里沙も必死で言葉を絞り出した。

「これほどたくさんの方に応援していただいたにもかかわらず、期待に応えられず本当に悔しいですし、申し訳ないです。でもこの経験を無駄にしないようにしたいと思います。私たちの目標はオリンピック出場ではなく、オリンピックの金メダル。またここから、頑張ります」

 正直に言えば、女子バレーがこれほどの戦いぶりを見せるとは思っていなかった。敗れたとはいえ堂々と、これまで重ねてきた練習のすべてを発揮し、世界ランキング1位のトルコ、そしてバレーボールと言えば誰もが女王として浮かべるブラジルと、五輪出場権をかけてガチンコ勝負を繰り広げるほどのチームに急成長を遂げた。

 その道のりは、決してたやすいものではなかった。

眞鍋監督「これほど練習するチームは初めて」

日本はとにかく練習で汗を流すチーム。眞鍋監督も歴代の代表チームと比較してその勤勉ぶりに太鼓判を押す 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 開幕まで1カ月弱に迫った8月中旬。メンバー14名に絞り込まれる直前の薩摩川内合宿で、最後の紅白戦が開催された。
 
 午前中からボール練習で汗を流し、午後はウエイトトレーニング。二部練習は当たり前で、頭も身体も疲労困憊であるにもかかわらず、それでもなお、全体練習の前には早くから選手が体育館に来て自主練習をして、二部練習の合間の昼休みや全体練習後もとにかく練習に励んだ。

「本当によく練習する。一番早い選手は、全体練習の1時間半前に体育館へ来て練習するんです。これまでも(日本代表)監督をしてきた時間はありますが、これほど練習するチームは初めてでした」
 
 眞鍋政義監督の言葉は、決して大げさではない。事実、紅白戦前日の午後、ウエイトトレーニングのみのメニューが組まれた日の練習前。その日のスケジュールを全体に向けて説明したストレングスコーチが最後にこう付け加えたほどだ。

「大会が近づいてきて、みんな練習したいのはよくわかる。でも、試合までの日が迫ってきて、我々スタッフもその時ピークにできるようにメニューを組んでいます。だから、やりたい気持ちはわかるけれど、どうか今日はトレーニングの後、一切ボールには触らず、自主練習はせず休息して下さい。明日の紅白戦の前も同じ。皆さんが真面目に取り組むことはよくわかっているから、どうか、やりすぎないでほしい」

 5月から7月まで開催されたネーションズリーグはベスト4を目標にしながらも、結果は7位。十分な成績が残せず、不安を少しでも打ち消すために練習したい。選手たちはとにかく必死だった。そして、その成果が最も大事な大会で見事なまでに現れた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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